虹虹の音色

朝日 翔龍

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第2章 メインストーリー 

第1話 イロトリドリ

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 夏休みが終わり、2学期が始まった。しかし、颯太の席だけは空いていた。

「え~、みんなに少し話がある。颯太がしばらくの間、入院する。重い病気で、先生達も心配している。そこで朝礼を使って応援の寄せ書きを書いてもらいたい」
「寄せ書きか……俺たちもそういうのやろうぜ?」
「えぇ~、でもなぁ~……病院の前でライブやるって言ったのにそこまでやっても良いのかな~?」
「颯太くんのことだ、迷惑と思うことはない」


 同じバンドメンバーとして、特別な何かをしたいという気持ちは全員の中にあった。

「よっしゃ、俺たちだけのメッセージ書こうぜ!」
「長めのやつだね~、颯太っちのことだから泣いちゃいそう~」
「あっと、前前、メッセージカード」
「あ、ごめん。ありがと」



 その頃、朝日華学園では-

「颯太さんに何か出来ることないかな?」
「元気になるように音楽を届けるのはどうかしら?」
「いや萌、私達の曲じゃ…」
「香恋、自信持ちなよ。今の私達の歌なら大丈夫」
「そうだよ、萌のキーボードの癖も治ったからさ」
「みんながそう言うなら……分かった、やろっか」


 ブルセットの4人も、ポシャンへの恩返しとしての音楽作りを決行していた。



 それはもちろん、春山学園でも-

「莉華、急に呼び出してどうしたの?」
「決まってるでしょ! 颯太さんのお見舞いで何をするかを決めるの!」
「また唐突に……で、それはいつまでに決めるの?」
「もちろん今日のお見舞いまでに!」
「決まるわけがないじゃん。ふわぁ~」


 グダグダながらにも、デイスマのメンバーもまた颯太へのお見舞いイベントを考えていた。



 そして、放課後。

「なんか緊張するな。クラス全員を代表してるって思うと」
「いつも通りでいいんだよ、ね!」
「まあそれは良いんだけど……あの2人は?」
「あぁ~、ソウくんともとちゃんなら、先に病院いるみたいだよ~?」
「流石は美琴の情報網、なんでも知ってるね」
「アハハ~、照れますな~」


 美琴の得意分野は相変わらず便利で、ポシャンにとってはこれ以上にない逸品だった。

「それじゃあ、病室向かおうか~」
「だな!」
「今日は起きてるかな?」



 颯太の病室-

「だからこの文法はこうなって…」
「あ、だからwasになるのか! お兄ちゃん、本当に英語得意だよね」
「アハハ、英語だけはね。他はあんまり…」
『颯太~、入るぞ』
「え、来てくれたんだ」

 良かった、入院中でも中学生に勉強教えて過ごすのかと思っちゃったよ。

「良いよ、入って」
「じゃ、お邪魔するぜ。どうよ、体調は?」
「うん、普通だよ。ごめんね、こんなときに」
「全然全然! ゆっくり休んでて。颯太のことだから無理しそうで心配でね」
「大丈夫、これくらい」

 みんな心配してくれてるんだ。本当、このメンバーに出会えて良かった。
 でもなんか勝喜、モジモジしてんだよな。

「勝喜、トイレ行きたいなら行ってこいって」
「ち、違うわい! その…これ。クラスのみんなからメッセージ……受け取れ」
「ちょっと勝喜くん、その渡し方はどうかと思うけど」
「ぷっ、良いよ良いよ。そのほうが勝喜らしいしね。さてさて、何が……」


 冊子状にされた寄せ書きを開いた瞬間に、颯太は言葉を失った。そこに書かれていた無数の文字。それは、颯太にとっては嬉しいだけじゃ言葉で言い表せられない感情へと変わった。

「……えっと、まだ前座なんだけど…」
「ケンケン~、空気読んでよ~」
「え、あ、分かった」


 瞳を大きく揺らす颯太。その顔を、メンバーはただ眺めた。その表情が、“本当の彼”だと知っているからだ。
 だから何も言わずに、ただじっと眺めた。彼が笑顔を咲かせるときを待って。

「……よし、今だよ」
「お、おう。颯太、これは俺たちからのメッセージだ! 言葉にできなかったから…その…歌詞になっちまったけど……」
「…ありがとう、じゃあ見せて」
「ん、お前の反応楽しみにしてんだからな」


 照れくさそうに勝喜は思いを乗せた歌詞を渡した。その感覚はあの始まりの課題作りの雰囲気にも似ていた。
 その紙に書いてあったのは、ポシャンらしい明るい詩。だけれども、どこか切ない詩。

[聴こていますか このメロディ また君と会えるまで
ずっと奏でているから 必ず立とう あの舞台へ
もう一度 そう もう一度

 笑えていますか? 覚えていますか? あの日書いた夢
みんなで誓った 「始まり」を
 笑えているよ 覚えているよ 君がいなくても
信じているから 君とまた歌えることを

 どんな苦難があっても 乗り越えられるはずだよね
真っ白い翼のある私達なら くじけても きっと
飛び立てるよ さぁ、手を伸ばして

届けてみせるよ この思い まだ君との旅は
始まったばかりだから 終わらせやしない
あの日の続きを 作り出してみせるんだ
奏でていよう この場所から 今君がいる場所へ
ギュッと抱きしめた希望 離さぬように 物語は
動き出す そう 動き出す]

「……ヘタクソ」
「なっ、なんだ……と?」


 予想外の言葉に勝喜は怒りかけたが、颯太の様子を見て気持ちが一気に落ち着いた。
 そう、彼は-

「下手すぎて……続き読めないよ…!」
「「……」」


 そう、彼は泣いていた。その歌詞に詰まっていた思いに泣いていた。自分を思ってくれる存在がいてくれる。
 その事実に気付かされて、泣いてしまった。嬉しくて、嬉しすぎて、言葉にできない温かい何かに包まれて、満ち溢れて、全てをこぼしていた。

「大成功だね」
「あぁ、良かった…っ!」
「ちょっと~、何でしょうちゃんまで泣くのさ~?」
『あの、失礼します』
『デイスマとブルセットも来ました』
「え、ちょっとここそんなに入らないよ⁈」
「ですよね。どうしましょう…?」


 なにせ颯太の病室は個人部屋。そこまでの大人数は入らないのだ。

「だ、大丈夫。中庭行こっか」
「お? 泣き止んだか?」
「な、泣いてないし! 下手すぎて笑っただけだもん! ぷっ……アハハハ!」
「「アハハハ!」」

 バンドを始めて良かった。俺がいるべき場所、俺の居場所、全部をくれた。
 そして、何より大切な仲間、いや友達に繋がれた。この気持ちは、死んでも忘れないよ。
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