15 / 34
その15
しおりを挟む
中村はその足で総務倉庫へと向かうと、そーっとドアを開けました
「何か落としてたか?」
「ひゃっ!」
倉庫内で床に這いつくばっていたサセコが驚きで立ち上がると
「変な噂を立てられたくないからドアを開けたまま話しがしたいけど、誰かが通って聞かれたら、マズイのはそっちだ…身の安全を保障してもらえたらドアを閉めるよ」
「何で?帰りに来るんじゃ…」
サセコはまだこの状況に納得していないようで会話になりそうにありません
「とりあえず棚の向こうに行こうか?質問はその後で」
サセコは棚の向こうで中村と話すと思い
それに従いましたが、中村はドアの前から動きません
棚を挟んだ荷物の間越しに中村が見える位置へと移動すると
それを見届けた中村は音を立てないようドアを閉めました。
「中村さん違うの!これは…」
棚を隔てたまま会話がなされます
「落ち着いて。誰にも言うつもりはない。話がしたいんだ」
サセコがパニックにならないよう、中村は丁寧に話します
「あたしもこんな所でなんて…誰かな…と思って来ただけで…」
「残念だけど、昨日の音声は録音してある。もちろん今もだ。下手げな事言わない方がいい」
「………」
「今後オレとかオレの周りがどこかに飛ばされたり、不本意に違う部署に異動になったり…派遣社員から迷惑をかけられたり…そんな事がないと約束してくれないか?」
「そんなの…あたしと…関係なくない?」
「それなら音声の入ったUSBを人事部長の奥さんに送っても問題ないか…」
「止めて!」
「じゃあどうする?」
「…約束する。でも、あたし、そんな事するつもりないもん」
「知ってる。キミの行動でそうなる可能性があるってだけだ
中途半端に権力がある男の嫉妬は女より面倒だから」
「………」
「人事部長だけじゃないんだろ?」
「………うん」
「贅沢する為だけならリスクもあるし安すぎるんじゃね?
じゃ…この事はお互い秘密って事で」
中村はその部屋を出て午後の業務に向かいました
『やっぱり終わらない』
就業時間を迎えた時、想定を超えて仕事が残っていました。
長い事パソコンに向かっていると、人が減って行くのと共に雑音が減り、作業に没頭する事が出来ました
時間の感覚を忘れ、うっすら課長の“じゃ…電気とセキュリティよろしく”という声が聞こえたようにも思います。
もうすぐ終わると思った頃お腹がキュルッと鳴りましたが、仕事を終わらせる事を優先しようとお腹に力を込めた時
「本当に残業してんだな」
「な…中村さん…入ってきて…大丈夫ですか?」
見回せば室内の電気は半分消され、同じ部署の人はいないのですが違う部署の中村さんがここにいる事は、あまりよろしくないように思います
「何とでも言えるし大丈夫だろ。飯、買って来たから食おう」
時間を見たら8時を過ぎています。ご飯を買って来てくれたとは驚きました。
「ありがとうございます。もう少しで終わるので、中村さんは食べちゃってください」
「じゃ、遠慮なく」
中村さんの持つ袋から、焼き肉屋さんの焼き肉弁当の良い匂いが漂って来て、人参をぶら下げた馬の如く残った仕事のスピードが上がりました。
「それ」
「え?」
「グラフが間違ってる」
中村さんはご飯を食べずに隣のデスクで肘をついて、私のパソコンを見ていたのです
「え?合ってますよ?」
「多分そっちから違うんだろ」
そもそも渡された資料のグラフが間違っていたようで
「ちょっと借りる。飯、食ってて」
ノートパソコンを奪うように自分に向け、何やら打ち込み始めました
「あの…中村さん…」
私の声は届かず、存在すら忘れているようで
食い入るように作業する中村さんを食い入るように見る続ける事しか出来ませんでした。
時間にして2、3分でしょうか
さほど待たされる事なく
「オッケー」
そう言ってこちらを見て
「あ?まだ飯食ってないのか?」
「はい…全部終わらせてからじゃないと…」
「もう終わってる」
「え?」
それには早すぎるはずなのですが確認してみると、“間違ってる”と言ったグラフはそのままで、残されていた物が完璧に仕上がっていました。
「ありがとう…ございます…お茶、入れて来ますね」
「あぁ、ありがとう」
中村さんはいつもと変わらないはずなのに、なぜか私だけがドキドキしてしまいました
緊張で食べ物が喉を通らないかと思ったのですが
「美味しい…」
空腹に与えられた焼き肉弁当は心の声が漏れてしまう程美味しくて、1口食べたら、箸が止まる事なく最後まで食べ切ってしまいました
部署の後片付けをしたら、暗くなった社内の移動まで中村さんは“付き添う”と付いて来てくれたのです
