下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
54 / 73
妖街

.

しおりを挟む
 缶詰のミックスビーンズを見つけ、フライパンでエビやイカなどを炒めてから、ビーンズを加えて中華味の素で味付けをする。
 粗塩があれば良かったのだが、流石になく塩のみで味付けし皿に盛り付け、栞の作った炒め物をもって客間へと行くと、今度は酒が足りないと言われ、栞が徳利に入れて持ってくる。

「すいませんねぇ。久しぶりに帰ったので、父も兄も飲みすぎで……」

「いえ、私も久しぶりにこちらに来ましたが、向こうのものも揃ってますし、大分と変わりましたね」

「そうですね。流石にガスコンロはないですが、火は妖力でつけられますし……」

 止める間もなく、紐で着物の袖をくくり、お膳の物を洗っている。
 流石に水道がないので、水を井戸に汲みに行くが、手際もよくすぐに終わってしまった。

「あの、私洗い物とかならできますので、言ってくださいね。お料理は簡単なものしか作れませんが」

「お酒は飲めますか?」

「少しなら」

 酔っぱらいを放っておいて夜風に当たりながら2人で縁側で先ほどの摘みをつつきながら飲む。

「冬弥様はいつも横になられてるんですか?」

「寛ぐ時はですが、下宿ではしませんよ?油断したら尻尾が出てしまう」

「私、本当にお邪魔してもいいのでしょうか……」

「明日には部屋も準備出来てますよ。先程連絡したので」

「社なんですが……」

「10居ましたよね?」

「はい……」

「毎日交代で二匹付ければ、早々行かずに済みますよ?警備も来ますし」

「それで……良いのでしょうか?」

「もう少し気楽に考えてもいいと思います。行くなと言っているわけでもないですし」

「はい。あ……戻ってきました」

 みんな寝ているだろうと影から報告を聞きみんなに戻るように言う。

「牢に女が15。流石に逃がしてあげたいですが、買ったものならば取り上げることもできませんしねぇ」

「でも、雫は影が皆さんについていないと」

「そこだけで抑えるのもきついかも知れませんが、明日の朝にでも兄に伝えておきます。もう遅いので休みましょうか」

 翌朝、兄が出かける前に父も含め影の話を伝える。

「分かった。注意しておく」

「それでお前達はもう帰るのか?」

「少し街を見て、楼閣の方を回って帰ろうと思ってますが」

「栞さんを連れてかね?」

「父上、女人が楼閣を歩いてはいけないと言うことは無くなったと聞きますが」

「確かに……ただな、まだ悪いものも居ることは忘れるなよ?」

「ええ。警備はいつからになりそうですか?」

「既に向かわせている。冬弥からも話しておいてほしい」

「そうします。では私たちはこれで……」

「冬弥、栞さんの事だが……」

「なんです?」

「あちらの親御さんに昨夜手紙を渡しておいた。大事なお嬢さんだ……分かっておるな?」

「良いかただとは思ってますよ?ですがそれと結婚は別物ですので」

「全く……まぁいい。毎月使いに家賃は持たせるから」

「では。この辺で失礼します」

 三人で家を出て街の方へ向かい、一応栞の実家にも挨拶に行く。

 父と同じことを言われ、よろしく頼むと言われた後にふと服をどうするかと聞く。

「着物では時代に合いませんものね?」

「帰ったら買いに行きましょうか」

「冬弥様はお着物のままですか?」

「一応持ってはいますよ?あの子達の学校に行く時に着ることが多いですけど」

「そうなんですか。私は似合うでしょうか?今まで社からもほとんど出ず、姿も消したままでしたので」

「緊張しますか?」

「少しは……」

「なぁ、俺邪魔?」

「秋彪、あなたは馬鹿なんですか?」

「ごめんて。それよりもさ、あれ見てよ」

「こんな街中にショッピングモール?」

「建物はこちらと変わらず木造ですけど……」

「見ていきましょうか?」

「うん、どんな奴がやってるんだろ?」

「売ってるものも気になりますねぇ」

 平屋建ての店が四方を囲んでおり、真ん中にはフードコートと思わしき飯屋がある。

「これ、人間界のもの売ってるね……」

「ですねぇ。だから缶詰など豊富だったんですね」

「狐の着てる服も今どきのものだよ?簪もあるけど、ペンダントなんかも売ってるし」

「不思議な光景ですね」

「ちょっと待っててください」

 一つの店に入り店員に話を聞くと、つい最近出来たがまだ洋服などは特に需要がないといい、テーマパークのようになっていると言う。
 始めた人は不明だが、長くあちらで暮らしてた人で、数名が色々と品物を入れてくるのを売っているだけだと言っているが、役場にも認められた場なので問題もないと聞いた。

