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5章 魔女に襲われ
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万里子の葬儀は、由起也の知る葬儀からはかけ離れた大規模なものだった。
パパさんの会社の規模を考えれば、できるだけ小規模にしたのだろうとは思う。が、親族はもちろん、グループの主だった役員や社員、取引先が次々と訪れる。葬儀の差配は本社の人たちがやってくれたとは言え、由起也も何かと忙しかった。ずらりと並んだフラワースタンドは百合や胡蝶蘭が主で、万里子にとても似合っていると、由起也は思った。
葬儀が終わってしばらく経った時、由起也は意を決して、パパさんに今後のことについて話をした。由起也の仕事は、花城家の家事はもちろんだが、万里子の世話にも大きな比重がかかっていた。万里子が亡くなった今、このまま花城家にいてもいいのか、由起也は性格的にきちんと確認しないわけにいかなかった。
リビングのソファにゆったりと腰をかけ、由起也が入れたコーヒーを飲みながら、寛治はどこか遠い目をして答えた。
「万里子の最後の願いは、私たち家族が幸せに暮らしていくことなんだよ」
そして寛治は由起也の方へくるりと顔を向けて、言い聞かせるように言った。
「その中にはね、由起也くんも含まれているんだよ。だから、ここを出ていくなんてことは考えないでほしいな」
「パパさん……。ありがとうございます!」
由起也は俯いて涙を堪えようとしたが、できなかった。鼻を啜りながらパーカーの袖口で涙を拭う。
パパさんと隆平、そして万里子にどのように感謝を伝えたらいいのだろう。家族と言える人をみんな失った由起也を、家族のように迎えてくれた花城家の人たち。そして、万里子の最後を通じて深くつながれた。
この感謝をどう言葉にすればいいのかわからなくて、代わりに涙ばかり溢れてくる。
「ほら、泣き止んでくれないと、私が隆平に怒られてしまうよ」
そう笑いながら、頭を撫でてくれたパパさんの手は、とても温かかった。
***
大学は春休みに入った。ようやく落ち着いてきたところで、由起也は公務員試験の勉強を再開した。遅れを取り戻さねばと、春休み期間中は勉強に打ち込むことにしていた。
そんな時、事件は起こった。
加奈子に頼まれて買い物に出た由起也が、花城邸の通用門を開けようとしたその時だった。
腕をぐいっと強く掴まれ、たたらを踏んで振り返った。振り返った先には、見知らぬ老人がギラついた目をして由起也を睨みつけていた。無精髭が生えた顔の色は悪く、目の周りが赤黒い。
「だ、誰?」
「こんなところにいたのか!」
黄色く濁った目でギョロリと由起也を睨んだ老人は、由起也の腕を掴む力を強めた。
「痛いって! 誰ですか、あなたは!?」
「何言ってるんだ! さぁ、来るんだ、由信!!」
父の名前で呼ばれ、由起也はひゅっと息を呑んだ。
この人、多分……父さんのお父さんだ……!
その時、頬に衝撃を受けた。
「ぐぁっ!」
老人が由起也を拳で殴ったのだ。
由起也は痛みよりも驚きで固まってしまった。腕をひっぱられ、すぐ近くに停めてあった車へと引きずられていく。
「い、いやだ……! 離せ……っ」
「いいから来い!」
由起也は必死で抵抗したが、老人の力は強く、揉み合ううちに左の手首を捻られ、激痛が走る。
「いたっ!」
治りきっていない左手首の痛みで、エコバッグを落としてしまい、買ってきた野菜が道路に散らばる。あっと思った時には車のドアが開けられ、由起也は後部座席に押し込められそうになった。由起也は乗せられてはダメだとさらに抵抗したが、はずみで開口部にガツンと頭をぶつけてしまった。
「っ……!」
由起也がくらりとした隙に背中を押され、とうとう後部座席に押し込められてしまった。バタンと閉まったドアを、由起也は必死で開けようとした。しかし、ガチャガチャとレバーを何度引いてもドアが開かない。その間に、老人は運転席に座り、無情にも車は発進してしまった。
由起也は朦朧とする頭で思った。おそらく今から連れて行かれるのは、櫛田の家だろう。この人――お祖父さんはなぜ自分を連れて行こうとしているんだろう。
「もしもし。……お前の言う通りだった。由信を捕まえたぞ」
電話? 相手は誰? オレは父さんじゃない……。
