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第ニ章
お店
しおりを挟む事務室から逃げ帰ったカナトは自室のドアを閉めると布団の中にもぐり込んだ。
「なんであんなことしたんだよ!あいつ!!」
なめられた感触がまだ消えず、ますます恥ずかしくなる。
そして頭に浮かぶのは今まで何度も頭をなでられたり、手を取ってキスのような行動を繰り返すアレストだった。
距離近いんだよ!というかほぼあいつのせいでメイドたちがヒートアップしているだろ!もう俺たちを見る時の目がおかしいんだよ!
全部あいつのせいだ!
あまりの恥ずかしさにカナトは布団の中でじたばたした。
そして暖炉のある部屋から出てきたせいなのか、布団の中にいても寒い。
カナトは悩んでからアレストの部屋に入った。鍵で開けると一瞬で散らばっていた猫たちがベッドの下に隠れていくのが見えた。
ちなみに寒いからなのか、オウムのホロロも外へ行かなくなった。
「おーい、猫たち。俺だ。暖を取りにきたぞ」
足音の主がカナトだと知って、唯一真っ黒毛のサブローが顔を先に出した。
カナトがドアを閉め、手をたたくとにゃんと鳴きながら近寄ってきた。抱き上げてその頭をなでる。
「お前ら、いつからベッドの下に隠れるようになったんだ?」
前までは普通に部屋の中でくつろいでいた気がする。
サブローに続いて他の猫たちも出てきてカナトの足もとに集まった。
「毛玉ども、かわいいなぁ」
贅沢に5匹とも腕に抱えてアレストのベッドに腰かける。
「あったか~」
ちらっと後ろを見る。
「少しだけならいいよな?」
カナトは猫たちを抱いたまま布団の中に入った。首周りに猫たちを配置させてまったりとする。
「極楽だなぁ」
居心地良さにすぐうとうとし始める。
アレストが夕方、部屋に戻るとドアの鍵が開いていることに気づいた。
中に入ると、猫たちがベッド下に逃げ、カナトが1人布団の中で幸せそうに眠っていた。近づいてその寝顔を見る。
「なぜ、最近は僕を避けるんだ?」
手を伸ばしてスヤスヤと眠る頬に触れる。青い瞳が危険な光をはらみ始めた。
正直、どこにも行けないよう鎖で縛りつけたい。家族もユシルのことも忘れて自分のことだけを考えて欲しい。
この人の頭の中が他の人に占領されているのかと思うと嫉妬でのどをかきむしりたくなる。
自分でなければならないはずだ。
アレストはずっとこの気持ちを抑えるようにしていた。どうにもカナトがこの気持ちに触れると逃げたいように思える。
誕生日のこともそうだ。しかし、今日に関しては少しやり過ぎたのかもしれない。
冷んやりと冷たい手がカナトの首に触れた。その冷たさにカナトは身じろぎをし、布団の中にもぐり込もうとする。
瞬間、カナトの顔横のシーツが握り込まれた。アレストは顔を近づかせ、興奮で見開いた目をじっと見つめるように降り注がせる。口もとは笑い、一文字一文字噛みしめるように言葉を発した。
「カナト、お前だけは僕のものだ。誰にも渡さない。じゃまなやつらは全部一つ残らず消してあげる。だから、僕だけを見ろ」
幸せな夢の中にいるカナトはそんな言葉をささやかれているのにも気づかず、むにむにと口を動かして夢に浸り続けた。
翌朝、目覚めるとカナトは身動きが取れないことに気づいた。何かが自分の体を拘束している。
目の前には鍛え上げられたたくましい胸がある。
カナトが驚いて「うおぁ!」と声を上げた。カナトを抱き枕に寝ていたアレストもその声に起きた。
「カナト、おはよう」
「おはようじゃねぇだろ!何してんだ!なんで俺のベッドにいるんだよ!」
「ん?ここは僕の部屋だ。忘れたのか?昨日帰ってきたらきみがベッドで寝ていてな、幸せそうに寝るものだから起こすのがもったいなかった」
そう言われてカナトは昨日のことを振り返る。
……確かに自分が先にベッドに入ったのかもしれない。しかもアレストの部屋で。
他人のベッドを占領しといてさっきの物言いはないと恥ずかしさに顔をうつむかせた。
「その、ご、ごめん……」
「いいよ。おかげでよく眠れた。きみのにおいは本当に不思議だな。嗅ぐと気持ちよくなれる」
そう言ってカナトの髪をすうと嗅ぐ。
「な、何やってんだ!においとか意味わからねぇよ!というか、お前のベッドこんなに大きいんだから離れて寝ても全然大丈夫だろ!なんでこんなにくっついて寝るんだ!」
「別に初めてじゃないだろ?小さいベッドに変えようか?」
「そういう問題じゃない!」
カナトが身をよじってなんとか脱出を試みるが、相手の腕の力が強すぎてできなかった。
「お前、本当は俺に隠れて体鍛えているだろ」
「暇な時とか、隙間時間にやっているよ」
それだけでこんなにたくましくなれるとか人間じゃねぇだろ!クソうらやましい!
