望み 第2部 【R18】

RiTa

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タクシーで移動して自宅に戻り荷物を纏めている間、チーフマネジャーは私のスマホで私の実家に連絡して、自己紹介から始まり状況説明と対策の為の居候の許可をとり、私の両親からの感謝と信頼までもを得ていました

マネジャーの自宅にお邪魔する頃には、私も歳の離れた兄や従兄弟のようにまで思えていた程です

ガランとした室内は、シンプルというより、日頃見えないチーフマネジャーの寂しさを思わせられる物でした

使っていない部屋は、2部屋

子どもが生まれたときのことを考えて、そこを選んだ事を思わせます

そのうちの1部屋が私に与えられました

「すみません、しばらくお世話になります」

「ああ、ここなら大丈夫だろ。荷物を置いたら、リビングでさっきの続きを聞かせてくれ」

チーフマネジャーは、私が居候することよりも、メールの主への興味が勝っているようで、ネクタイを外すと、ビールと乾き物をローテーブルに置いて、ソファではなく、ラグの上に胡座で座り、私を待つ態勢をとっていました

チーフマネジャーと向かい合わせでラグの上に座ると、薄れていたリボンの結び目存在が、グッと食い込み主張してきます

それでも、それまでのチーフマネジャーの対応を知っているその時、強い味方の存在で、心を強く出来ていたのです

「デスクに写真が入ってた…それで?」

「【トイレで下着を…脱いでこい】とメールで…誰が送っているのか見渡していたら…【みんなに写真を……見られる方が…嬉しいのか】と続けて送られてきました…」

「………それで…従ってしまった…のか…」

チーフマネジャーの存在で抑えられていたスイッチは、何とも思わず口にしたその彼自身の1言で、早々に切り替えられてしまいました

「……すみません」

「脱いだところで、相手に知る術はないだろ」

正論を言われるほど、潤う液体は、スカートまで濡らしていたことでしょう

「…脱いた物は…【備品室の隅に置いてこい】とメールが届きました…」

チーフマネジャーが大きく吐いた息は、呆れた部下へのため息だったように思えます

「…それで?」

「………」

呆れているであろうチーフマネジャーにはそれ以上打ち明けられる訳がありません

「……まあ…そういった要求が…続いていると。そう言う事だな?」

頷いた私は自分への狡さも感じていました

不都合は伏せ、被害者としていたのですから

「はっきり聞かせてもらうが…本当だろうな?」

「え…?」

「オマエがそんな嘘を言う理由もないし、そんなヤツではないと充分分かっている。
昨日といい、さっきの慌てようから、本当なんだろうが…何の証拠もないまま、信頼している会社のヤツらを探ることには、抵抗もある…
仮にだ…オレの知らない社内恋愛関係のもつれなんかでそういった事だってない事も…ないだろ」

驚きましたが、ショックというより、正しく判断していると思いました

彼はチーフマネジャーとして、私に寄ることはせず、少ない情報で事を荒立てるような事も避け、あくまで中立な立場で判断出来ているのです

それは、彼の冷静さに対するリスペクトへと繋がったのは、言うまでもありません

その証拠に、仮定とされている事を直ぐに否定したのは、誤解をされたくない女としての感情が強かったのだと思います

「社内で誰とも、そういった関係になった事はありません…」

「身に覚えもないんだな?」

頷くことが出来なかったのは、〔お願いします〕と返信したメールがあったからです

「…すみません」

「あるのか?」

「メールに…返信を…」

「何と?」

「言えません…」

「…………」


チーフマネジャーが私の煮え切らない態度に対して、充分慎重に、寛容に対応してくれていた事にも、限界があって当然なのです

申し訳無い感情の裏で、小刻みになった呼吸と、躰がモジモジと動いていたのは、この空気が私にとって官能的であった証拠でしょう

それでもまだ感情をコントロールしていてくれたチーフマネジャーは、1つの打開策を提案してくれたのです

「ショートメール………その番号にかけてみろ」

「えっ?」

「それが正しいのか分からないが、オマエが全貌を話せないなら、それしかないだろ、今なら危険もない」

「………」

そんな単純な事に気付かなかった自分にも、驚きました

手取り早くメールの主とコンタクトが取れるのです

相手が出るのか、そうでないのか、繋がった時、相手はどうするのだろう

ドキドキしながらスマホを開き、番号を確認して、通話ボタンを押す前に1度チーフマネジャーを見ると

「怖いなら…オレがかけることも出来るが?」

スマホを受け取るべく、手を差し伸べてくれましたが、それは自分ですべきことだと思い、スマホに視線を戻し

「大丈夫です。チーフマネジャーという、強い味方がいてくれるんで…」

そう言って、1度大きく息を吐いたその時、今思えば、言われた彼はどんな顔をしていたのでしょう

通話ボタンを押して耳元へと運びました
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