転生と未来の悪役

那原涼

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第ニ章

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屋敷に戻ると真っ先に自室にこもり、傷跡を見る。

手首あたりにぱっくりと割れた傷跡ができていた。丸鏡で顔を確認すると、両目のあいだより下の位置に横に切られた傷跡も見える。

「なんなんだ、あの男……」

覚えてない昔に何かしたのか?兄から殺したいと思われるようなことをか?

だが、シドは黒染めと言った。つまりあの黒髪は自前じゃない。カナトの兄であることに信ぴょう性を持たせるために染めたと思われる。つまり、兄だということも嘘である可能性が大きい。

そうするといったい自分とシドはどう言う関係性だ?とカナトは首をひねった。

そしてあの「最後の2匹」という言葉も気になる。

悶々と考えて頭を振った。

「ダメだ!頭が回らん!もう何がなんだか!」

そこでハッとしたカナトは引き出しの中から何かを取り出した。小型のナイフである。シドが持っていたものとそっくりだった。

アレストと初めて喧嘩した時、木の上で襲われたことを思い出す。

「まさか、あいつなのか?」

いつから周りにいたんだ?

そう考えると背中に何か冷たいものが這い上がっているような感覚に襲われた。ぶるりと震えて腕を抱く。

クソッ、絶対許さない!

ナイフをなおして簡単に傷口の処理をする。幸い、よく怪我するのでカナトの部屋には応急処置の箱がある。

処置が終わったあと、箱をベッド下に押し込んで厨房へ向かった。

厨房の入り口付近に置かれたワゴン車にはカナトの盗み食い防止のための貢物ならぬ、おやつが置かれている。

「おやまぁ、また盗み食いかい?」

厨房で長らく働いている年長のエルサは頬に手をそえてため息をつく。

「ちげぇよ!訓練のために食べもんもらいに来ただけだ!」

「またそう言って。結局食べ物狙いじゃない。そのワゴンにあるおやつ食べていいわよ。焦げ目のついた焼き菓子ばかりだから」

「マジか、ありがとな!」

「まったく、できれば使用人としての訓練を受けて欲しいわ」

「だいろーぶ!」

「飲み込んでからしゃべりなさい……あら?」

エルサは焼き菓子を食べているカナトの右手首を見た。

「包帯巻かれているじゃない。怪我したのかい?よく見たらお鼻の上にもあるわね」

「まあな。大したことねぇけど、腕はずっとジンジン痛むんだよな」

「ちゃんと処理した?」

「薬塗った」

「……傷口洗ったの?」

「………」

「おいで!!」

「はい……」

厨房で働いているためか、エルサは衛生面に関しては厳しかった。そのため、外を走り回ったり、猫やオウムと接するカナトを頑なに厨房に入れようとしなかった。

しかし、カナトが自分でちゃんと傷処理をしてないとわかると母親のような気持ちで手伝い始める。

「いつも悪いな」

厨房から離れて隣の休憩室に2人は入った。

「わかっているならもうこんな傷作るんじゃない!今度は何をしたの?」

「い、いや。別に?」

「あなたねぇ、あまりアレスト坊ちゃんに心配をさせるんじゃないよ。坊ちゃんが初めてあなたを拾って来たときなんてびっくりしたんだから。酷い怪我もして、目も覚めなかったし」

「……俺って怪我してたのか」

「まあ、覚えてないの?」

「うーん、あんまりかな?」

カナトが頭の後ろをかいた。それにエルサはただただため息をつくしかなかった。

「まったく。薬は貴重だから、使う時は大事に使わないと。傷口を洗ってから塗らないと悪化することだってあるんだから」

「わかったって!もう終わりなら訓練してくる!ありがとなエルサ!」

そう言って残りの焼き菓子を抱えるとカナトは部屋を出ていく。

エルサは軽く頭を揺らしてその背中を見送った。

カナトは昔から人の関心を引くために過激な行動に出ることがあった。不真面目な態度も、礼儀を無視する行動も使用人の中で一際目立つ。

その姿がまるで親の関心が欲しいとばかりに、無意識にやっているようだとエルサは感じた。

実際、アレストがカナトと話すようになってから、カナトの言動はだいぶマシになった。そしてアレストもますます生き生きしているように感じられる。

「このまま続いてほしいわねぇ」

エルサは一児の母親として切実にアレストとカナトの幸せを願っていた。













カナトはシドに襲われてから毎日外で汗を流していた。ほぼ猫とオウムの餌やり以外、日中は外にいる。

そのせいか、汗を拭かずに休んでいると風邪を引いてしまった。

カナトはベッドの上でうなりながら身をよじらせる。

悪夢を見ていた。

夢の中は真っ暗で、周りは黒い人影が立っていた。全員真っ黒で、頭上には大きな羽音が聞こえる。見上げると大きなハエが円を描くように飛んでいた。

黒い人物たちはお互い素手で殴り合い、あるいは手に持った武器を容赦なく振り下ろす。

その光景にカナトは思わず後ろに下がった。

なんなんだ……これ。

赤黒い血飛沫があたり一面に撒かれる。黒い人物のうち1人がカナトに狙いを定めた。

「ぁ………」

鋭い刃物が振り下ろされる瞬間カナトは目を覚ました。

「……ーーッ!!」

目を開けると真っ先に天井が見えた。

部屋の中に荒い呼吸音が響き、それがやがて少しずつと落ち着いていく。

カナトは頭痛するのを感じながら額を触った。いつの間にか乗せていたタオルが枕に落ちている。

なんとか起き上がって用意された水にタオルを浸し、水をしぼって額に乗せた。

布団の中に戻って寒さにガクガクと震える。

こんな真冬に風邪とか本当に死ぬ……。

カナトはさっきの夢を思い返した。思わず身震いしそうになる。それほど生々しい夢だった。

たぶんシドに襲われたせいだ。カナトは心の中で何度もシドを呪い、次会ったら殴り飛ばしてやると決心した。

そして自分を助けた人のことについて、カナトはまさかという憶測を立てた。

あの赤茶色の髪、作中ではあの暗殺者だけがそんな髪色だった気がする。

しかし、街には他にも同じ髪色の人々がいる。とはいえ、髪色、そしてあの身のこなしの良さはおそらく作中で同じ特徴を持った人物は出てこない。

アレストが秘密で雇った暗殺者なのか?ならなんで俺のところに……。

意識がふたたび沈んでいきそうになるなか、そう考えながらカナトは静かに眠り始めた。










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