「何か落としてたか?」
「ひゃっ!」
倉庫内で床に這いつくばっていたサセコが驚きで立ち上がると
「変な噂を立てられたくないからドアを開けたまま話しがしたいけど、誰かが通って聞かれたら、マズイのはそっちだ…身の安全を保障してもらえたらドアを閉めるよ」
「何で?帰りに来るんじゃ…」
サセコはまだこの状況に納得していないようで会話になりそうにありません
「とりあえず棚の向こうに行こうか?質問はその後で」
サセコは棚の向こうで中村と話すと思い
それに従いましたが、中村はドアの前から動きません
棚を挟んだ荷物の間越しに中村が見える位置へと移動すると
それを見届けた中村は音を立てないようドアを閉めました。
「中村さん違うの!これは…」
棚を隔てたまま会話がなされます
「落ち着いて。誰にも言うつもりはない。話がしたいんだ」
サセコがパニックにならないよう、中村は丁寧に話します
「あたしもこんな所でなんて…誰かな…と思って来ただけで…」
「残念だけど、昨日の音声は録音してある。もちろん今もだ。下手げな事言わない方がいい」
「………」
「今後オレとかオレの周りがどこかに飛ばされたり、不本意に違う部署に異動になったり…派遣社員から迷惑をかけられたり…そんな事がないと約束してくれないか?」
「そんなの…あたしと…関係なくない?」
「それなら音声の入ったUSBを人事部長の奥さんに送っても問題ないか…」
「止めて!」
「じゃあどうする?」
「…約束する。でも、あたし、そんな事するつもりないもん」
「知ってる。キミの行動でそうなる可能性があるってだけだ
中途半端に権力がある男の嫉妬は女より面倒だから」
「………」
「人事部長だけじゃないんだろ?」
「………うん」
「贅沢する為だけならリスクもあるし安すぎるんじゃね?
じゃ…この事はお互い秘密って事で」
中村はその部屋を出て午後の業務に向かいました
『やっぱり終わらない』
就業時間を迎えた時、想定を超えて仕事が残っていました。
長い事パソコンに向かっていると、人が減って行くのと共に雑音が減り、作業に没頭する事が出来ました
時間の感覚を忘れ、うっすら課長の“じゃ…電気とセキュリティよろしく”という声が聞こえたようにも思います。
もうすぐ終わると思った頃お腹がキュルッと鳴りましたが、仕事を終わらせる事を優先しようとお腹に力を込めた時
「本当に残業してんだな」
「な…中村さん…入ってきて…大丈夫ですか?」
見回せば室内の電気は半分消され、同じ部署の人はいないのですが違う部署の中村さんがここにいる事は、あまりよろしくないように思います
「何とでも言えるし大丈夫だろ。飯、買って来たから食おう」
時間を見たら8時を過ぎています。ご飯を買って来てくれたとは驚きました。
「ありがとうございます。もう少しで終わるので、中村さんは食べちゃってください」
「じゃ、遠慮なく」
中村さんの持つ袋から、焼き肉屋さんの焼き肉弁当の良い匂いが漂って来て、人参をぶら下げた馬の如く残った仕事のスピードが上がりました。
「それ」
「え?」
「グラフが間違ってる」
中村さんはご飯を食べずに隣のデスクで肘をついて、私のパソコンを見ていたのです
「え?合ってますよ?」
「多分そっちから違うんだろ」
そもそも渡された資料のグラフが間違っていたようで
「ちょっと借りる。飯、食ってて」
ノートパソコンを奪うように自分に向け、何やら打ち込み始めました
「あの…中村さん…」
私の声は届かず、存在すら忘れているようで
食い入るように作業する中村さんを食い入るように見る続ける事しか出来ませんでした。
時間にして2、3分でしょうか
さほど待たされる事なく
「オッケー」
そう言ってこちらを見て
「あ?まだ飯食ってないのか?」
「はい…全部終わらせてからじゃないと…」
「もう終わってる」
「え?」
それには早すぎるはずなのですが確認してみると、“間違ってる”と言ったグラフはそのままで、残されていた物が完璧に仕上がっていました。
「ありがとう…ございます…お茶、入れて来ますね」
「あぁ、ありがとう」
中村さんはいつもと変わらないはずなのに、なぜか私だけがドキドキしてしまいました
緊張で食べ物が喉を通らないかと思ったのですが
「美味しい…」
空腹に与えられた焼き肉弁当は心の声が漏れてしまう程美味しくて、1口食べたら、箸が止まる事なく最後まで食べ切ってしまいました
部署の後片付けをしたら、暗くなった社内の移動まで中村さんは“付き添う”と付いて来てくれたのです
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる