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森へ
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「ヴァン、起きて」
「うーん」
「もう朝だよ」
ヴァンはユサユサと揺さぶられたが、ちっとも不快に感じなかった。肩に触れられている手はなんだか暖かく、すべらかで気持ち良かったし、その声はまるで天使のようだったから。
ヴァンが目を開くとそこにはハナがいた。やっぱりだとヴァンは思う。触れるだけで、声を聞くだけで幸せを感じさせてくれる人はハナしかいない。ヴァンは自分の肩に触れているハナの腕を掴んで引き寄せると、二人の顔は触れそうなくらい接近した。ハナは驚いて硬直してしまっていた。
「やぁ、ハナ。今日もとても綺麗だよ」
ヴァンがハナを見つめながら言った。ハナは赤面して、あう、あう、と変な声を漏らした。
「ヴァン、一応言っておくけど夢じゃないからな」
ヴァンはアランの声に、ジャマするなよと思った。せっかくハナに朝起こされるという至福の夢を見ているというのに。目覚めのキスをする寸前、ふと、冷静になる。ヴァンは夢があまりにもリアルに感じた。ハナの潤んだ目、しっとりとした肌の感触、伝わる体温。もしもこれが夢じゃなかったら……
「アヒャーー!」
ヴァンは変な声を上げながら飛び起きた。比喩ではなく、本当に飛び上がっていた。天井スレスレまで。その姿を見てアランは海老みたいだな! と言ってゲラゲラ笑った。
ヴァンが着替えを済ませ部屋から出ると、アラン、サクラ、ハナがダイニングテーブルの席につき、緑茶を淹れて飲んでいた。
「目は覚めたかよ?」
アランがニヤニヤと問いかける。
「うん」
ヴァンは恥ずかしくてハナを見ることができなかった。しかし、言わなければならない一言があったので、席につく前に言うことにした。
「ハナ、さっきはごめんね」
ハナは俯いたまま、コクコクと頷いた。顔が少し紅くなっていた。ヴァンは一応許してもらえたようで安心した。そして席に着いた。
「アランとサクラもごめん。寝坊しちゃった」
ヴァンはサクラがいる時点で同行するつもりだと理解した。そして異論もなかったので、あえてその意図を聞くことはしなかった。
「リーダーがそんなんじゃ、しまらないぜ? 今日の計画ぐらいはバシっと決めてくんねーとな」
そうだね、とヴァンが応じる。
「今日はまずキャンプ地に向かうよ。そこが第一集合点になるから、みんなに場所をしっかり覚えてもらうね」
「だいいちしゅうごうてんって何?」
ハナが問いかける。
「うん。集合点ていうのは、もしもみんなとはぐれてしまった時や、何か緊急事態が起きた時に集まる拠点のことだよ。そして森を進むたびに第二、第三と更新していくんだ」
「お前、森に入ったことがあるのか?」
アランの問いかけに、あるよとヴァンが返す。
「一昨日森に入って狩りをしたんだ」
「狩りね……。どうせまたじいちゃんにけしかけられたんだろ?」
「まぁね」
その時、ヴァンはガニアンが起きてこないことに気づく。壁時計を見ると針は五時二十二分を指していた。いつもであれば、すでに起きている時間だった。
「じいちゃん見た?」
「いや、さっき部屋に行ったが居なかったぞ?」
ヴァンは不思議に思った。行き先を告げずにこんな朝から出かけることは今までなかった。
「そっか」
「何も聞いてないのか?」
うんとヴァンは答えた。しかし、予定を変えることでもないだろうと思われた。
「まぁ、じいちゃんが居ないからって別に問題もないよな……、それで、さっき言ってたキャンプ地って何か当てでもあんのか?」
アランが緑茶をすすりながら聞く。
「あるよ。森の中に小屋を見つけたんだ。そこを拠点にしようと思う。その時は中に入らなかったけど、休憩ぐらいはできるはずだよ。そしてそのあとは……」
『出たとこ勝負』
アランとヴァンの声が重なる。
「たいそうな計画ね」
サクラが呆れたように言う。
「それじゃ出発だ」
ヴァンの一声でみんなが席を立った。四人はそれぞれの荷物を持って家を出た。ヴァンとアランは大きめのザックを、サクラとハナは一回り小さなものを携行していた。