そんなことを考えているうちに、由起也は意識を失ってしまった。
パパさんの会社の規模を考えれば、できるだけ小規模にしたのだろうとは思う。が、親族はもちろん、グループの主だった役員や社員、取引先が次々と訪れる。葬儀の差配は本社の人たちがやってくれたとは言え、由起也も何かと忙しかった。ずらりと並んだフラワースタンドは百合や胡蝶蘭が主で、万里子にとても似合っていると、由起也は思った。
葬儀が終わってしばらく経った時、由起也は意を決して、パパさんに今後のことについて話をした。由起也の仕事は、花城家の家事はもちろんだが、万里子の世話にも大きな比重がかかっていた。万里子が亡くなった今、このまま花城家にいてもいいのか、由起也は性格的にきちんと確認しないわけにいかなかった。
リビングのソファにゆったりと腰をかけ、由起也が入れたコーヒーを飲みながら、寛治はどこか遠い目をして答えた。
「万里子の最後の願いは、私たち家族が幸せに暮らしていくことなんだよ」
そして寛治は由起也の方へくるりと顔を向けて、言い聞かせるように言った。
「その中にはね、由起也くんも含まれているんだよ。だから、ここを出ていくなんてことは考えないでほしいな」
「パパさん……。ありがとうございます!」
由起也は俯いて涙を堪えようとしたが、できなかった。鼻を啜りながらパーカーの袖口で涙を拭う。
パパさんと隆平、そして万里子にどのように感謝を伝えたらいいのだろう。家族と言える人をみんな失った由起也を、家族のように迎えてくれた花城家の人たち。そして、万里子の最後を通じて深くつながれた。
この感謝をどう言葉にすればいいのかわからなくて、代わりに涙ばかり溢れてくる。
「ほら、泣き止んでくれないと、私が隆平に怒られてしまうよ」
そう笑いながら、頭を撫でてくれたパパさんの手は、とても温かかった。
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大学は春休みに入った。ようやく落ち着いてきたところで、由起也は公務員試験の勉強を再開した。遅れを取り戻さねばと、春休み期間中は勉強に打ち込むことにしていた。
そんな時、事件は起こった。
加奈子に頼まれて買い物に出た由起也が、花城邸の通用門を開けようとしたその時だった。
腕をぐいっと強く掴まれ、たたらを踏んで振り返った。振り返った先には、見知らぬ老人がギラついた目をして由起也を睨みつけていた。無精髭が生えた顔の色は悪く、目の周りが赤黒い。
「だ、誰?」
「こんなところにいたのか!」
黄色く濁った目でギョロリと由起也を睨んだ老人は、由起也の腕を掴む力を強めた。
「痛いって! 誰ですか、あなたは!?」
「何言ってるんだ! さぁ、来るんだ、由信!!」
父の名前で呼ばれ、由起也はひゅっと息を呑んだ。
この人、多分……父さんのお父さんだ……!
その時、頬に衝撃を受けた。
「ぐぁっ!」
老人が由起也を拳で殴ったのだ。
由起也は痛みよりも驚きで固まってしまった。腕をひっぱられ、すぐ近くに停めてあった車へと引きずられていく。
「い、いやだ……! 離せ……っ」
「いいから来い!」
由起也は必死で抵抗したが、老人の力は強く、揉み合ううちに左の手首を捻られ、激痛が走る。
「いたっ!」
治りきっていない左手首の痛みで、エコバッグを落としてしまい、買ってきた野菜が道路に散らばる。あっと思った時には車のドアが開けられ、由起也は後部座席に押し込められそうになった。由起也は乗せられてはダメだとさらに抵抗したが、はずみで開口部にガツンと頭をぶつけてしまった。
「っ……!」
由起也がくらりとした隙に背中を押され、とうとう後部座席に押し込められてしまった。バタンと閉まったドアを、由起也は必死で開けようとした。しかし、ガチャガチャとレバーを何度引いてもドアが開かない。その間に、老人は運転席に座り、無情にも車は発進してしまった。
由起也は朦朧とする頭で思った。おそらく今から連れて行かれるのは、櫛田の家だろう。この人――お祖父さんはなぜ自分を連れて行こうとしているんだろう。
「もしもし。……お前の言う通りだった。由信を捕まえたぞ」
電話? 相手は誰? オレは父さんじゃない……。
そんなことを考えているうちに、由起也は意識を失ってしまった。
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