俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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六 ラプンツェル殺人事件

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 そこから話は早かった。件のAVを差し押さえ――その際にあった不愉快なやり取りは、リーゼロッテと彼女の元彼氏との別れ話で決着した。友人と通話中だったらしい元彼氏は、アパートを訪ねて来たリーゼロッテとダリオに、当初は歓迎モードだったが、リーゼロッテの淡々とした別れ話と最後の指摘に興ざめしたらしい。
「はぁーい、わっかりましたぁ」などと面倒なこと言いだしたなという感じで応じていた。ダリオたちが去り際に、携帯フォンを肩と首の間に挟みながら、
「そうそう、女の権利~~とか目覚めちゃってさあ、クソ真面目ちゃんだから、俺が善意で相手してやってたのになー、あれじゃますます次の男できねーって」
 と笑いながら、閉まるドアの向こうに消えて行ったのである。リーゼロッテは完全に無感情な顔でそれを見送り、コメントすらしなかった。
「つき合わせてごめん、これが例のAV」
 手渡されたパッケージに、ダリオは頷くにとどめた。
 問題のAV検証にあたっては、リーゼロッテの自宅で行うこととなった。彼女を別室に隔離し、テオドールに警護を任せる。
 準備は整った。
 気が進まんが、仕方あるまい、と映像を再生する。
 ダリオは前もってそのAVに関する情報を検索していたが、その時点でもかなりの胸糞案件過ぎて、どう列挙したらいいのかもわからなかった。リーゼロッテがダリオに伝えたAVの情報は、相当にマイルドなものだったのだ。
 たぶん、おそらくは。被害者はほとんど何も正確な契約内容など知らされていなかった。その場でサインし、扉を開けた先に複数待ち構えていた男たち。
 帰る、と怯えた表情で告げた彼女は、きっと未成年だったのだろう。ゲラゲラと笑う声。罵声。強烈な面罵に耐えられる女性は少ないだろう。男でさえも。
 与えられた苦痛と尊厳のはく奪は、彼女が母親を呼ぶ声で終わっている。
 きっつ……とダリオはかぶりを振った。人間が人間にすることで、これは限りなく残酷を極めていた。
 前情報の通り、髪を切り、バリカンまで持ち出して、燃やすまでしていた。被害者男性の口の中に詰めこまれたチシャの葉は、AVの中ではごく一部に過ぎなかった。
 深く嘆息して、もう一度、例のシーンを再生する。
 注意深く、そして、怪異と対峙する時のように、『ラジオのチューニング』をするかのように。
 被害者の男が、映像の中で笑っている。女の子を追いつめ、彼の邪悪な顔がズームアップされた。
「ダリオさん」
 肩に上質な黒皮手袋をした指がかけられ、ダリオは思わず「おい」と息を止めた。
「リーゼロッテさんは」
「犬を数匹配置しましたので大丈夫です」
「エヴァにつけたやつか?」
「はい」
 無表情にテオドールが肯定し、ダリオの肩に手をかけたまま、更にずいと抱き込むように身を寄せて来た。耳に息のかかるようにして、
「もう少し集中してください」
「俺の集中を乱したのはお前なんだが」
「少し、戻します」
「聞けよ」
 テオドールが映像を再度戻す。再び被害者の男が振り返り、顔がズームに……
「うわっ」
 ダリオは心底びびった。男の顔がぶれている。文字通り、ぶぶぶぶぶぶ、と顔が判別つかないほどにぶれまくっている。
「こわっ、俺ホラー駄目なんだが⁉」
「普段からホラー現象など見慣れていらっしゃるのでは」
「そういうのと傾向違うだろ、これ⁉」
「よく分かりません。ダリオさんに害をなすものは、僕が排除できます」
 心底わからん顔をしている人外のけた外れな美貌の青年に、ダリオはある種の理解と諦念を覚えた。たぶんこいつ、恐怖とかってわからないんだろうな、というそれである。本人の言う通り、たいてい力づくに排除可能なので、怖いという感情が「よく分からない」になるのだろう。
 そうこうしている間にも、被害者男性の頭部は高速にぶれ、やがて、ピタリ、と停止した。
『bjぽ@:まぱ、「あ、あm@ぬ尾p@」
