黄泉津役所

浅井 ことは

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祭り

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綺麗な女性だなぁと見ていると、「あいつはろくろ首だ」と言われ、「首が伸びるんだ」とニヤニヤと笑う闇之助に、「今は居酒屋をしていると聞きますよ?」と志那さん。

「後で教えてやる」とだけ言われ、俺を囮にするのは良いのだが、もしかしたら祖母も狙われてるかもと手を上げる。

「婆ちゃんは桃ちゃんを連れていくって言ってたけど、それは大丈夫なんですか?」

「夕刻はまず大丈夫でしょう。屋台は二十時には閉めてしまうそうなので、人も少なくなります。なので祖父母殿と桃ちゃんは猿田さんのお宅に匿います。ですので、初日に来るのか二日目に来るのかを聞いてもらいたいのですが」

「あ、両方行くそうです。二日目は親父たちも行くって言ってました」

「ならば、二日ともうちで預かって送るとしようかの」

「お願いします」

「では、屋台の方々は引き続き準備の方へお願いしますね。丈史君の警護の御三方はお残りください」

みんながワイワイと会議室を出て行ったあと、残ったのはきれいなお姉さんに酒呑童子と茨木童子という人。

なのに闇之助と酒呑童子は目に見えるかのように火花がバッチバチ。

「け、喧嘩はダメだよー」

「風太、喧嘩したらみんな噛んでいいからね」

「噛むだと!?」

「うわぁ、ごめんなさい」

酒呑童子にびくつく風太をヒョイっと持ち上げる茨木童子。

「可愛い犬だね」

「風太と言います」

「ふ、ふうた。もうすぐ六ヶ月くらい……です」

風太を抱っこし、椅子に腰かけて「俺は茨木童子。いばらって呼ばれてる。あっちは酒呑童子のてん。鬼だよ。隣のお姉さんはろくろ首の……」

「昔は花魁だったんだよ。あちきは紫乃しのって今は名乗ってる。人の世界で長く暮らすには、あちき達妖怪は名を変え場所を変え住み続けるしかないのさ」

「花魁も仕事としてしてただけでしょう?」

「かなり気に入って長くやってたからねぇ」

「あの、呑さんと闇之助って仲悪いんですか?」

「俺は呑とは兄弟分だが、やはり性格は違うんだよ。呑はなんというか……闇龗神、今は闇之助だっけ?同族嫌悪的な感じだと思うよ?」

「同族じゃねぇ!」

「同じにすんな!」

「ほらね?」

なるほど!と見ている間に風太は紫乃さんの腕の中でウトウト。

「愛らしいねぇ。噂では座敷童子の桃ちゃん?その子のことも役所では人気だと聞いているけれど、志那様、童子が家を出て歩くなんて初めて聞きましたよあちきは」

「月読様の力もありますし、桃ちゃん自身の力もあるようでして、まだよく分からないこともあるんです。警護ですが……」

「あちきは飴細工を売るんだよ。いくつかの屋台に分かれててね、表通りは屋台からだとよく見えるから……」

「俺は呑が飲まないように見張るよ。俺たちは酒好きだからすぐ呑んじゃうし。ま、この祭り中は禁止されてるけどね」

「あの、よろしくお願いします」と深々とお辞儀。

そして、もし捕まえたら……「一発ぶん殴る」としっかりと宣言。

「おやおや、男子おのこは元気があること」

「踏み台用意してやろうか?それか抱っこしてやろうか?」と憎まれ口の呑さん。

「二人とも、喧嘩したいのなら祭りのあとでしてくださいね。さて、食堂へ行きましょうか」

「終わりなのかな?」

「たまには役所を見て回ってから食堂に行くのもいいのではないですか?」

「久しぶりだし挨拶しておこうかな」

「俺は呑を連れて帰るよ。まだ仕入れもあるのに……呑、帰るよ」

「ま、ま待て。俺は負けてねーからな!」

「こっちのセリフだばーか!」

「志那さん、闇之助が子供みたいで恥ずかしい」

「同感です」

「じゃあ、祭りでね」と風太を返してもらい、やっと静かになったところで一階に行くと、以前より忙しそうで手伝わされる可能性が高いと見て回るのをやめて食堂に逃げ込む。
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