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第一章
喧嘩
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最初はバグかと思ってしまいましたが、本当に、たくさんのお気に入りありがとうございます!なんと100人を超えました!
皆様のご反応全てが原動力です!ありがとうございます⸜(๑⃙⃘'ᗜ'๑⃙⃘)⸝
◇—————————————————————
数日後、ユシルが屋敷に移り住もうとした。アグラウの提案である。
アグラウの事務室でアレストは手を後ろに組みながらその提案を聞いていた。感情のよくわからない表情で笑みを浮かべ、じっと自分の父親を見つめる。
「ユシルは明後日からこの屋敷で住むことになった。きみが準備してあげなさい。ちょうどこれを機に兄弟仲を深めるといい」
「はい、お任せください」
アレストはにっこりと笑ってこころよく引き受けた。
すべての会話を外で盗み聞きしていたカナトはギリギリと歯を噛み締める。
あのジジィ!何が兄弟仲だ!お前の考えていることなんて全部小説で知ってんだよ!2人を仲良くさせてアレストに自ら後継者の座を譲り出させようと企んでいるだろ!
なんて卑怯なヤツだと思いながら、カナトは後ろを通る使用人たちに変な目で見られていることに気づかない。
そして足音が向かってくるのを聞き、慌てて姿勢を正す。
ドアがガチャリと開くと、アレストが真っ先に見えたのが明後日の方向を見ているカナトだった。
視線がキョロキョロとさまよっている。
なんだがその光景にふと心に温かい何かが湧き上がる。
まるで仕事疲れに部屋へ帰ると見かける愛猫の姿のようだ。
「ずっと待っていてくれたのか?」
「え?あ、いや?まあ、うん。どうだった?」
「ユシルが明後日に帰ってくるらしいから部屋などを準備しないといけない。本当、責任重大だな!」
アレストは明るく笑った。
「あ、そうか……俺も手伝ってやるよ」
「ありがとう。じゃあ今から空き部屋を見に行くか」
歩き出したアレストについて行きながらカナトが訊く。
「もうどこか部屋の検討はつけたのか?」
「ああ。厩舎の隣にある余った倉庫」
「……………え?」
アレストがぴたりと足を止めた。振り返って、
「あはは!嘘だよ。そんなことするわけないだろ」
闇堕ち後は充分にある。
まさか、もう堕ちた?こんなに早く?まだ出会ってそんなに経ってないぞ!
カナトは若干焦りながらふたたび歩き出したアレストについて行った。
確か不満と恨みが少しずつ堆積していくという過程があるんじゃなかったのか?早くないか?それともこれはその不満と恨みのひとつなのか?
危ないと思ったカナトは前にある広い背中を見つめながら必死に頭を巡らせた。
アレストがユシルを嫌うもっともな理由は爵位と周りの変化である。爵位のことはともかく、周りの変化についてはカナト自身が味方であることを示せば変わるかもしれない。
設定上、悪役となるアレストにはツバを吐きかけたくなる過去が盛りこまれている。養子だという設定もそのひとつだった。養子としての劣等感がユシルを恨む鍵のひとつである。
ここ数日でいろいろ細部を思い出したカナトはメモを取るようにしていた。時系列はバラバラだが、何もしないよりはマシである。
結局俺ができることは味方だということをわからせるだけか。養子も、爵位も俺がどうにかできる問題じゃねぇな。
そもそもそれですらちゃんと効くのかどうかわからない。
アレストは二階の空き部屋をいくつか見繕ってから自室へと戻った。
部屋を見繕ったあと、分かれて1人で歩いていると、ふとカナトが訓練用に使っていた木剣をアレストの部屋に忘れたことを思い出した。
お互いの部屋をよく行き来するので、カナトはよく携帯していたものを忘れることがある。ただしアレストはそんなこと一度もない。
「めんどくさいな」
ぼやいてから庭に向かっていた足を引き返し、アレストの自室を目指す。
ドアをバンッと開けると椅子に座っていたアレストが驚いたように振り返った。手もとの何かを急いで隠す。
