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第ニ章
身分2
しおりを挟むこの日、カナトは朝から騒々しさに起こされた。
部屋に侵入したメイドがあわあわしながらカナトの布団を剥ぎ取る。
「カナトさん!大変だよ!起きて!」
「うぅ……なんだよ、朝っぱらから」
「本当に大変、というより大事!カナトさんのご両親が来ているらしいよ!!」
2秒ほど空いてからカナトがバッと起き上がる。
「なんだって?俺の何が来てるって?」
「ご両親!カナトさんと同じ黒髪のご両親!」
「はあ!?」
急いで着替えてカナトはメイドと共に接客室へ来た。
そこにはメイドの言う通り、黒髪の男女がいた。向かいのソファにはアレストが座っている。
黒髪の男女は入って来たカナトを見て不安げな顔に、まさか、という驚きをにじませた。
「ハ、ハルロ!」
「ハ、なんだって?カナトだけど」
「ハルロで間違いないわ!」
「だからカナトなんだよ!」
カナトは自然とアレストの隣に座った。
それを見て男女は驚いて立ち上がった。
「ハルロ何をやっているの!主人の隣に許可なく座るなんて!」
「は?いや、これは」
指を組ませていたアレストがにっこりと笑って男女を見た。
「かまいません。カナトには自由にさせています」
「な、なんともったいないお言葉……」
「カナトを大事に思っていただきありがとうございます!」
2人の反応を横目にカナトは耳打ちをした。
「なあ、アレスト。どういうことだ?これ」
「朝きみのご両親と名乗る2人が来たんだ。きみは昔の記憶がないのだろう?」
拾われた時より前の記憶がないことになっている。じゃないと何か訊かれた時になんて答えればいいのかわからないからだ。
カナトはとりあえずうなずいた。
「その無くした記憶の中のご両親がこの方たちみたいだ」
カナトは思わず頭が空っぽになった。
どういうことだ?俺に両親?この世界で?
俺はこの世界で何かしらの身分があったのか?じゃあなんで14歳あたりの年齢で川に流されたんだ?顔立ちも生前と同じだ。
もしかしてこの体の持ち主が死んで俺が入った?てっきりこのままこの世界に若い姿で来たと思ったのに、まさか……体の持ち主に入っただけ!?
それだったら若い姿に理由もつく。
カナトは両親かもしれない2人を見た。
自分のあっちの世界の両親とはまったく違う顔立ちである。それでよくも同じ顔の人物が生まれるな、とカナトは感心した。
それにしてもおかしいな。
カナトは2人の髪を見て眉をひそめた。黒髪はこの世界で珍しい色のはずだ。作中でもイグナスとその家族以外に黒髪キャラは出ない。ましてこんなモブキャラみたいな2人が堂々と黒髪をしているのを見ると違和感しかない。珍しさも台無しである。
アレストはカナトの主人という立場なためか、終始2人の対応をしていた。
見送るまで終えるとカナトが言う。
「お前がここまでする意味あるか?見送りなら使用人にやらせろよ」
完全に自分を棚に上げて言っていた。それにアレストと見送りについて来たメイドが小さく笑う。
「あの2人は嘘つきかもしれない」
唐突になんだ?とカナトが目を見開く。
「僕がきみへの待遇がいいのはどうやら市民のあいだでも知られているらしい。そしてきみが昔の記憶がないことも知られている。だから、きみの親兄弟を装って近づいてくる人たちがいる」
「えーと、つまり、どう言うこと?」
「つまりだ。きみが記憶がないのをいいことにきみの家族だと騙る人たちがいる、ってことだよ」
「はあ?なんでそんなややこしいことするんだよ。じゃあさっきの2人は俺の親じゃないのか?」
「その可能性が大きい。専属使用人の給料は高いし、僕がきみへ与える寵愛でもっとお金をたかれると思う人もいるはずだ」
「ちょっと待て、今“ちょうあい”って言ったか?」
「今後もたくさん出る可能性があるから気をつけようね。さあ、朝食でもとりにいくか」
「おい、ごまかすな!」
毛を逆立てるカナトにかまわずアレストは機嫌良く歩き出した。
そして、その言った通りのことが起きた。
あれから数日、新たにカナトの親と名乗る一組が出て来た。
今度は母親のほうだけ髪が黒髪である。もっと最悪なのは、その一組が最初に親だと名乗ってきた黒髪の夫婦と鉢合わせし、どっちもお互いのことを嘘つき呼ばわりし、目の前で自分たちこそが親だと言い張り始めた。
それを前にカナトは耳をふさぎ、玄関のドアを閉めた。
ダメだ!こういう展開予想しなかったぞ!!というか俺はいったいそのままこの世界に来たのか、それともこの体に入ったのかどっちだ!?
見た目が若くなっているが、この世界で14より前の記憶はない。どっちも可能性としてあり得た。そのためカナトはますます悩んだ。
使用人が親だと名乗る二組の男女をなんとか送り返し、カナトは避難するように事務室へ逃げた。
「おかえり」
「ただいま……」
はあ、とソファにダイブする。クッションを抱き寄せて、
「なあ、どうにかならねぇか?あれがまた出続けると本当の親もわからなくなるぞ」
「カナトは親が誰なのか知りたいのか?」
「え?あー……そこまでじゃないかな?正直ずっと親いないものだと思っていたし」
こっちの世界では。
「だからさ、別に親とか、家族見つけたからって離れていかねぇよ」
カナトはクッションに顔を埋めてもごもごと言う。なんとなくユシルと話した件で、地雷を踏んでからあまり経ってないため、少し相手の考えていることがわかった気がする。
アレストの持っていたペンがふいに止まった。
「別にカナトが家族と会うのを制限するつもりはない。ただ、そのせいで僕から離れようとするのは耐えられないかな。今はきみがいない生活なんて想像できない」
カナトは少し視線を上げた。
「あ、あのさ……誕生日の時、なんであんなに盛大にしたんだ?普通におめでとうでよくないか?」
「なぜ?」
「え?」
「他ではないきみの誕生日だよ。しかも成人を重ね合わせた大事な日じゃないか。きみも大人入りということになるし、制限もかからなくなる。それに、きみ以外にあんなことは絶対にしない」
カナトは自分がアレストにとって少し特別なのだと気づいている。しかし、なぜかその特別は自分の理解と少し食い違っている気がする。
いつからだ?
なんだか、アレストの思いがやけに……こう、距離が近い?いや、違う。なんかしっくりこないな。超えている?近いけどこれも少し……そうだ!重い!考えも何もかも重いんだ!
いつから?そんな疑問が横切る。
雪山から帰ったあとアグラウに呼ばれてからのことを思い出す。さらに遡って雪山でニワノエがからんできたこと、そこからさらに遡ってパーティーでユシルが現れたこと……すべてが原因なのでは?だがそこで自分がここまでの感情を向けられる理由がわからなかった。
やはり今まで距離が近いからこうなっているのでは?
距離、ほんの少し保ってみるか?
アレストから向けられる重い感情にカナトは慣れなかった。
ただ、カナトが思いつかなかったのは、その重さは考えているような『兄弟間』『家族間』の重視ではないことである。
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