俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

文字の大きさ
76 / 150
間奏【リクエスト】マルチバースの目玉テオドールの話

1

しおりを挟む
 うーん、とダリオは困っていた。
 テオドールの用意した館の奥に迷い込んでしまったのである。
 普段こんなことはないのだが、奥から妙に呼ばれるような気がして、ついそちらの方へと足を向ける内に、迷子になってしまった。
 廊下にずらりと並ぶ扉は、どれも同じに見える。
 ええいままよと開けたら、外が草原だったり、夕日の沈む湖だったり、外部につながっているものから、まっくらで星のまたたく宇宙空間みたいなのまであって、静かに扉を閉めざるをえなかった。
 テオが迎えに来てくれるまでじっとしてた方がいいんじゃね? とダリオはその場にしゃがみ込んで、背中を壁にあずける。
 はあ、と嘆息したところで、強い視線を感じて、上を見上げると――
「ひっ」
 皿のように巨大な目玉が、こちらを天井から凝視していた。
 目玉と言っても、円盤に簡易な目の図形を描いたような物体で、パラボナアンテナを思わせる無機物ぶりだ。
 最初は、そのパラボナアンテナに巨大な目を描いたようなそれに恐怖したが、しばらくしてダリオは、えーと、と問いかけた。
「もしかして、テオ? か?」
 第三者がいたら、なんでだよ! 全然違うだろ! とつっこみが入るところである。しかし、ダリオはテオドールがスライム状水饅頭だろうが、闇の巨体だろうが、美貌の青年形態だろうが、なんとなくテオドール本人と見当をつけることができたので、今回もテオじゃねーのか? と思ったのだった。
 ただ、断定はできず、疑問符がついてしまう。テオドールはテオドールだが、なんかちょっと違うかも、という違和感があった。いわば、マルチバースから来た不仲世界のテオドールを見かけた時と同じような差異を感じたのだ。テオドールではあるが、少し違うという違和感である。
『……』
 巨大目玉のテオドールもどきは、じっとダリオを凝視するばかりで、沈黙している。敵意はなく、ただなんとなく言葉をうまく喋れないような印象があった。
(なんか幼いような……)
 幼いというのは言い得て妙な気がする。というか、そのつもりで対応した方がよさそうだ。
「あー、ええと、俺はダリオっていうんだけど……たぶんテオ? だと思うんだが、その……君、何歳? もしかしてだいぶ小さい?」
『……』
 やはり返答はない。でも見られているし、視線が突き刺さりそうな勢いだ。なので、興味関心はあるらしい。
 以前不仲世界のテオドールも館の奥からやって来たし、マルチバースのテオドールなのかなーとダリオは考えてみる。
 そうすると、この妙な形態なのは、どの時期のテオドールなのだろう。
 今のところ、ダリオはテオドールがこのような巨大目玉パラボナアンテナ形態をとっているのは見たことがない。
 考えている内に、目玉がふよ、とクラゲのような動きで降りてきた。
「うおっ」
 さすがにびっくりして、ダリオは壁に背中を強くつけてしまう。一方、目玉模様は廊下にぺったり伏臥して、ダリオの足元まで少しずつ様子をうかがうようにくっついてきた。
『ダ……』
 頭に反響するような声だった。
『だりお……しゃん……』
 うーん、かわいい! とダリオは内心顔面を覆った。
 テオドールだと思う! あとたぶん、ゼロ歳に近い! 
 テオって、小さい頃こんな形してたのかな~? かわいいな⁉ とダリオはだいぶなんでもありになっている。
「名前呼んでくれてありがとな。えっと、触ってもいいかな?」
『……』
 色彩のような不思議な感覚で、了承の意が伝わってくる。ダリオは片膝をつくと、テオドールの幼体っぽい目玉模様の縁を撫でてみた。つるつるしている気がするが、何とも言えない触感だ。
 目玉模様を縁取る線が、光ファイバーのようにちかちかと美しい色にさざめき、それはどこか音楽にも似ていた。