「アレスト!ここに木剣はないか?」
だが返事はなく、代わりに厳しい視線が注がれた。カナトが思わずあごを引いた。
「ど、どうした」
「……次からはノックをするか、声をかけてくれ」
さらに驚く。
今までドアを開ける際のノックや声かけは一度も求められなかった。それが今いきなり言われて一瞬反応できなかった。
「な、なんで……」
カナトはその理由を訊こうとしたが、それより先にアレストが口を開く。
「よく考えたが、確かに今まで自由にしすぎたかもしれない。カナト、きみは仮にも使用人だ。最低の礼儀は守るようにしてほしい。あとで必要な勉強材料を送るから今は帰ってくれないか」
どこか追い返そうとしているのを感じ取り、カナトは戸惑った。
「急に、どうしたんだよ。俺何かしたか?」
「すまない。今は帰ってくれないか」
「………っ。本当に何があったんだ。理由言えよ!」
「理由ならさっき言ったはずだ。きみが使用人でーー」
「そうじゃない!俺が言ってるのは俺を追い返そうとしている理由だ!それに、さっきまでなんともなかっただろ!」
「………いいから帰れ!」
初めてアレストから怒鳴られたことで、カナトは思わず頭の中が一瞬真っ白になった。そしてその場の思いつきで首から下げている鍵を取り出して投げつけた。
アレストはパッとそれを空中で受け取る。
「わかった!使用人らしくだろ!」
何があっても味方でいようとした矢先にこんな扱いを受けるとは思わず、ムキになったカナトは振り向きもせずにドアを思い切り閉めた。
カナトに出ていかれてからアレストはしばらくそのまま立っていたが、すぐに額を押さえて椅子に座り込んだ。
猫と一緒にベッドの下に隠れたもう1人が這い出る。
「……始末いたしましょうか?」
アレストから冷たい視線を向けられて赤茶髪の青年は黙り込んだ。
アレストは手の中で鍵を回しながらさっきのカナトの姿を思い出す。やがて小さなため息が部屋の中に吐き出された。
皆様のご反応全てが原動力です!ありがとうございます⸜(๑⃙⃘'ᗜ'๑⃙⃘)⸝
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数日後、ユシルが屋敷に移り住もうとした。アグラウの提案である。
アグラウの事務室でアレストは手を後ろに組みながらその提案を聞いていた。感情のよくわからない表情で笑みを浮かべ、じっと自分の父親を見つめる。
「ユシルは明後日からこの屋敷で住むことになった。きみが準備してあげなさい。ちょうどこれを機に兄弟仲を深めるといい」
「はい、お任せください」
アレストはにっこりと笑ってこころよく引き受けた。
すべての会話を外で盗み聞きしていたカナトはギリギリと歯を噛み締める。
あのジジィ!何が兄弟仲だ!お前の考えていることなんて全部小説で知ってんだよ!2人を仲良くさせてアレストに自ら後継者の座を譲り出させようと企んでいるだろ!
なんて卑怯なヤツだと思いながら、カナトは後ろを通る使用人たちに変な目で見られていることに気づかない。
そして足音が向かってくるのを聞き、慌てて姿勢を正す。
ドアがガチャリと開くと、アレストが真っ先に見えたのが明後日の方向を見ているカナトだった。
視線がキョロキョロとさまよっている。
なんだがその光景にふと心に温かい何かが湧き上がる。
まるで仕事疲れに部屋へ帰ると見かける愛猫の姿のようだ。
「ずっと待っていてくれたのか?」
「え?あ、いや?まあ、うん。どうだった?」
「ユシルが明後日に帰ってくるらしいから部屋などを準備しないといけない。本当、責任重大だな!」
アレストは明るく笑った。
「あ、そうか……俺も手伝ってやるよ」
「ありがとう。じゃあ今から空き部屋を見に行くか」
歩き出したアレストについて行きながらカナトが訊く。
「もうどこか部屋の検討はつけたのか?」
「ああ。厩舎の隣にある余った倉庫」
「……………え?」
アレストがぴたりと足を止めた。振り返って、
「あはは!嘘だよ。そんなことするわけないだろ」
闇堕ち後は充分にある。
まさか、もう堕ちた?こんなに早く?まだ出会ってそんなに経ってないぞ!
