転生と未来の悪役

那原涼

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第ニ章

身分1

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昼下がりの午後、カナトはケーキをたずさえて庭の休憩スペースに来た。

この国は寒冷地方だからなのか、やけに冬が長い。

そして除雪された休憩スペースには案の定ユシルがいた。

もうすぐ領地巡りに行くため、その機嫌は目に見えていい。スペースの入り口でクモがニコリと笑った。

その笑みに軽く頬が引きつる。カナトは軽く小さく頭を下げるとササッと休憩スペースに入った。

「ユシル!」

「あ、カナト。来たんだ!」

「厨房で試作のケーキもらったからあげようかと思って!」

カナトが向かいに座るとユシルが楽しそうに笑った。

「厨房のみんなはカナトにいいね!」

「まあ、よく盗み食いに行くからその対策だって言ってたけどな」

「盗み食い?」

「あっ、違う違う!!えーと、盗み食いは盗み食いなんだけど、その、捨てられるかわいそうな食材をもらっただけなんだ!」

カナトが手振り身振りで必死に説明すると、聞いていたユシルが口に手を当てながら声を出して笑った。

「あはは!本当に予想外のことをするんだね!」

笑われたことでカナトが小さくなる。そして慌てて話題をそらした。

「そんなことより何していたんだ?」

ユシルの前には奇妙な図案の書かれた古臭い紙と石が置かれていた。

「占いをしていたんだ」

占いと聞いてカナトが目を輝かせる。

この世界は一応ファンタジー部類に入る。その理由がユシルにあった。

ユシルは魔女の末裔とされ、現存する唯一の魔女である、という設定だった。基本男でも魔女と呼ぶらしい。

ユシルの母リィンも魔女であるが、魔女の力は大自然に触れることで持続する。そのため、生まれつき魔力の量が多い我が子を見て、特別強い先祖返りだと気づいたリィンはこの力を衰えさせないために失踪を装って崖から飛び降り、森の中で暮らし始めた。

不幸にもリィンはそのことをユシルに教えることができずに病で亡くなってしまう。ユシルは自分が魔女であると知っているが、大自然を離れることで力が衰えることまで知らない。

後半で気づくことができるも、それまでは力が弱まっていく現象を不思議に思っていた。現時点でユシルが魔女だと知っているのは本人とイグナスだけである。

これが少し前に触れたユシルの特別な身分である。

カナトは色々思い出そうとしたが、やはり時間が経ちすぎて思い出せない部分が多い。特に覚えていることの時系列がバラバラだ。

例えば今回の領地巡りなどあったかどうかも忘れている。なんなら小説で時間が飛んだ部分も生きているので、何か出来事があったとしても知らないことになる。

さすがに物語として書かれない部分は重要じゃないと願いたい。

そんな難しいことを延々と考えないたちなため、カナトはとりあえず目の前のことに集中した。

「何を占っていたんだ?」

「天気だよ。領地巡り当日に雪が降らないといいけど」

「お前なら絶対大丈夫だ!」

「ふふ、何その自信。そうだ!カナトのことも占ってみようか?」

「俺?」

「そう!例えばさっき言ったみたいに天気だったり、お出かけ日にいい運があるかどうか、出会いとか、はっきりとこうだ!とはならないけど、おおまかなことはわかるよ」

「本当か?」

カナトは腕を組んで真剣に考えた。

正直に言うとアレストの具体的な闇堕ち時期を占って欲しい。だが、近頃を見ると今堕ちているのかどうか気になる。しかしそれをどう言うのかよくわからない。

バカ正直に言えばアホだと思われるのは目に見えている。優しいユシル自身がそう思わなくてもだ。

真剣に考えた結果、どうせこの世界で生きるわけだ。将来お嫁さんがいるかどうかが気になる。

「俺将来恋人ができるのかどうか占って欲しい!」

「もちろんいいよ。手を貸して」

ユシルは差し出された手のひらに石を置き、手をはさむようにして持つと集中するように目を閉じた。だが、最初こそ笑みを浮かべていた口もとがふいに固まる。

その顔色が悪くなり始めた。眉を寄せて手にも力が入る。

そしてハッと目を開けた。どこか戸惑うような目をカナトに向ける。カナトもその様子に不安になり始めた。

「そ、そんなに恋愛運ないのか?」

「なんて説明すればいいのかよくわからないけど占う時に、カナトの恋愛運と言えばいいのかな?それがもやがかかっていたの。もっとよく見ようとしたら……」

「見ようと、したら?」

ユシルが悩ましげに唇を引き結ぶ。そして決心したように視線を上げた。

「カナト、今から言うことはすごく大事だからよく聞いて」

あまりにも真剣な表情にカナトも思わずうなずいた。

「私が人の運気を占う時にその人の人生の道をたどるように見ているの。でもね、カナトの恋愛運というより、人生そのものに枝分かれがあった」

「枝分かれ?なんだそれ」

「この枝分かれは基本人生の選択においてとても重要で、誰にでもある。基本みんな木の枝みたいに細い道だけど、特に人生において重要な選択では太い枝になる。カナトの枝分かれの道を例えるなら木そのものが真ん中から二つに枝分かれしている感じなの。つまりね、この選択でカナトはまったく違う人生、いや、まったく違う世界で生きることになると言ってもいいくらい重要だよ」

違う世界と聞いてカナトがぴくっと反応する。

「ち、違う世界?」

「例えだよ。それくらい違うってこと。それでね、ここからが一番重要な話なんだけど……」

はあ、と息を吐き出してユシルが顔をうつむかせる。

「本当は言えることはここまでなんだ。言い過ぎると反動が何かしらの形で現れる。でも、カナトには間違った道を進んで欲しくない。だから絶対に忘れないで。まっすぐ進んちゃダメ。をまっすぐ進まないで。その先に道などないから」

「どういうことだ?」

「その間違った道には黒いもやがある。とてつもなく真っ黒だ。そしてもう一つの道にももやがあるけど、こっちの道にはその先がある。だから、人生において重要な選択だと思ったら私の言ったことを忘れないで。まっすぐ進むべきじゃない。いい?」

「わ、わかった。まっすぐ進まない」

「うん!約束ね」

ユシルは手を離し、石を紙の上に戻した。

カナトはその後お茶をおごってもらい、嬉々と部屋へ帰ろうとした。途中、アレストとばったり廊下で出会った。

「アレスト!」

その後ろに並びながら一緒に歩く。

「仕事終わりか?」

「カナト……さっき、ユシルと話していたのか?」

「え?あー、そうだけど、なんで知ってんだ?」

「何を話していたんだ?」

「何をって、占いだ。将来恋人ができるかどうか占ってもらったけど、なんだかーーうぶっ!」

立ち止まったアレストの背中にぶつかった。

「おい、立ち止まるなよ!」

「恋人?」

振り返ったアレストの顔には笑顔が貼り付いていた。だが、その笑顔は完全に作り笑顔だった。カナトでもわかる。

「ど、うした?」

「雪山の帰りで、結婚はしないと言わなかったか?子どもも作らないと。なのに恋人が欲しいのか?」

ハッとカナトは口を覆う。

忘れていた!!

「僕から離れるつもりか?」

「ま、まさか!言ってみただけだ!誰だって気になるだろ!そう言う年頃だし?」

「……そうだな。その通りだな!」

アレストは明るく笑ってカナトの頭をなでた。

「僕のことを裏切るつもりかと思った。はは!」

「そんなわけ、ないだろ……はは」

カナトは自分で埋めた地雷を踏んでしまった。






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