転生と未来の悪役

那原涼

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第ニ章

身分3

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アレストから距離を保とうと決めてからカナトはすでに3日連続で、色んなことを理由に事務室へ行かなかった。

これからもずっと理由を探すわけにはいかない。かと言って別にアレストと関わりたくないわけでもない。適度な距離の保ち方がわからないカナトは、庭を散策しながらどうするべきかと考えた。

そんな時、黒髪の高い背をした人物を見た。

ここ数日親だと名乗る人たちを思い出してすぐに目を吊り上げた。

昨日にも新しい黒髪の家族候補が来たばかりである。しかも姉と名乗り、豊満なボディを惜しみなく服の上からさらけ出している。アレストが近くにいなければ危うくお茶に誘うところだった。

「庭にまで侵入してきやがったか!!」

走って飛び上がり足を突き出した。

人物が振り返る前に足裏が人物の背中を蹴り、ともに雪の上へ倒れる。

「お前ら本当にこりないな!今度はなんだ?俺の父親か?それとも兄弟か?あぁん?」

カナトは起き上がって人物から距離を取る。腕を組んで相手が起き上がるのを見て、あれ?と首を傾げる。

羽織った紺色の上着にはくっきりとカナトが蹴った足跡がある。

紺色の上着、黒髪……その2つの情報だけでカナトを震え上がらせた。

な、なんでさっき気づかなかった?

イグナスは前髪の間からその真っ赤な目をのぞかせた。カナトが肩を縮ませる。

「父親?兄弟?」

「は、はは……あはは!辺境伯久しぶりだな!」

「そう言えるほど親しくないはずだ。上着を汚したことは問わん。だが、侵入者扱いとはな。いささか……」

「待て待て!誤解を解かせてくれ!」

手を突き出して一歩後ずさる。

「さ、最近親兄弟って名乗るやつらがめちゃくちゃ来るから困ってんだよ!全員もれなく黒髪だから思わずお前もそうだと思っただけだ!それに背中向けられていたからわからなかったんだ!」

「そんなやつらがどうやって伯爵邸の敷地に侵入できる?する理由も利益もない」

「そうだよな……すみませんでした」

「お前でも敬語は使えるんだな」

「どういう気持ちで言ってんだ?」

「気にするな」

カナトは周りをキョロキョロ見た。

「ユシルがいないな。1人なのか?」

「悪いか?」

「ユシルと付き合ってんだろ?いつもお前がいる時はユシルもいるじゃねぇか」

イグナスはほんの驚いたように目を見開いた。

「お前にもそんな観察眼があるんだな」

「……雪山の遭難でユシルとキスしてたの忘れたのか?俺は見てたぞ」

「ああ、そうだった」

そう言ってイグナスはふっと笑う。

ナメられてるのか?

そこへ「待たせてごめん!」とユシルが走ってきた。あれ?とイグナスの後ろから顔を出す。

「カナトだ!どうしてここにいるの?」

「俺?散歩散歩!」

「そうなんだ。私はイグナスと出かける予定だよ」

「そうなのか!楽しんでこい!」

カナトはユシルとイグナスが並んで去っていく背中を見つめてニヤけた。

2人とも楽しそうだな。












馬車の中でイグナスがふと口を開いた。

「あのカナトというやつには気をつけろ」

「な、なんで?」

向かいに座っていたユシルが不思議そうにする。イグナスは窓の外を向きながら続けた。

「正体が不明だ。それに、お前の兄も見た目ほど朗らかなやつじゃない」

「イグナス」

ユシルの声に少し怒りがにじみ出た。

「……ユシル、今は常にお前のそばにいられない。クモがいるとはいえ、お前は自分の身を守らなければならない。あの力があったとしてもだ」

力とは魔女の力を指している。無用な被害を避けるためにユシルは誰にも言わないよう注意されている。イグナスの言動はすべて自分のためだとわかっている。しかし、とユシルは下を向いた。

「カナトはそんな人じゃないし、兄さんはずっと優しいよ」

「それがおかしい」

「どういうこと?」

「パーティーで初めて会った時のことを覚えているか?カナトがお前に菓子をあげようとしたことだ」

「うん」

「あの時、お前の兄があの使用人をかばった時に見せた目、絶対に見た目ほど明るいやつが持つような目じゃない」

正直、あの目を見なかったらイグナスでも自分は今のアレストに疑念を抱くのが難しい。そう思わせるほど表面をうまく作っている。

そう考えるとカナトという専属使用人もおかしかった。仮にアレストがユシルに敵意があるとして、その専属使用人が好意を表すはずがない。

しかし、カナトの態度は予想を上回るほどにいい。裏に何かあるのではないかと思わせるほどユシルに友好的だった。だが、イグナスは特別にアレストを注目した事がある。特に雪山でのことだ。

ユシルとカナトの接近にわずかな表面のほころびがあった。直感でしかないが、アレストはユシルに好感はない。イグナスはそう思った。

そして雪山より前から、パーティーでアレストの目を見てからイグナスはカナトの友好すぎる態度が気になった。そのためクモを使って調査もした。

その結果ーー

「特にあのカナトという使用人、やけに近づいてくる。もしあのバカさ加減が演技ならどうする?何か目的があって近づいた場合、どうやって防ぐつもりだ」

とはいえ、自分で言っておきながらどうしてもあのバカさが演技には思えない。それほど迫真に見えた。

イグナスは向かいでうつむいた人からぷんぷんと怒っている気配を感じ取った。

ユシルからしてみればアレストとカナトは大事な家族と友人の立ち位置だろう。

ため息をついてイグナスはその頭をなでた。

「悪かった。もうこの話題は止めよう。だが、万が一のためだ。今日からクモとなるべく離れないようにしてくれ」

「……わかった」

「いい子だ」

「ま、またそうやって子ども扱いをする!」

「違うか?」

「私はもう成人しているのに!」

「はは!悪い」

言いながらイグナスは直前に会ったカナトを思い出した。

もしあれが演技ならば、これほど隙のない人もいない。かなり危険だ。

これまでの情報でカナトがアレストの手下なのか、それとも雇われだけの関係なのかまだ判断できない。謎な部分が多い。

お前はいったいなぜユシルに近づく?好感も友好な態度も演技なのか?なぜお前が……暗殺者であるお前がこれほどまでユシルを気にする?アレストの指示か?

わからないところが多く、それでもユシルの前では悟られないよう、イグナスはなるべく笑顔を保った。

そしてこの疑問は以前雪山で気絶数前のカナトに訊いたこともある。ただ当人は覚えていないようだった。


なぜこうなってまでユシルを助ける。お前は、『コドク』の暗殺者だろーー


時間はかかったものの、イグナスが調べ上げた結果、カナトの身分は『コドク』の暗殺者だった。それも蠱毒形式の生存戦で逃げた子どもである。

14あたりでカナトはヴォルテローノの屋敷に来た。時期的にも合っている。





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