 何言ってんのか分かんねえ! というダリオの思いを他所に、被害者男性はゆっくりと、まるで飴細工を溶かすように緩慢に、こちらを振り返り、
 ——目が合った。
 ごう、と室内に風が吹いた気がする。
 生ぬるい風だ。
 まるで、夕暮れの影が伸びるように、世界を血染めの色に変えていく。ダリオはもう一度確認した。
「リーゼロッテさんは」
「問題ありません」
 そうかよ、と頷く。テオドールの倫理観を信用していないが、嘘はつかないと信頼していた。なんなら、こいつは。よっぽど、まともだ。
 テオドールは。本当はダリオなんて簡単に言うことを聞かすことができる。ちょいと彼が小突けば、ダリオはあっという間に死んでしまう。好き勝手に脳みそをいじることだってできる。なにせ、死んだら、生き返らすこともできるのだから。ダリオの人格に重きを置かなければ、そうすることだってできるのだ。
 でも。
 でも、彼はそうしない。
 できるのに、そうしないのだ。
 よっぽどまともだ。
 少なくとも、こいつらよりは。
 ダリオは深く息を吸って、いつの間にか立ち上がっていた。血色の夕暮れの世界。知らない内に、そこはブランコがきぃきぃと揺れる児童公園になっていた。
「おそらく、今回の核となった何者かの心象風景世界ですね」
「そんなこったろうと、思った、よ!」
 塔を模したジャングルジムの上に、顔の見えない少女が座っている。長い長い金髪が彼女の体よりもなお長く、鉄筋にからみついて、夕暮れの光を浴び、鮮血のように輝いていた。
「止めてって言ったんだよ」
 顔がまるで見えない少女は、足をぶらぶらさせながらつぶやいた。
「止めてって言ったの」
 そうだな、とダリオは思った。何度も止めて、と彼女は訴えていた。被害者の彼女は、行き過ぎた暴行で精神的苦痛を味わったのもそうだが、心身を物理的に『破壊』されてしまった。やり過ぎた――と暴行に携わった者たちでさえ、企画AVを商品化できるか懸念していたほどだ。一時市場に流れたものの、内容が人体破壊に及ぶにあたって、それらは販売停止になったが、結局こうしてコピー品が異常性癖の愛好者の間で出回っている。中には、リーゼロッテの彼氏のように、遊び半分興味本位で手にして、笑いながら消費されることさえも。一度市場に出てしまえば、完全に流通停止することなど不可能なのだ。
 ——零れたミルクは元に戻らない。
 テオドールが以前言った通りだった。
「どうしてリーゼロッテさんまでターゲットにしたんだ。彼女も被害者だろう」
 ダリオはそれだけを尋ねた。少女は相変わらず、逆光で顔が見えない。
「だって――」
 彼女がこちらを向く。ダリオはぎょっとして息を飲んだ。
「見えないんだもん」
 そうつぶやく彼女の目は、
「そっか……そうだな。見えないよな……」
 ダリオは言葉に迷った。何を言ったらいいか分からなかった。だから、彼はこう言うしかなかった。
「痛かった……よな。辛かったな……」
「うん……」
 とってもいたかった。
 少女はそう言って、まばたきしたようだった。でも、そのまぶたは殴られすぎて腫れあがり、うまく動かせないようだった。化け物に転化しても、彼女はされた暴行をその身に反映させてしまっていた。あまりにも苦痛で、辛くて、切り離すことができなかったのだろう。よくよく見れば、彼女の全身の皮膚は惨いことになっていて、とても直視できない状態だ。そしてそれは、彼女が実際に受けた苦痛の記憶なのだった。
 ダリオは手を握ったり開いたりした。
「もとには戻せない……が、終わりにすることならできる」
 少女は沈黙した。考えているようだった。やがて彼女が小さく尋ねた。
「もう、いたくない?」
「ああ」
「やくそく?」
「約束するよ」
 もう痛くない。
 ダリオは請け負った。
 
 
 酷い気分だった。気絶していたリーゼロッテを起こして、ケアした上で、病院に送り届ける。彼女には簡単に顛末を説明し、大元は対処したので今後は心配ない、安全だと伝えた。リーゼロッテの視界に常にあった被害者男性の姿も煙のように消滅したらしく、リーゼロッテは納得して、ダリオたちに礼を言うや、ストレス性の胃潰瘍で病院へというわけだった。