 そのことを二人に話すと驚いてはいたが、商品的には最近のものが多い事と、何故か値段が安い事もあったので、ここで揃えようとのことになり、何点か洋服を見ていく。

 着替えた姿を見ると、どこにでも居る女性にしか見えないが、白いニットにフレアースカートとお嬢さまっぽかったのもあるが、それがまた似合っているので、よく似た服を選んで袋に入れてもらう。

「着ていったらいかがですか?すぐに下宿ですし」

「あの、変じゃありません?」

「よく似合ってるよ!奥さんて感じ」

 ジロっと見ると、いけねッという顔はしていたが楽しんでいるようだったので、まあ良いかと近くのアクセサリー屋による。

「栞さん、これを」

「何ですか?」

「えーと、へあばんど?かちゅーしゃ?とか言うものらしいです。髪が長いので前髪をあげるのにいいと聞きましたので、先ほどの服に合わせた色を何点か」

「ありがとうございます。大切にします!」

「良かったじゃん」

「はい。付けてみてもいいですか?」

 構わないと言うと、鏡の前で一つつけこちらを見てニコリと笑う姿が、どうしてもおとなしい感じの女子大生に見えてしまう。

「さて、あと必要なものは……一人で入れます?」

「え?あ、はい。行ってきます」

 どこに行ったのか聞く秋彪に女性の下着だと答えると、何故か顔を赤くしている。

 結構な荷物になったが、秋彪にすべて持たせて楼閣の通りに入る。

 緑の柱がその証だとよく聞くが、結構な数の人がいてどこも賑わっている。

「変な感じはありませんけどねぇ?」

「どこも似たりよったりだろ?この先から帰るのか?」

「ええ、あの岩戸に出ますから……それにしても、男性は朝から仕事もせずに入り浸りですか」

「だよなー。それは気になるけど聞けないじゃん」

「ですよねぇ。とにかく帰りましょう。もう、夕餉のことが心配でして……」

「まだ朝だけど?」

「朱狐ですよ。朝餉はいいとしても、任せ切りにしたら毎日シチューかカレーになってしまいます……私の判断ミスですが、桜狐をつけれは良かったですね……」

「まさか?」

「まさかです!調子が悪かったと言い訳する……いや、夜に帰宅したものから記憶操作するので一緒に消します!」

「あ、兄貴の祝い忘れてる」

「そこの酒屋で買いましょうか」

 祝の酒を買い、流石に秋彪の手は塞がっているので自分で持つことにし、岩戸の番をしているものに帰ると告げる。

「畏まりました。一時的にこちらへの道は塞がれ、すべて役場前に出るようになりますので、お戻りの際はお間違えの無いよう……」

「今日からですか?」

「東は昨晩からです。何かあったんでしょうか?」

「大したことではないと思いますよ?ご苦労様です」

 中に入り真ん中辺りまで進むと、警備が数名立っており、出入りの者を審査しているところだったが、既に顔は知られているので、先に通してもらい奥へと進む。

「良いのか?」

「何がです?」

「狐だけじゃなくて、妖怪もいたぞ?」

「妖街ですからねぇ」

「違うって。まともなのはいいとして、ダメな奴らはまた街に戻されるんだろ?あちらで何かあったら大変じゃないか」

「それなら、ついでに捕まえる手間が省けると兄が言ってましたよ?」

「ならいいんだけど。出たら先に冬の神社?」

「そうしましょう。祝い事は早いほうがいいですし」

 岩戸を抜けると人間界のいい空気が流れ込んでくる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...