「うーん」
「もう朝だよ」
ヴァンはユサユサと揺さぶられたが、ちっとも不快に感じなかった。肩に触れられている手はなんだか暖かく、すべらかで気持ち良かったし、その声はまるで天使のようだったから。
ヴァンが目を開くとそこにはハナがいた。やっぱりだとヴァンは思う。触れるだけで、声を聞くだけで幸せを感じさせてくれる人はハナしかいない。ヴァンは自分の肩に触れているハナの腕を掴んで引き寄せると、二人の顔は触れそうなくらい接近した。ハナは驚いて硬直してしまっていた。
「やぁ、ハナ。今日もとても綺麗だよ」
ヴァンがハナを見つめながら言った。ハナは赤面して、あう、あう、と変な声を漏らした。
「ヴァン、一応言っておくけど夢じゃないからな」
ヴァンはアランの声に、ジャマするなよと思った。せっかくハナに朝起こされるという至福の夢を見ているというのに。目覚めのキスをする寸前、ふと、冷静になる。ヴァンは夢があまりにもリアルに感じた。ハナの潤んだ目、しっとりとした肌の感触、伝わる体温。もしもこれが夢じゃなかったら……
「アヒャーー!」
ヴァンは変な声を上げながら飛び起きた。比喩ではなく、本当に飛び上がっていた。天井スレスレまで。その姿を見てアランは海老みたいだな! と言ってゲラゲラ笑った。
ヴァンが着替えを済ませ部屋から出ると、アラン、サクラ、ハナがダイニングテーブルの席につき、緑茶を淹れて飲んでいた。
「目は覚めたかよ?」
アランがニヤニヤと問いかける。
「うん」
ヴァンは恥ずかしくてハナを見ることができなかった。しかし、言わなければならない一言があったので、席につく前に言うことにした。
「ハナ、さっきはごめんね」
ハナは俯いたまま、コクコクと頷いた。顔が少し紅くなっていた。ヴァンは一応許してもらえたようで安心した。そして席に着いた。
「アランとサクラもごめん。寝坊しちゃった」
ヴァンはサクラがいる時点で同行するつもりだと理解した。そして異論もなかったので、あえてその意図を聞くことはしなかった。
「リーダーがそんなんじゃ、しまらないぜ? 今日の計画ぐらいはバシっと決めてくんねーとな」
そうだね、とヴァンが応じる。
「今日はまずキャンプ地に向かうよ。そこが第一集合点になるから、みんなに場所をしっかり覚えてもらうね」
「だいいちしゅうごうてんって何?」
ハナが問いかける。
「うん。集合点ていうのは、もしもみんなとはぐれてしまった時や、何か緊急事態が起きた時に集まる拠点のことだよ。そして森を進むたびに第二、第三と更新していくんだ」
「お前、森に入ったことがあるのか?」
アランの問いかけに、あるよとヴァンが返す。
「一昨日森に入って狩りをしたんだ」
「狩りね……。どうせまたじいちゃんにけしかけられたんだろ?」
「まぁね」
その時、ヴァンはガニアンが起きてこないことに気づく。壁時計を見ると針は五時二十二分を指していた。いつもであれば、すでに起きている時間だった。
「じいちゃん見た?」
「いや、さっき部屋に行ったが居なかったぞ?」
ヴァンは不思議に思った。行き先を告げずにこんな朝から出かけることは今までなかった。
「そっか」
「何も聞いてないのか?」
うんとヴァンは答えた。しかし、予定を変えることでもないだろうと思われた。
「まぁ、じいちゃんが居ないからって別に問題もないよな……、それで、さっき言ってたキャンプ地って何か当てでもあんのか?」
アランが緑茶をすすりながら聞く。
「あるよ。森の中に小屋を見つけたんだ。そこを拠点にしようと思う。その時は中に入らなかったけど、休憩ぐらいはできるはずだよ。そしてそのあとは……」
『出たとこ勝負』
アランとヴァンの声が重なる。
「たいそうな計画ね」
サクラが呆れたように言う。
「それじゃ出発だ」
ヴァンの一声でみんなが席を立った。四人はそれぞれの荷物を持って家を出た。ヴァンとアランは大きめのザックを、サクラとハナは一回り小さなものを携行していた。
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