転生と未来の悪役

那原涼

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第一章

密会

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猫を見た次の日の昼。

屋敷中に噂が流れていた。

アレスト坊ちゃんがメイドと密会している、そんな内容の噂が使用人から使用人へと度り、昼になると屋敷中知られることとなった。

カナトは干物を抱えながらニヤニヤとしていた。

なんだよ、悪役のやつ、粋なことするなぁ。メイドと密会か………。

考えながら首を傾げる。

こんな内容原作にあったか?

アレストの過去を語る場面はあったが、メイドに入れ込んでいる場面などなかったはずである。こんな物語になりそうな部分を書かないのもおかしい。

とはいえ、今は現実として作品の中にいるため、多少原作に出てこない部分もあるだろうと、カナトは気にしなかった。

庭でシーツや服を干していると、にゃんという声が聞こえた。

猫か!とシーツから顔を出すと、オウムがそこにいたではないか。カナトが半目になる。

「ちっ、またお前か。それ鳥の鳴き声じゃねぇだろ」

地面にいたオウムへ指を差し出すと、パサパサと翼を動かして指に止まった。

それにカナトが、おお!、と感心する。

「かしこいなお前!」

ほめたそばからオウムがどこかへ飛んでいく。

あれは放し飼い、なんだよな?

心配になったカナトは指を出して「戻ってこい!」と叫んだ。しかし戻ってくることなく庭のどこかへと消えていく。

と、鳥には帰巣本能があるって聞くし?大丈夫だよな?

頭に浮かぶのは、生前によく見かける鳥の迷子ポスターだった。

干物を置いてカナトは慌てて通り過ぎようとするメイドを捕まえた。

「あのさ、この屋敷にアレンっていうやついないか?急いでいるんだ!」

「アレン?」

メイドは不思議そうにして庭の表にカナトを連れてきた。

目の前に鎖で繋がれているアレンを見て目を覆う。

「ワンッ!」

犬だった。

「このアレンじゃなくて、人間のアレンだよ!!」

「人間?それでしたら厨房にこもっているシェフのことかしら?」

「その人だ!」

「でも料理以外に興味ないっていうし、そもそも厨房から出てこないし、無関係の人は入らせてくれないのよ」

「大丈夫だ!俺とアレンは猫友達だからな!あいつが飼っている猫も見せてもらえたんだ」

自信満々に言う少年に対し、メイドがどこかおかしそうに笑う。

「アレンシェフは動物嫌いなのよ?猫を飼うわけないじゃない」

「え?動物嫌い?オウムとか飼ってないのか?」

「オウム?それならアレスト坊ちゃんが飼っていると思うけど……」

カナトはその後メイドと分かれた。他にもアレンの事を訊いたが、誰ひとり金髪のアレンはいないと言う。

いない?ま…まさか、アレンって幽霊じゃないよな?

その想像をしてカナトが身震いをした。

ここは小説の世界である。ないとは言えない。だが、この作品はそんな世界観ではなかったはずだ。ゆえに悩む。

「除霊グッズ売ってるかな」
















アレスト・ロイマン・ヴォルテローノはヴォルテローノ家当主、アグラウの一人息子である。

幼少期より当主となれるよう教育を施され、その教育の期待に応えるようにアレストの成績はよかった。彼の教師に就いた者たちからの賞賛は絶えず、いつしかできることが当たり前になった。

アグラウは父親としてアレストを誇りに思い、彼を本気で家を継がせようとした。傍目から見ればそれは微瑕びかが何ひとつない完璧な関係である。

ただし、唯一この関係に不完全さを露呈すれば、それは血の繋がりがないことになるだろう。

昼食の席でアレストと上座にいるアグラウは黙々と食事を進めていた。

そろそろ食事も終わる頃、アグラウは口を開いた。

「アレスト、今朝からある噂を聞いたが」

「噂?」

「ああ。お前に関しての噂だ。どうやらお前がメイドと密会をしているらしい。本当か?」

「……一緒に昼食を食べてくださると思ったら、それを聞きたかったのですか」

「アレスト、私の質問に答えろ」

「していませんよ」

アレストは手持ちの笑顔を出してアグラウに笑いかけた。何度も練習した貴族らしい笑顔である。

「僕はヴォルテローノを継ぐためにまだ勉強をしないといけない身なのに、メイドにうつつを抜かす暇がありますか?」

継ぐ、という言葉にアグラウはわずかに顔を強張らせた。それを敏く目に映してアレストは視線をそらして伏せた。

「それならばいい。噂は消すよう言っておく」

「ご迷惑をおかけします」

「ヴォルテローノを継ぎたければ今後は自分に関する不利な噂は自分でどうにかしなければいけない。それを覚えておくように」

「心に刻みます」

アグラウが部屋を出て、食器も下げられた食卓でアレストは動かなかった。

使用人たちも退室し、無人の空間でため息が吐き出される。

ふと脳裏のうりに誰かの顔が横切る。なんだか、その誰かに無性に会いたくなったのだ。

アレストが部屋を出て廊下を数歩進んだ時だった。

「おい!前にいる人!手伝ってくれ!」

思わずハッとする。耳馴染みのある声が響いてきたからだ。











カナトは大量の汚れたシーツを持って隠し場所を探していた。

アレン探しに出掛けていたあいだ、風で飛んだシーツが水やりされたばかりの湿った土の上に落ちてしまい、大きな汚れがついてしまった。

隠し場所を見つけてバレないように洗うしかない。そう考えたカナトはさっそく隠し場所を探したが、屋敷の中で迷ってしまった。

といってもこの場所で1か月くらいしか暮らしてない。行ったことのない場所もある。

その行ったことのない場所でカナトは迷ってしまった。

そしてシーツの向こうにちらっと白い服を着た人物が見えた気がした。カナトは迷わず声をかけた。

「おい!前にいる人!手伝ってくれ!」

カナトはその人物に大股で近づき、なんとかシーツの後ろから顔を出そうとする。

立つ位置をずらして横目にその人物を見上げた時、カナ?と耳馴染みのある声が響いてきた。

カナトはその人物の顔を見た時、思わず目を見開いた。

「アレン……」

アレンは貴族調の服をまとい、驚きとも困惑とも取れる表情をしていた。

数秒の沈黙後、カナトの頭が急に冴えはじめる。

金色の短髪、白い貴族服、高い背、人当たりのいい性格……カナトの頭の中でアレンに関する情報が目まぐるしく組み立てられ、やがて一つの仮説にいたる。

のかもしれない。

なぜなら、はーー

「お前、まさか……」

「カナ……どうしてここに?」

「待て待て待て!お前、使用人じゃなかったのか!」

「僕は……その、だましてしまって申し訳ない」

高い背が今ばかり少し落胆したように小さくなる。

カナトは頭の中で、アレン改めアレストにしてきた失礼なことが横切る。冷や汗がどっと吹き出し、混乱と驚愕で足が震え出した。次の瞬間、パッとシーツをアレンに投げ出して逃げてしまう。

やばい!どういうことだ?アレンはいなくて、本当はアレストだったのか!













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