「撫でさせてくれてありがとう」
 ダリオは大体なんでもお礼を言いがちだが、その習慣はこういう場面でも発揮される。成人して自立しているらしいテオドール相手にも、よくかけている言葉だ。撫でていた手をひっこ込めようとしたら、目玉模様テオドールは、水中を泳ぐような動きで、ダリオの指先を追って来た。
 そのまま、ふよんふよんとダリオの周囲を泳ぐようにまとわりついてくる。ダリオは慌てて立ち上がり、目で動きを追った。
「ん⁉ なんだなんだ、もっと撫でてもいいのか?」
 肩口のあたりにのしかかるようにされ、ダリオは苦笑した。右手をあげ、後ろ手にちょいちょいと犬の顎をくすぐるように掻いてみる。すると、目玉模様全体が、触れた部分から、さざ波のように震えて、円盤の端はぶるぶるっと大きく波打っているではないか。
 感情表現は、成人したテオドールよりもわかりやすいかもしれない。水饅頭の時もそうだったなと思う。
 犬みたいに膝の間に挟んで、ハグしながら撫でまわしてもいいかな、と思った時だ。
 ばりっ、と。 
 表現するなら、そんな音であろう。
 背後から、無感動な顔をした青年のテオドールが現れ、目玉をダリオの肩口から引きはがして、無造作にぽいと廊下の奥に投げた。
 ダリオは色んな意味であぜんとする。
「テ、テオ、ちっさいテオに酷いことするな!」
「……」
 大きいテオドールも無言である。だが、玲瓏な顔にも関わらず、不服そうな目つきに見えて、ダリオはおいおいと思った。
 ダリオはこれで割とテオドールの機微には聡くなった方だから、青年の不服が、いわゆる嫉妬心によるものだと感じられた。
 非常に不思議な話なのだが、テオドールは何故か、自分自身にしばしば悋気を見せるのである。
 他の人間は、そもそも同じ土俵に感じられないのかもしれない。なので、嫉妬するとしたら、同じ次元の自分自身しかないということなのだろうか。
 それにしても謎だった。
「なあ、あの小さいテオは、お前の子どもの頃なんじゃないのか? ぶっ飛ばすなよ……」
「手加減はしました。あと、あれは僕自身ではありません。マルチバースの僕なので、僕には何の影響もありません」
「はあ、そうかよ。わからんが、かわいそうなことするなよ」
 ダリオは心配になって、目玉模様の小さいテオドールが自身を折りたたむような形状に小さくなっているのを拾い上げると、「だいじょうぶか? 痛くないか?」と見下ろして、そっと撫でた。
 目の前の大きなテオドールと延長線上にいようがいまいが、テオドールだし、かわいそうである。テオドールと名のつくものは、全員痛くて辛い目に合ってほしくない。
 大きい方のテオドールが小さく嘆息した。
「申し訳ありません。僕が短慮でした」
「いや、俺もなんか迎えに来てもらったっぽいのに悪かった。手加減したって言ってたが、この子だいじょうぶか?」
「問題ありません。まだ生まれていませんし、母親のもとに帰します」
 テオドールが指を鳴らすと、くたりとしていた小さいテオドールはダリオの腕の中から水中にインクの広がり落ちるように存在があやふやになって消えてしまった。
「ほんとにだいじょうぶか? というか、まだ生まれてないって、あー、お前の妹みたいな状態だったのか?」
「はい。安心していただいてよろしいかと。あと、僕はダリオさんとお会いする以前、意識だけある状態の時、あのような形状のことが多かったので」
「そうか」
 コメントに困る。
「なんか、パラボナアンテナみたいというか、目玉というか、ずっとあれだったのか……」
「はい。ダリオさんを見ていたので」
 今度はダリオの方が黙った。
「ダリオさん。帰りましょう」
 テオドールが手を差し出して来て、あ、迷子だったのは俺の方、とダリオはその手を握り返した。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...