転生と未来の悪役

那原涼

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第ニ章

望まぬ再会

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カツラギが住み込んでからすでに数日経つが、アレストは特に反感を示すようなことはしなかった。

しかもアレストから、賢い人、とまで称される。

事務室でダラダラしていたカナトはあまりの退屈さに顔を上げた。アレストは今ユシルにあげていた分の仕事もしているため暇がない。

視線に気づいたのか、夏空のように青く澄んだ瞳が見返してくる。

「どうかしたのか?」

「外で走ってきてもいいか?最近筋肉落ちてきた気がする」

「確か今は外にユシルもいるな」

ユシルは庭の休憩スペースによくいると聞いたカツラギは、まるで何かを避けるように外の休憩スペースに通っている。こんな真冬にである。

そしてカツラギのそばにはまたクモが張り付いていた。中身がバレているかもしれない危機的状況下でうかつに行動もできない。クモの目をかいくぐって秘密裏に行動するなんてよほどの手慣れでなければできるはずがない。

ゆえにカナトはほとんど気力のない状態が続いていた。しかし、アレストの言葉に弾かれて背もたれに預けていた体を正す。

「ユ、ユシルのために行こうとしてねぇよ!」

中身で言えば確かに相手はユシルではない。同じ世界から来た者としてカナトは無意識にカツラギに近づこうとしていた。

「そうか。それならいい。外は寒いから気をつけて行っておいで」

顔を輝かせたカナトが素早くソファを降りる。

「行ってきます!!」

事務室を出て真っ先に庭の休憩スペースに向かう。整えられた木の後ろから休憩スペースの入り口をのぞくと、いつもならいるはずのクモがいない。

いい機会だな!

休憩スペースに突進したカナトは「よお!」と寒さに震えていたカツラギに声をかけた。

紅茶を飲んで暖を取っていたカツラギが驚いてカップを取り落としそうになる。

「おっ、危なっ!って、カナト!」

「来てやったぜ?1人で暇だろ?俺も暇だ!」

「勝手に暇判定しないでほしいな。この暇人」

「何もせずに紅茶飲んでるやつが何言ってんだ」

カツラギがキッと目を吊り上げて丸テーブルをバシバシと叩いた。

「ここに本があるのを見えてないのか!帰れる方法を探っているんだ!」

「寒くねぇのか?屋敷の中ですりゃいいだろ」

カナトはテキトーに椅子を引いて座った。体をななめにして頬杖をつく。

「どうせ暇だろ?外出許可取るからさ、遊びに行かないか?」

「……お前の主人はいいのか?俺たちが一緒にいるの好きじゃないってお前、前回言ってなかった?」

「そうだけど、どうせここまで目が届かないし、テキトーに嘘つけばいいだろ!」

「そんな嘘で騙されるような人には見えないけど……というか、屋敷に入らないのもあいつを避けるためだ。あの目がどうにも苦手で……」

「あの目?綺麗な目だよな!」

「そうじゃない!いや、気づいてないのか?まあ、嫉妬と羨望の嵐に晒されたことのない凡人にはわからない気持ちか、はあ」

「お前つくづくイラつくな!」

「いやいい、言わなくてもわかる。俺は優等生だし、社会人としても立派に生きてきた。エリートである俺の気持ちはあんたのような精神年齢が思春期から抜け出せない者にはわからないはずだ。俺の配慮が足りなかった。ごめん」