 今回は打撲も作らなかったが、むしろダメージがでかい……とダリオは思いながら、帰るか、とテオドールに声をかけた。
 ふたりで館に帰ると、まだ外気をまとう上着のボタンに指をかけたダリオの手元に、テオドールの視線が注がれるのを感じて、既視感を覚えた。
「なんだ?」
 不審げに顔を上げると、テオドールは「……」と無表情に沈黙する。ダリオもしばらく合わせて黙ってしまったが、ふと脳裏に春のスプリングコートが蘇った。初期の頃、アルバイト先に迎えに来てくれた時に、スプリングコートを羽織らせてくれたことがあった。あの日の夜は少し肌寒く、ダリオは薄着でコートも着てこなかった。ダリオに断って着せてくれたが、ダリオは柄にもなく恥ずかしくて落ち着かなかったのを覚えている。
 覚えているというか……
 むずむずする。そういう感じが、背筋を這い上って、どうしようもなく――安心した。怪異がついて回るダリオは、里親に出されてもすぐ帰されるばかりだった。施設では最年長になってしまい、体格が人より恵まれているのもあって、気づけば世話されるよりする側になっていた。別段苦痛に思ったことはない。ただ、もうずいぶん、こういう風にしてくれる人は、本当にほとんどいなくなっていた。だから、テオドールがしてくれた時に、ぎょっとすると同時、まるで昔、遊園地に連れて行ってもらった時みたいにそわそわして、嬉しかった。
 こいつ、生まれて一年も経ってないのになあ、と思って、ダリオは反省し、あまりそういうことを喜ばないように自制していたのだが。
 テオドールの沈黙に、ぱち、ぱち、ぱち、といくつかのパズルピースが脳内で組み上がっていく。 
 思い起こせば、テオドールは機会があれば欠かさず、ダリオに着脱させてもよいか伺いを立ててきた。それを不快に思わなかったのは、この人外の青年がかなり注意深くダリオの様子を観察し、問題ないと判断した時だけ申し出ていたためだろう。
 あれ、これはもしかして故意か? ダリオは最後のパズルピースがはまるのを感じた。
「テオ、お前、もしかして……俺に服着せるの、なんか種族的なあれか?」
 種族的なあれか? ってなんだ。言いながらダリオは語彙力の足りなさに額を抑えたくなったが、テオドールが案外あっさり「はい」と認めてしまったので、あーそう、となった。
 つまり、テオドールにはどうも、自分の『花』の衣装の着脱を手伝うことに、種族本能的なフェティシズムがあるようだった。
「お前、その割に、けっこう抑えてたよな……」
「それは……」
 テオドールは無表情ながら、やや口が重いように説明した。あまり言いたくないようだったが、それもダリオに引かれるのを懸念しているためのようだった。変なところで気にする。気にして欲しいところはもっと別だ、とダリオは思ったがさすがにこの場では言わなかった。
 聞き出したところ、相手の着脱にすべて手を出すのは越権という意識から、『着せたい、脱がせたい』と思っても不必要なシーンでは口をつぐんでいたらしい。
 ダリオは正直眩暈がした。
(バカ……お前……ほんと、馬鹿だろ……)
 ダリオをめちゃくちゃにすることができるくせに、そうしない分別を持っている怪物。
 誰しも、他者を己の自我の延長のように、好き勝手する権利などない。テオドールは異次元から来たとは言うが、よほどその点については心得て、ダリオの意志や自己決定権を当たり前のように前提として振舞う。普通の人間だって、それができない奴は大勢いるのだ。
 リーゼロッテの件も。今回の呪いをまき散らした少女の件だって。
 どれもこれも、他者の意思もこころも、からだも、全て無視した結果じゃないか。
 花の着脱に執着があるくせに、テオドールはダリオにあれを着ろ、これを着るなといったことは境界を侵して来ない。ダリオ自身が決めることだという自然な態度だ。
 ダリオは特大の溜息を吐きたくなった。とりあえずテオドールにコートを脱がせるのは許可して、それからソファに座るなり、この人外の青年を引き留めた。
 少し目を見開いたテオドールは、なんだかびっくりした猫のように見えた。
「あのさ……」
 ダリオは尋ねようとして、何をどう言ったらいいかうまく思いつかずに、結局ストレートに聞いてしまう。
「お前、俺のこと好き勝手しないよな」
 ……なんで? 