「………というか、いい加減離せ」
「まだ早いからもう少しこのままで」
昨日寝るのが早かったからなのか、カナトが目覚めた時間帯はいつもアレストが起きる時間帯より早かった。外はまだ薄暗い。
確かに早かったと気づいて、カナトも黙った。
もうしばらくこのままでもいいか、と考えてしまう。
そのまま二度寝をし、ふたたび目を開けた時はもうすぐお昼になろうとしていた。アレストはすでにいない。
寝過ぎたと気づいたカナトは慌てて支度をし、自分の部屋で着替えて事務室へ行った。
だが、予想に反して事務室には誰もいない。なのに暖炉の火だけは灯っていた。
「あー、そういえば商会と話し合いがあるって言ってたな」
おそらく今アレストとユシルは接客室にいると思われる。たぶん行っても自分は入れない。
仕方なく1人で帰りを待った。すると、ほどなくしてアレストが帰って来た。
「あれ?お前1人か?」
「……ユシルを待っていたのか?」
「お前たち2人を待っていたに決まってるだろ。ユシルはまだなのか?」
カナトは立ち上がってアレストの後ろをのぞこうとした。するとバンッとドアが勢いよく閉められる。
その音に驚いてカナトがびくっと首をすぼめた。
「な、何やってんだ…お前」
「ごめん。ついつい強く閉めすぎた」
ほら、と言ってアレストは腕をたたく。
「なんだか筋肉つきやすくて、鍛えているせいか力加減ができない時があるんだ」
「お前っ、それ危ないから気をつけろよ!」
「大丈夫、カナトにだけはそんな力加減のできないことはしない。たぶん」
「たぶんってなんだ!」
ははは!と笑ってアレストは事務机に戻る。その後すぐにユシルも部屋に入って戻ってきた。腕には多くの書類も抱えている。どうやらこれが遅れた原因らしい。
「俺が持とうか?」
「大丈夫!自分の仕事は自分でやりたい!」
健気だなぁ。
ユシルが安全に書類をテーブルに置いたのを見守ると、カナトはその向かい側に座った。
「これってなんの書類なんだ?」
「商会と話して仕入れに関するリストと誓約書かな。ヴォルテローノ家の名義で開いたお店がいくつかあるらしくて、その一つを私が経営担当することになったんだ」
「すごいな!」
物語通りだ!!確かーー
「紅茶の店だっけ?」
「え?そうなんだけど。どうしてそれを知っているの?」
ハッとしてカナトが口をふさぐ。目をキョロキョロ泳がせてから、
「ほら、その……お前紅茶好きなんだろ?だからそうかなーって」
アレストがその言葉でスッと視線を上げる。
「そう…なんだ。ふふ、カナトはすごいね。その通りだよ」
「ははは……」
しかしリストの整理をしていたユシルはふとイグナスの言葉を思い出した。
あのカナトというやつには気をつけろーー
カナトがイグナス以外誰にも言ったことのないミドルネームのことを知っていたり、ほぼ肯定の口調で知らないはずのお店を当てたりと、確かに怪しい部分を出しているのはある。
しかし、ユシルはどうしてもカナトが自分に危害を加えようとする人には見えない。これは直感的なもので、証拠はないけれど、なぜか大丈夫だという安心感があった。
考えすぎ、だよね?
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