カナトは若干焦りながらふたたび歩き出したアレストについて行った。
確か不満と恨みが少しずつ堆積していくという過程があるんじゃなかったのか?早くないか?それともこれはその不満と恨みのひとつなのか?
危ないと思ったカナトは前にある広い背中を見つめながら必死に頭を巡らせた。
アレストがユシルを嫌うもっともな理由は爵位と周りの変化である。爵位のことはともかく、周りの変化についてはカナト自身が味方であることを示せば変わるかもしれない。
設定上、悪役となるアレストにはツバを吐きかけたくなる過去が盛りこまれている。養子だという設定もそのひとつだった。養子としての劣等感がユシルを恨む鍵のひとつである。
ここ数日でいろいろ細部を思い出したカナトはメモを取るようにしていた。時系列はバラバラだが、何もしないよりはマシである。
結局俺ができることは味方だということをわからせるだけか。養子も、爵位も俺がどうにかできる問題じゃねぇな。
そもそもそれですらちゃんと効くのかどうかわからない。
アレストは二階の空き部屋をいくつか見繕ってから自室へと戻った。
部屋を見繕ったあと、分かれて1人で歩いていると、ふとカナトが訓練用に使っていた木剣をアレストの部屋に忘れたことを思い出した。
お互いの部屋をよく行き来するので、カナトはよく携帯していたものを忘れることがある。ただしアレストはそんなこと一度もない。
「めんどくさいな」
ぼやいてから庭に向かっていた足を引き返し、アレストの自室を目指す。
ドアをバンッと開けると椅子に座っていたアレストが驚いたように振り返った。手もとの何かを急いで隠す。
「アレスト!ここに木剣はないか?」
だが返事はなく、代わりに厳しい視線が注がれた。カナトが思わずあごを引いた。
「ど、どうした」
「……次からはノックをするか、声をかけてくれ」
さらに驚く。
今までドアを開ける際のノックや声かけは一度も求められなかった。それが今いきなり言われて一瞬反応できなかった。
「な、なんで……」
カナトはその理由を訊こうとしたが、それより先にアレストが口を開く。
「よく考えたが、確かに今まで自由にしすぎたかもしれない。カナト、きみは仮にも使用人だ。最低の礼儀は守るようにしてほしい。あとで必要な勉強材料を送るから今は帰ってくれないか」
どこか追い返そうとしているのを感じ取り、カナトは戸惑った。
「急に、どうしたんだよ。俺何かしたか?」
「すまない。今は帰ってくれないか」
「………っ。本当に何があったんだ。理由言えよ!」
「理由ならさっき言ったはずだ。きみが使用人でーー」
「そうじゃない!俺が言ってるのは俺を追い返そうとしている理由だ!それに、さっきまでなんともなかっただろ!」
「………いいから帰れ!」
初めてアレストから怒鳴られたことで、カナトは思わず頭の中が一瞬真っ白になった。そしてその場の思いつきで首から下げている鍵を取り出して投げつけた。
アレストはパッとそれを空中で受け取る。
「わかった!使用人らしくだろ!」
何があっても味方でいようとした矢先にこんな扱いを受けるとは思わず、ムキになったカナトは振り向きもせずにドアを思い切り閉めた。
カナトに出ていかれてからアレストはしばらくそのまま立っていたが、すぐに額を押さえて椅子に座り込んだ。
猫と一緒にベッドの下に隠れたもう1人が這い出る。
「……始末いたしましょうか?」
アレストから冷たい視線を向けられて赤茶髪の青年は黙り込んだ。
アレストは手の中で鍵を回しながらさっきのカナトの姿を思い出す。やがて小さなため息が部屋の中に吐き出された。
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