 ぽつりと聞いてしまって、ダリオは速攻に内心頭を抱えた。まともな人間相手なら、どう考えても失礼過ぎる質問だし、人外に聞くには自らその口の前でダンスを踊るような愚かな質問である。何より、真意を先に自己開示しない時点で、卑劣だと感じた。
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「本当にそれを知りたいですか?」
 互いの目を見て、ダリオは少し視線を伏せた。
 それから、「くちとくち、くっつけていい?」と小さな声で問う。少し沈黙した相手が頷いたので、テオドールの腕を引き、この青年の唇に自らのそれをそっと押し当てた。ちゅ、とリップ音がして、ゆっくり引くと、
「しりたい」
 おまえのこと、もっと。
 テオドールがわずかに目を見開き、次の瞬間には追いかけてついばんでくる。
「ふ、」
 と甘えたような声が勝手に出て、テオドールの服を思わずつかんだ。鼻にかかるような小さな喘ぎと水音が行き来する。音、ヤバイ、とダリオは上段から怪異に食い散らかされるイメージに、ぶるりと震えた。体に力が入らない。肉食動物に草食動物が捕食される時ってこんなんなのかな、とさえ思う。いつの間にか、体をソファに倒して、上から圧倒的捕食者に圧し掛かられている。テオドールは隙間のないように、もう片方の手で優しくダリオの頭を引き寄せると、唇の接触にも強弱をつけてぱくぱくと食べたり、押し付けたりした。触れる範囲や角度を変えながら、唇の表面だけで愛撫してくる。気持ちいい。テオドールの背中に回した腕が、スーツの上から五指でぐちゃぐちゃに握り込んだ。舌を絡ませたかったが、一度唇を離されてしまう。テオドールはじっとダリオの目を見つめてきて、再びゆっくりと唇を重ねた。唇で唇をなぞり、時折ちろちろと舌先で舐めながら、耳の中に指が入って来る。くりくりといじられ、どこでそんなの覚えて来たんだよ、とそれさえも思考は官能という高波に流されてしまう。頭を抱え込まれるようにして、唇を重ねては、角度を変え、キスがどんどん深いものになっていく。
「ん……っ」
 足の間に片膝を入れられ、ダリオもこの美しい青年にしがみついた。舌を軟体動物のように絡ませ合っていると、気持ちよすぎて頭のヒューズが飛びそうだった。
(テオの舌……)
 体をぴたりと密着させたまま、柔らかくした舌で、表面や裏側をくにくにと擦り合わせあう。
「ん、ん」
 腹の奥が切ないように疼く。毎度毎度、テオドールに傷を治されたり、メンテナンスされる際に感じていた快楽は、これだった。意識的にそうだと受け入れてしまうと、もうとめどもなく官能が泉のように湧き出て、腰の中心から手足のつま先までぐるぐると重たい快楽が駆け巡る。耳を塞がれたまま口の中をうねうねと舌が動き、開いた足の間、性器が頭をもたげてきた。更にその奥、奥が、ひらいていく。だめ。駄目だ。ひらく、ひらいちゃう、やばい、と思ったのも押し流される。もはや、ダリオはまるで一度もしたこともないくせに、挿入されているような錯覚に中が気持ちよくなってしまっていた。
「ッ、は……、あっ」
 口蓋を舌先で奥から手前に、つーっとなぞられると、連動するように、ペニスがゆっくり引き抜かれていくような快感を覚えて、バージンだぞ俺と内心泣いた。ぷくりとした前立腺を、テオドールのペニスで甘く擦られている。そんな風に感じて臀部が浮き上がる。本当に入ってないのか。もう入っている。入ってないのに、入っているみたいにきゅうきゅう締め付ける。
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「——ッ、は、」
 テオドールの色っぽい吐息に、思わず耳を疑う。目の前の青年が、人間のようにうっすらと汗をかき、柳眉を寄せているのを見て、文字通り脳味噌がスパークした。テオドールも興奮しているのか。テオが興奮して、もしそうだったら――俺相手に硬くしたのを押しつけて、入れたいと思ってくれたら。
 想像した瞬間、もう本当に駄目だった。好きだ。嬉しいという感情と、相手に対する欲情が爆発した。全部決壊する。中が強く、ぎゅうううっと収縮する。飽和状態に溜まり切った快感が、性器のつけ根から先端まで押し上げるようにして駆け上った。腰が仰け反るようにして持ち上がり、ふわっと浮き上がる感覚がする。その直後、凄まじい絶頂感が突き抜け、落下した。
「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 悲鳴のような嬌声が、テオドールの唇と舌で巻き取られる。ぢゅっ、と吸われ、ダリオは仰け反るように、絶頂の丘に達して、目の前が真っ白にくらんだ。
 荒い息を吐き、快感の余韻が抜けて行かない。ふわふわとする体と頭に、ダリオはしばらく腰が浮き上がり、溺れまいとするようにテオドールにしがみついた。
