転生と未来の悪役

那原涼

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第ニ章

領地巡り

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今日、領地巡りの日を迎えた。

カナトは専属使用人だが、態度がアレなので対人&交流がおもな領地巡りには同行できない。

今までも2回ほどアレストは領地巡りをした。そのたびにカナトは態度の問題で付き添いを拒否されたが、今は状況が違う。

「いや、敬語ならできるけど!」

とカナトが言っても信用されず、結局アグラウの一喝でぶつくさと退がるしかなかった。

今までめんどくさがって敬語できることを徹底的にやらなかったため、信用度はなかった。そのことを今後悔している。

ユシルは落ち込むカナトに何かお土産を持って帰ると言って馬車に乗り、アレストはカナトを抱きしめて耳もとでささやいた。

「欲しいものなら僕があげる。何が欲しい?」

「ほ、欲しいものはないから離せよ。全員見てるだろ」

「大丈夫、見てない」

カナトが顔をずらして見ると使用人たちはみな顔をそらしていた。唯一メイドたちは目に手を当てているが、しっかりと指を開いてその隙間から2人の抱擁をのぞいている。

思いっきり見られているしっ!

「わかった……それなら何か食べ物でいい」

「お菓子?」

「………うん」

「わかった。少しのあいだ離れるけど、絶対に他の人にはついていくな。いいな?」

「俺はガキなのか?」

はは!と笑ってアレストはカナトの頭をなでた。

「じゃあ、行ってくる」

「早く行ってこい!」

そうは言うものの、この2人を一緒にしていいのかどうかまったくわからない。たぶんダメだ。カナトは心配げな目線を遠ざかる馬車に注いだ。

頼むからこの期間に何もなく過ごしてくれ。帰って来たら闇堕ちとか一番見たくない。

もうすでに人がいなく、カナトも引き返して屋敷に戻ろうとした時、「カナトさーん!」と呼ばれた。

振り向くと、誕生日の時にいたメイドの1人、おさげのメイドがいた。

「どうした?」

「あちらに兄と名乗る方が来てるんだけど、どうする?追い返す?」

「名前は言ってたか?」

「シドって言ってたと思う」

「見てくる。あっちだな?」

「そう。気をつけてね~。坊ちゃんがいないからって落ちこんちゃダメよ!」

小走りだったカナトが危うくずっこけそうになる。

「落ち込んでねぇよ!」

カナトは屋敷の正門より少し離れたところにシドの姿を見つけた。駆け寄って呼びかける。

「おい、何見てんだ」

虚空に向けられていた視線がカナトを見る。

「来たのか」

「なんの用だ?」

「話がある。ついて来い」

カナトの返事を待たずにシドは歩き出した。その態度に思わず眉をひそめる。

なんかイラつくな。

街中の人少ない場所を歩きながらカナトは何かと話しかけた。もう少しこちらの世界での自分の小さい頃について知りたいからである。

「あのさ、俺が昔よく言ってた単語以外にも何かないのか?」

「……例えば?」

「小説とか別の世界とか、頭おかしいこと?」

「そういう認識はあるんだな。確かに言ってた。やみおちとか」

……たぶん、俺じゃないか?まさか覚えてないだけで実はもっと昔にこの世界へ来たのか?ダメだ。頭使うのは苦手だ。まったくわからん。

まあ、と言ってシドの目に暗いものが横切る。

「すぐにそんなことは言わなくなったけどな」

「さすがの俺でも周りから変に思われていると気づいたか?」

「………」

シドは何も答えなかった。そして立ち止まって振り返る。いつの間にか周りから人はいなくなり、裏道の水路に来ていた。

透明な水が水路を流れてゆき、足もとの雪を蹴り落とすとすぐに溶けてなくなった。

街にもこんな人気のないところがあるんだな。

「なあ、湿ったにおいが苦手なんだけど、ここで話さなければいけないことってなんだ?」

「……本当に何も覚えてないんだな」

「当たり前だろ!じゃなけりゃ毎回偽家族に悩まされねぇし」

シドは水路を見下ろして口を開いた。

「ここの水路って広いと思わないか?」

「あ?」

「ここはならず者の溜まり場にされやすいらしい。だから昼間でも誰も寄りつかない」

「……何が言いたい」

カナトは警戒心が湧き上がってくるのを感じた。目の前の男はただ話すためだけにここへ来たわけではないと気づいた。

シドは手を髪に触れながら続ける。

「この髪はお前の言う通りただの黒染めだ」

カナトが一歩後ろに下がった。

「お前、なんのつもりでここまで呼んだ」

「なんのつもり?そんなの、わかっているだろ。お前と俺はもう最後の2匹だ」

「最後の2匹?何言ってんだ?」

「わからないなら、わからないままでいい!」

そう言ってシドは何かを突き出した。カナトは咄嗟に後ろへよけたが足を踏み外してしまい、数歩後ろへよろめいた。次の瞬間、目の前を何かが一閃し、鼻梁につんとした痛みが走る。

カナトは自分でも驚くほど、その一瞬の攻撃からよけることができた。

鼻梁に指を触れて見ると、横に切り傷ができ、そこから血がにじみ出した。

シドの手にはどこか見たことのある小型ナイフがある。

「お前ッ、なんのつもりだ!」

だがシドは答えずに次々と攻撃を仕掛けた。不思議とカナトはその攻撃のすべてをよけることができた。

クソッ!これじゃらちがあかない!

カナトは攻撃してくる腕をつかもうとした。しかし、それを見越したように伸ばした手をナイフで切られ、思わず手を引っ込めた。

遅れた痛みが襲い、傷口がジンジンと熱を持ち始める。

切られた腕を押さえながらカナトはなんとか後ろに退がり、距離を取ろうとした。

「ここじゃ誰も寄りつかない。悲鳴をあげたところでゴロツキの喧嘩だと思われるだけだ」

「なんでこんなことをするんだ!俺とお前のあいだに何が仇でもあるのかよ!」

その言葉にシドの足が止まる。

「……ない。仇などない」

「だったらなんでこんなことするんだ!」

「黙れっ!こうしないと、こうしないと俺はいつまでも自分を見失ってしまう!」

その言葉の意味がわからず、カナトは迫ってくる刃を見た。

よけないとーー

その時、スッと人影がカナトの前に落ちる。

シドのナイフを弾き、素早い攻防戦の末、人影はシドの首につかみかかった。水路の前に近づき、静かに言う。

「この水路、広いと思わないか?」

「ぐっ!」

シドのお腹から大量の出血があった。

「死体が一体落ちても余裕だ」

そう言って手に持ったナイフをかまえる。ほんの一瞬のすきを狙ってシドの隠し持ったナイフが人物の目の前をかすめる。手を離されたシドは水路に落ち、流れが急な水によって流されてしまった。そのお腹からの出血が水ににじんで一緒に消えてしまう。

カナトはいまだ我に返らず、突然現れた人物を見た。

頭と口に布を巻いているため、顔は見えないが、布の下からわずかに赤茶色の髪が見える。

「お前……」

「ただの通りすがりだ」

そう言って人物は素早く去ってしまった。

呆然と立ち尽くしていたカナトは水路を見て、それから駆け足で屋敷に戻った。






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