転生と未来の悪役

那原涼

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第三章

教材内容

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その日の夜、パーティー以降一回もカナトの顔を見てないカツラギが、なんでいるんだ?という表情で馬車に乗ってくるカナトを見つめた。

だが、カナトが一度も自分の方向を見ず、アレストの機嫌を気にする素振りから何かを察し、視線を外した。

カナトのやつ何か大変なことになっているな。

カツラギはどこか厳しい表情で窓の外を向いた。

馬車の中で誰も言葉を発さずに目的地のウェンワイズ家の邸宅に到着した。馬車を降りる時もカナトはぴとりとアレストの隣で歩いている。

その様子にカツラギはますます嫌な予感がした。

招待客がほとんどそろっているせいか、ホールはすでに賑やかな雰囲気が満ちている。

参加者の大半は若い男ばかりだった。それはこのパーティーの主役がニワノエの妹、シュナが理由である。

「おい!アレスト、こっちだ!」

友達同士で集まっていたニワノエが大きく手を振っていた。

アレストはそちらに向かい、表面上のあいさつをした。

「今日はお招きいただきありがとうございます」

「何もっともらしく言ってるんだか。お城でのパーティーじゃそこの使用人が大手柄じゃないか。よかったな?毒を飲むような使いやすい使用人がいて」

ニワノエの取り巻きがくすくす笑い出した。

それを見てカツラギはそっぽを向いてボソリと言う。

「フラン殿下を前に固まっていたの誰だったっけ」

「なっ、俺だと言いたいのか!」

「お前だって言ってませんけど?もしかして、心当たりがあるのですか?」

「お、お前っ……」

カツラギがその人畜無害な顔で不思議そうな表情を作った。

「ふん、まあいい。今日は妹のためにわざわざお前たちを呼んでやったんだ。だが、妹には近づくな。特にお前だアレスト!」

アレストはいつもの笑顔で黙って聞いていた。

「確かに妹は最近お前に会いたがっているが、あまり調子に乗って近づくんじゃないぞ。今のお前はどこへ飛ばされるかわかったものじゃないからな。俺の大事な妹がだまされてほいほいとついて行ったら一生後悔してしまう」

カツラギはこの世界の社交界について少しずつと理解が深まってきた。

地位で言えば子爵家のニワノエより伯爵家のアレストのほうが上である。しかし、養子という身分に加えてユシルの存在があるためか、今社交界でアレストの立場はかなり微妙なものとなっていた。

さらにユシルは貴族の世界に戻ってきたばかりのペーペーなせいで、伯爵家であるにも関わらずナメられている節がある。

「僕はただカナトのために息抜きとして付き添いで来ただけだ。パーティーでの一件以来、一度も外に出たことがないからな。しかものちの王族主催のパーティーにまで招待されているから、その経験積みとしてカナトを連れてきたんだ。一応初めて王家から直々に招待される使用人だからな。ヴォルテローノ家としても鼻が高い」

アレストは堂々とこのパーティーを足踏み台扱いしていることを口にした。それにニワノエが震えながら怒りに耐えている。

「お前……ふ、ふふ。そうだな。だがその使用人の態度を見るに本当に王族主催のパーティーで粗相をしないのか?敬語もろくにしゃべれず、貴族に対しての礼儀もなく、読み書きができるかどうかも問題なのに、よくも堂々と招待されたことを口に出せるな」

「誰が読み書きできないんだ!!できるし!敬語だって言えんだぜ?お前みたいな栄養が頭まで行き渡らなかったやつと一緒にするな!」

「貴様っ!使用人の分際で!」

「お前よりかしこいんだよ!ニワトリ野郎!」

「そこまで言うなら読み書きできる証拠を見せろ」

カナトは腕を組んでフンッと笑った。

「いいぜ!いくらでも試してみろよ」

だてにGLBL小説を読んできたわけじゃない。その得意げな鼻をへし折ってやる!!

