鬼とドラゴン

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森の魔女

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 偶然かそれとも狙って風下からこちらを追跡してきたのか。どちらにしてもヴァンは対応を決めなくてはならなかった。すなわち逃げるか戦うか。

「ヴァン、逃げないの?」

 サクラの声からは大虎に対する恐怖心は感じられなかった。ヴァンは決めた。

「いや、逃げない。きっとどこまでも追いかけてくるからね。だからここら辺で僕達がエサじゃないってことをわからせてやろうと思う」

「だけどどうするの?」

「まぁ、なんとかなるよ」

 鬼族は身の危険をあまり考えない傾向にある。強靭な肉体となまじ戦闘力が高いために、自分が命を失うということを想像することができないのだ。それは戦闘においては長所にもなるし、短所にもなり得る。恐怖を感じない戦士は強い。だがそれゆえに単純な戦法をとりやすくなる。ただ突っ込んで殴りつけるだけだ。ヴァンもそんな鬼族の血をしっかりと引いていた。サクラはそんなヴァンが心配だった。ヴァンは純血の鬼程は強くない。いつか取り返しのつかないことになるのではないかと考えてしまうのだ。

「ヴァン、大丈夫?」

「大丈夫だよ。サクラ、グル、援護を頼むよ」

「魔法は通じないんじゃないの?」

「いや、通じる。あの虎の脚は確かに凍っていたんだ。それに見て、毛の先に燃えた跡が残っているでしょ?」

 サクラは虎を注視してみると確かに燃え跡があった。

「本当だ……」

 サクラはヴァンがバカみたいな鬼の戦い方をしていないことに少し安心した。冷静に相手をい観察できている。

「でしょ? きっと意図的にキャンセリングしているわけではないんだ。攻撃を受けた後に、身を守るために本能的に発動させているんだと思う」

「そっか。わかったわ。援護は任せて。ね、グルちゃん?」

「ええ、おまかせを」

 大虎はゆっくりとヴァン達に近づきながら、カロロロと独特な音を喉から発していた。改めて見てみると大きい。頭の位置は三メートル程の高さにあった。これと比べたら普通の虎なんて可愛い猫ぐらいに感じてしまうであろう。黒色と濃い灰色の毛並みが目をひいた。高貴な印象すら感じる。

 ヴァンは大虎に向かって疾走した。木の幹のように太い前脚が振り落とされてきたのを、横に跳び交わす。続いてだされた逆の脚の横ぶりもバックステップでかわす。大虎の攻撃パターンを見るためにヴァンはあえて反撃をせずにひたすらかわし続けた。単純な攻撃ばかりでかわすことは容易であった。後方に控えるサクラとグルナイユにも行動パターンが読めてきた。つまるところ、大きな猫に過ぎなかった。
 
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