鬼とドラゴン

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ドラゴン

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「へっ?」

 守って欲しい。それが例えばハナのような、か弱い者から発せられた言葉であればすぐに理解できたであろう。しかし、今ヴァンの目の前にいるのは世界最強種族ドラゴンなのだ。死の間際であるにしても戦闘能力はヴァンを遥かに凌ぐはずである。実際、先ほどヴァンはカンヘルにやられてしまっていた。それも、かなりの手加減をされてだ。仮にカンヘルに危害を加えられる者がいたとして何ができようか。したがって、

「無理だよっ!」

 当然である。

「無理なものか」

 ヴァンは困ってしまう。罰則はないにしても、できない約束はしたくなかった。

「僕は鬼の血を引いてはいるけれど劣等種なんだ。カンヘルを守る力なんてないよ」

 必死に訴えるヴァンを見てカンヘルはまた豪快に笑う。

「何もワシの代わりに戦ってくれと言っているわけではないのだ。厳密に言うと守って欲しいのはワシの亡骸だ」

「どうゆう事?」
 
 高レベルの神獣や魔獣というのは常に人間共に監視されている。ワシがこの森にいる事も当然知られているだろうな。奴らはワシが死んだ後に骸を回収に来るはずだ。お主には、その前にワシの死体を焼き払って欲しいのだ。無論、残った骨も埋めるなりして隠しておくれ」

「なんで人間達は遺体を回収しようとするの?」

 そんな事も知らないのかと。呆れられるかとヴァンは心配したがカンヘルはそんな素振りは見せなかった。

「それは、当然利用価値があるからだ。ワシのい身体を解体し武具の材料にできるし、DNAなどを研究すればドラゴンの力を得る方法を見つけられるかもしれない。それに知っているか?」

 カンヘルがニヤッと笑う。どことなくガニアンに似ているとヴァンは感じた。

「ドラゴンの血には魔力を高める効力があるらしいぞ。どうだ? 飲んでみるか?」

 やれやれとヴァンは思う。どうして自分の周りには人をからかうことが好きな奴ばっかりなのだ。ガニアンそっくりの、人を試すような表情を目の前のドラゴンはしていた。どんな反応をするかと期待している。さぁ、楽しませてくれと目が輝いている。

 
「遠慮しておくよ」

 その手に乗るかとヴァンが断るとカンヘルはあからさまに残念そうな顔をした。

「なんだ、つまらんな。……そうだ、ドラゴンの心臓を食せば不老不死になれるらしいぞ? ワシが死んだらちょっとかじってみたらどうだ?」

「遠慮しておきますっ! どうせそんなの迷信でしょ?」

「ワハハ! その通り。迷信だ」

 やれやれ、と今度は口に出して言った。

「とにかく、僕はカンヘルを火葬すればいいんだね?」

「ああ、頼む。見返りはそうだな……。ワシのドラゴンの力をくれてやろう」

 もういいよ、とヴァンは呆れたが、一応答える。

「それはありがたいね。楽しみだよ」

「契約成立だな。では印を刻ましてもらうぞ」

 どうぞ、とヴァンは腕をカンヘルに差し出した。その時に気づいたが、腕には大虎につけられた傷跡が残っていた。どうやらドラゴンの治癒魔法である復元で癒されたのは腹の傷だけらしかった。
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