 テオドールはダリオの頭を抱え、唇をこめかみに寄せて、
「ダリオさん、お疲れさまでした」
 いたわるようにキスしてくる。絶頂した直後の体は過敏で、強い刺激は辛い。まだ呼吸が整わず、浮遊感でぼうっとする。
やがてテオドールが、
「ダリオさん」
 と無表情にも、じ、とダリオを見つめてきた。
 いや、口で言えよ、と思わないでもないが、ダリオは少し顔を傾けた。
 わずかに口を開くと、テオドールが唇を寄せてくる。唇が触れる直前に、積極的合意を確認され、ダリオは「うん」と応えた。お前どういうつもりでやってんの、これもメンテナンスか? それとも別の意図あんのか? と聞きたい気もしたが、先に深く唇を重ねられる。そうなると、もう駄目だった。技巧がどうとか全部吹っ飛ぶ。
 かろうじて、「ここじゃまずい」と袖を引いて訴えたような気はした。テオドールの体液は劇物めいた媚薬のような効果をもたらす。以前は頬を舐められただけで、絶頂してしまったほどだ。こんなところでまた舌でも入れられた日には、また脳イキ絶頂地獄再演する羽目になるのは目に見えている。テオドールはできる人外なので、ダリオの腰を抱いて、館の寝室に転移してくれたらしい。らしいというのは、気づくとベッドの上で覆いかぶさられるよう密着し、ちゅっちゅちゅっちゅ、テオドールとキスしていたからである。
「ん、んぅ、はぷ、んっ」
 頭がぼーっとする。テオドールの耳から頬に指を這わせながら、相手の舌と自分の舌を合わせる。擦り付けているとあまりにも気持ちよくて、がくがくと下半身に力が入らない。もしかしたらズボンの中で射精しているかもしれなかった。快楽に次ぐすさまじい快楽で、どの瞬間に吐精したかなど全然わからない。キスしながら、その瞬間瞬間絶頂している感じである。
 なあ、お前、本当にどういうつもりなの。
 聞いてしまいたいが、同じくらい聞きたくなかった。相手が人間だったら、ダリオの性格ではさっさと尋ねてしまっていたかもしれない。
 しかし、ダリオは今まで怪異の超理論展開による超絶理不尽に合わされ続けた経験がある。テオドールに次第と社会性が備わりつつあるように見えても、あくまで見せかけだとも見抜いていたし、ましてや情緒面においてはほとんど信用していなかった。それなのに、
(好き……好きだ……)
 普段理性で抑えつけている気持ちが、舌先までほとんど零れ落ちそうなほど、いっぱいになっていく。冷静な部分のどこかで、まずい、とは思った。言いたい。言いたいが、今は言いたくない。
 正直なところ、ダリオはもうとっくにテオドールが好きだった。ダリオをこんなに大切にしてくれた人はいない。多少倫理観がぶっ飛んでいようが、ダリオの話を聞く耳持たないわけでもなく、常に対話しようとはしている。見返りをはっきり要求されずに、こんな風にいつでも気にかけて、助けてくれ、大事にしてもらったことはなかった。多少鈍い節のあるダリオにも、自分が大切にされているというのが理解できるほど、それは日々の生活の節々にアクションで示され、むずむずするのから、陥落するまではそう長くはなかった。そんなの好きになるに決まっている。ふられてもいいが、できるだけ好感度を稼ぎ、距離をつめ、準備万端にしてから挑みたい。
 それなのに、キスしているだけで、すき、すき、と口にしてしまいそうなほどけた外れの快楽が次々に与えられる。脳みそがただただ快楽を認識するスポンジに成り下がって、ああしようこうしようと思っていた計画を秘密に留めておけない。
 テオドールがどう思ってるのかは知らないが、ダリオはもうこれはほとんどセックスだと泣いた。想像上の剛直に、中を擦られている。その動きに合わせて、腰を振った。入っていない。しかし、中からの快感が確かで、入っている気がする。入ってないのに、入っているような、もう疑似セックスだ。なにかトロトロ出ている気がする。気がするというか、出てる。
 気持ちいい。気持ちいい。テオドール。甘えて、回した腕ですがりつき、ぎゅっとする。腹の奥が切ない。
 とん、と性器の上を、テオドールの美しい人差し指が叩いた。そのまま、何かの器官を探し当てるよう、つぅ、と上に辿り、へその下を二度ノックする。
「ここ」
 無感動な顔は、何故か壮絶に色っぽく見えた。
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「んっ、おにゃか、きもち、いい」
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 毎度毎度思っていたのだが、テオドールに触れられると、ダリオは女性器が生じているのではないかという錯覚に陥った。前の快楽よりも、何か下に口が開いて、そこに受け入れたいような不思議な感覚を覚えるのである。
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