下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
53 / 73
妖街

.

しおりを挟む
 「何処の方です?」

「ここから西に行くと大名屋敷があるだろう?そこに行けば嫌でも分かる」

「その人、もしかしなくても女好きですか?」

「良く、遊廓の女を買って家にあげていると聞くが、最近は特に人数が多いと聞く」

 成程と、栞から聞いた話をし、今起きていることも話す。

 話している間、隣では栞が箸を置いて下を向いて赤くなっているが、気にせずに食べるようにと言い、秋彪には食べ過ぎだと注意する。

「あの、私が弱いばかりにこんなことになってしまって本当に申し訳ございません」

「いえ、あなたのせいではありませんし、多分ですが、冬の社を奪うと同時に那智の社を奪って、徐々に数を増やし、私と秋彪の社も奪うつもりだったのでしょう。祭りには妖力も高まりますし、今回の件で下に眠ってる方を起こそうとしてるのが分かりましたしねぇ」

「龍神様が眠ってると聞いたことがありますが、本当だったのですか?」

「噂ではありますが、確かめたことはありませんからねぇ。ですが、ここ最近町に妖怪等が多く出ていることも事実ですし。色々と活発になっているのは噂の千年祭で竜神が起きると言う伝説のせいかもしれないですね」

「あの町はどうなってしまうのでしょう?」

「人間はなにも変わらないですよ。でも少なからず影響はあると思います」

「社の狐はなにも出来ないのですね」

「そんなことはありません。千年祭、栞さんも手伝ってください」

「はい、私頑張ります」

「それよりさ、おじさんの影でその大名の家に入れないの?」

「お、おじさん?」

「父上のことです。間違いではないでしょう?」

「そうだな。影は送ることはできるが、あの家は人も多ければ影も多い。バレずに行くのは無理だろうな」

「でしたら私の影ではどうでしょう?音もなく動くのが得意な狐がいます」

「ならお願いしましょうか。もう回復の方は出来ていますか?」

「はい。冬弥様のお陰で。雫、出てきて皆さんにご挨拶を」

「雫です」と頭を下げる狐はほかのものよりも一回りは小さい。

「小さいでしょう?この狐はまだ私のところに来たばかりで」

「そのようですね。雫さん、入れそうですか?」

「雫とお呼びください。入れはしますが私は戦えません。見てくるだけでいいのならすぐにでも行けます」

「では雫に水狐をつけましょう。危ないと思ったらすぐに逃げてください。水狐は雫を守るように」

「了解です」

 スゥっと消えたので屋敷に早速見に行ったのだろう。戻って来るまでに食事を済ませようと箸を取る。

「秋彪、あなたの影も出してください」

「良いけど何処にいかせるの?」

「父上の影と一緒にどれだけの者が買われているのか見てきてください」

「ならば楼閣の方も見に行かせよう」

 二匹ずつ二手に別れて見に行かせる。その間暇だからと久しぶりに飲もうとの事となり、酒を飲んでいると兄が帰ってきたので話を聞きながら飲もうと誘う。

「それで、結局どうなったのですか?」

「証拠がないので身元引受けが来て連れ帰ったが、すごい剣幕だったそうだ。それと、今冬弥の居る人間の世界の岩戸だが、出入りの強化と周辺の社に役場の狐を配備することになった。千年祭が終われば落ち着くのだろう?」

「ええ。今活性化してますのでねぇ」

「じゃあ、安心じゃん!」

「それと、冬の神社に啓示があったそうだ」

「そうですか。そこの配備もお願いします」

「かなりの数の狐が行くが、腕章をつけてるから間違って殺すなよ?」

「分かっていますよ」

「栞殿、こんな弟ではあるがよろしく頼みます」

「え?私ですか?」

「父から一緒に住むと伺ったので……」

「兄上、まだそれ話してません……」

「え?」

「栞さん、先程話していたのだが、冬弥の力があれば通いでも大丈夫だそうだ。お見合いついでに、冬弥の事も頼みたいのだが……」

「ですが父と母に話さないと」

 これを、と見合い写真を二つ栞に父が見せる。昔のと今日のだと。
 これには頭を抱えるしかなかったが、真っ赤になって下を向いているのでこちらも何も言えない。

「お前の家に部屋は空いてないのか?」

「有りませんよ。下宿なら一部屋空いてますけど、家賃も入ってこないのに居候は嫌です」

「儂が払おう。倍でどうじゃ?」

「もう一声」

「人間界の通貨で一月15万!」

「内装の取り換え費も出してください」

「よし、記憶操作は任せるが、大事なお嬢さんだ。粗相のないようにな」

「ええ、家賃さえいただければ自由にしていただいて結構なので」

「そんな大金……私なんとかしますので」

「いや、無理に儂が頼んでおるからさせてくれ。所で栞さんは何色がお好きかな?」

「基本白ですが、薄紅色も気に入っております」

「冬弥」

「分かりました。奥の部屋借りますよ」

 席を立って奥の部屋へと行き、朱狐と連絡を取る。

「雪都と買い物に行ってください。あのピンクの部屋を白と薄紅色でなんとかして欲しいと。和風でいいでしょう。……ええ、帰ったら記憶の方は私がします。はい、頼みましたよ」

 部屋自体作り替えてくれと頼み、客間へと戻るとつまみが欲しいと言われ、栞と共に台所へと行く。

「何も無いですねぇ……」

「私も少しは出来ますので手伝います」

 それを聞いてまた葉物を間違えられたらどうしようと思ったが、ちゃんと小松菜といえば持ってきてくれるし、包丁扱いもなれている。

 揚げと炒めただけですがと味見をと渡してくるので摘むと、自分が作ったものと味が似ている。

 よく見ると台所には人間界の調味料も揃っており、無駄に缶詰が置いてある。

「さて、何を作りましょうかねぇ」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

処理中です...