「本っ当に自己肯定感高いなお前!あと誰が思春期から抜け出せてないんだ!とっくに通り過ぎてきたわ!」

本当か?と問いただしげにカツラギが目を細める。

「ジョークのつもりか?自分を蔑視べっしするつもりはないが、俺にはどうやらユーモアが足りないらしい」

「そこが充分ユーモアの塊だと思うがな!テメェを誘った俺がバカだった!自分で遊んでくる!」

「待て待て。行かないと言ってない。今クモが毛布取りに行ってくれているから、帰って来てから聞くからさ」

「知るか!自分で行く!」

立ち上がってカナトはズカズカと休憩スペースを出た。

そしてその勢いのまま許可も取らずに屋敷を出てしまった。カナトがそれに気づいたのはだいぶ屋敷から離れたあとである。

「何も言わずに出てきてしまったな……まあ、大丈夫だろ!」

密かに後をつけていた暗殺者はそのお気楽な様子にため息をついた。

こんなことが許されるのはおそらく後にも先にもカナトだけだと思われる。

そして当の本人は何も気づかずに街中を歩いていた。

カナトがどこか見覚えのある道筋をたどっていくと、いつぞや襲われたあの水路に来た。

何も羽織らずに来てしまったせいで寒さに両腕を抱き、どこか走り回れる場所はないかと見渡した。街中はまずそんな場所がない。

しかし、前回と違い、今ここにガラの悪そうな少年が3人いた。ぱちっと目が合う。

とりあえず走って体を温めるのが先だと、カナトは3人を無視して別の場所を見ようとする。しかしそうはいかなかった。

「おい!前にいるベストのやつ!」

あ?とカナトが振り返る。

「俺のことか?」

「お前だ!ずいぶんといい身なりだな。何か金もんは持ってないのか?俺たち最近お腹空いてて仕方がないんだよ」

3人がカナトを囲むように近づいた。

「……相手を見てから噛みつけと教わらなかったのか?クソガキども」

腕を抱いていたカナトはゴキゴキと指を鳴らした。

「貴族の飼い犬がいっちょ前に説教するんじゃねぇ!どうせ主人のためのおつかいだろ?通行料として金を出せば傷つかずに通れるんだぜ?」

「勘違いするなよ。お前らが俺に通行料払え!!」

叫ぶなりカナトは先手を打ち出した。

難なく3人をボコボコにしたあと、口もとににじんだ血を手の甲でぬぐった。

雪を頭に乗せながら地面に倒れている3人を見下ろし、

「たくっ、強盗のふりして金物取ろうとしてんじゃねぇよ」

「……っ、クソッ!召使いの分際で喧嘩慣れしているお前に言われたくねぇよ!」

「お前がこの中でカシラか?よーく聞いとけよ」

カナトは身を屈めてギロッとにらんだ。

「お前たちがなんでこんなことするのか知りたくもねぇが、俺とお前たちじゃ踏んできた場数が違うんだよ」

生前だてに喧嘩ばかりしてねぇんだよガキども!自宅最寄駅の警察署勤務のやつらと仲良しになったことあんのか?お?

「次俺のこと見かけたら遠回りしてけ。じゃねぇと本当に金取るぞ!さっさと行け!」

3人はお互い支えながら立ち上がるとしっぽ巻いて逃げていった。

ふんっと鼻を鳴らしてカナトは腰に手を置いた。

襲われてから知ったことだが、実際にここら辺はゴロツキがよく現れる。夜は大人、昼は未成年。昼をカナトの知っている言葉で表現すれば不良の溜まり場である。

カナトは歩きながらだいぶ喧嘩で体が温まってきた気がした。

最近ますます冷え込みが酷くなっているせいか、めんどくさがっていたベストを着ないと寒さで外を歩けない。特に暖炉のある部屋から離れると耐えられない。

しかも忠誠心を表すために事務室へ通うしかなく、外で鍛錬する時間も取れない。

水路に沿って歩くと、トンネル状になった通路が現れた。

「なんか出そうな雰囲気だな」

くるっと周って引き返そうとした時、ぽちゃんと石ころか何かが水路に落ちたような音がした。

カナトが腕を抱いてパッと振り返る。

今、誰かいたか?

固唾をのんで、迷ったあと恐るおそるとトンネル内に入る。

「お、おい、誰かいるのか?」

なんの返事もない。だが、鼻にツンと刺激するにおいが届いた。

これは、血のにおい?

なんだか急に背中がぞわぞわとしてカナトは進むのを迷った。

今度こそ引き返そうとした時、かすれ気味の声で名前を呼ばれた。

「カ……ナト」

カナトは恐怖で声すら出せず、引きつった顔で人影のようなものが立ち上がるのを見た。光が充分に届かないトンネルのなかで、ゆらりと立ち上がった人影がおぼつかない足取りで近づいてくる。

暗いなかでその顔に少し見覚えがあった。

「お前……あの時俺を襲ったやつなのか?」

人影はシドだった。










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