きみに心奪われたまま

松石 愛弓

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壁にもたれながら、ズルズルと腰の抜けた体が落ちてゆき、尻もちをついた。
諒ちゃんも、私に合わせるようにしゃがんで、至近距離で見つめてくる。

長いまつげが揺れ、涼しげな瞳が私の心を射る。
イケメンのアップって、ド迫力だ。

「陽菜姉…」
しゃがんだ状態での壁ドンも素敵。

首を傾げたような角度で、諒ちゃんの顔が近づいてくる。
夢を見てるような気持ちで、そっと目を閉じた瞬間…、

『ぐうぅぅぅぅぅう……』
腹の虫が鳴いた。

ああ! なんでよりによってこんな時に!!と、ミュージカル口調で叫びたくなる衝動にかられる。
こんなチャンス、めったにないかもしれないのに~!


「陽菜姉に夕食準備してたんだ。一緒に食べよう」
そっと目を開けると、諒ちゃんが笑顔で言った。

優しいなぁ、諒ちゃん。
ドン引きされても不思議じゃない状況なのに。

「陽菜姉をダイニングまで運んであげるね」
細マッチョな腕が、私を軽々と抱き上げ、歩いてゆく。

女の子の憧れ、お姫様抱っこだ~!
諒ちゃんて、本当に王子様みたい♪

私をダイニングの椅子に座らせてくれた後、
諒ちゃんは、熱々のステーキと野菜サラダとスープと揚げ物とデザートのケーキを運んできてくれた。
ステーキなんて久し振り過ぎて、感動を隠せない。

「こっ、これ、全部、諒ちゃんが作ってくれたの?」
食器もブランド物でセンスが良くて素敵だし、なんだか凄く美味しそうだし、盛り付けも美しい!

「うん。口に合うと良いんだけど」
はにかんだ笑顔が、可愛すぎる。

諒ちゃんが作ってくれたんだもん。たとえどんなに不味くても綺麗に完食するわ!

「いただきます」
手を合わせ、食べ始める。

「お、美味しい!こんな美味しいの食べたことない!なにこれ!」
美味しすぎて箸が止まらない!
このスープには何の隠し味が? ステーキの絶妙の焼き加減に上質のお肉の濃厚な旨味、サラダのドレッシングも手作り?めちゃめちゃ美味しい~! 魚介類の揚げ物も美味しいし、ご飯も炊きたてで美味しいし、ケーキもふわふわで上品な甘さで果物いっぱい乗ってるし。

なんだか美味しすぎて、あっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした!」
拝むように深く感謝する。

ああ、なんだかすごく幸せ。
一人暮らしのアパートで、めんどくさいからカップラーメンにしとこう、なんて言ってた頃と大違い。

好きな人が作ってくれた御馳走を一緒に食べれるなんて。
なんだか幸せ過ぎて、バチが当たりそう。
バチが当たってもいいわ。今、諒ちゃんとふたりでいられる瞬間が、とても幸せだから…。


♪♪♪ピ~ンポ~~~ン♪♪♪


えっ。もう、バチ当たるの? 早くない? もうちょっとくらい幸せの余韻を感じさせてくれても。
もしかして、また権俵さん…?

諒ちゃんが席を立つ。
「多分、編集の人だよ。気にしないで、ゆっくりしてて」

なんだぁ。編集の人か。よかったぁ。
なんて思ってたら、玄関から若い女性の話し声が聞こえてくる。
リビングに移動したようだ。

気になって、そぉっと覗いてみると…

スタイル抜群の美女が、諒ちゃんに抱きついていた!

諒ちゃん…その女性って、本当に編集の人…?
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