カナトの得意げな姿にニワノエはどこか睥睨へいげいな視線を投げた。

準備すると言ってその姿は二階へ消えていく。

招待客が全員揃ったのか、主役のシュナが二階から降りてきた。綺麗に着飾った少女は赤い髪に背筋が伸びた美しい人であった。

カナトが思わず「はあ~」と感嘆の声をもらした。

「……綺麗か?」

アレストの声に現実へと引き戻されたカナトはぶるぶると頭を振る。

「お菓子のほうが綺麗」

そのうえ訳のわからないことを口走る。言ってから恥ずかしさに顔が赤くなる。

何言ってんだ俺……。

アレストは軽く笑ってカナトの頭をポンとなでた。

その行動を階段から降りてきたシュナは目敏くとらえる。一瞬だけぐわっと見開いた目はすぐにもとの穏やかな笑みでとりつくろった。

同時に、カナトたちの近くにいたカツラギはシュナの目線に気づいた。

この世界って、腐女子に似た概念あるのか?

屋敷や社交界の女性のあいだで、アレストとカナトが何やらくっつかれて友情だのなんだのと言われているが、腐女子の妹を持つ身として、カツラギはその友情は何を指しているのかよくわかっている。

もちろん、単純に距離が近い男性や身分差にもだえているだけの可能性もある。が、シュナのあの一瞬の視線はたぶん……そうだ、現実で男同士がイチャイチャしてるのを見た時の妹と同じだ、とカツラギは思った。

「みんな!注目だ!」

シュナが階段を降りきり、簡単なあいさつを交わしていた時だった。突然二階に現れたニワノエが何かを手に持って階段前に立つ。

「お、お兄ちゃん!」

一瞬で自分から会場の注目を掻っさらった兄にシュナが驚いた顔をする。シュナをエスコートしていた母も驚いた顔で自分の息子を見た。

「ニワノエ!あなた何をやっているの!今日はシュナが主役なのよ?」

「母様、シュナ見ていろ。おもしろいもの見せてやるから」

カナトも見上げながらまぶたがぴくりと動いた。

何やろうとしてんだあいつ。

「みんな!そこにいるカナトという使用人は知っているか?ヴォルテローノ家の養子が大事にしている噂の使用人だ!」

そう言ってカナトたちがいる方向を指差す。

カナトは怒りを耐えて拳を握った。

あの野郎!大声で養子という部分を宣伝する意味あるのか!こんな貴族子息が集まった場で!

「どうやらアレストから少し読み書きを習った程度で俺たち高貴な身分に及ぶと思っているらしい」

周りが少しザワザワとし始めた。

「それだけのことで私たちの知識に及ぶと思っているのか」

「やはり甘やかされた使用人はつけあがるな」

「今一度教育しなおしてほしいものだ」

周りの声にアレストはスッと目を細めた。

「カナト、いやなら帰ろうか?」

「あ?帰るかよ!あの野郎に読み書きできると証明してやる!」

闘志満々な姿にアレストも仕方なく頭を振った。

「無理をしなくていい。わからない読み書きがあっても大丈夫だ。きみの価値はそれだけじゃない」

「なぐさめてるのか?俺のこと信じろよ!」

「もちろん信じている。だからこそできなくても落ち込まなくていい。僕がいる」

なんだか無性に心強く感じて、カナトは目線が漂い始めた。

「あ、ありがと……」

うん、とアレストは笑った。

一階で論議する声に満足げな笑顔を見せたニワノエは持っていたものを階段上から垂らした。

「これは最近貴族の子どもに読み書きを教える教材の模写だ。みんなも見覚えあるんじゃないか?これをカナト、お前が読み上げてみろ。全部できたなら確かに読み書きができると認めよう。できなかったら……アレストの教え方が下手としか言いようがない」

「子ども用の教材な、へぇ、ずいぶんとナメられたな」

カナトは額に青筋を浮かばせながら口もとを引くつかせた。

絶対に後悔させてやる!!

カナトはズカズカと階段を上がって行った。

「お、お前何上がって来てるんだ!!」

「黙れ!!それを寄越せ!読み上げてやる!」

バッと教材を奪ったカナトは書かれていることに目を通し始めた。ニワノエがニッと笑う。

「お、お前……」

内容を見ていたカナトが顔色を変えた。怒気をはらんだ目でニヤつくニワノエをにらむ。

「どうした?読めないのか?」

「こんなの教材なわけないだろ!」

「読めないなら言えばいいだろ?強がるな」

「違う!読めるけどこれは……っ」

教材と言ったそれはアレストについて書かれたものだった。

アレストがどこで拾われたのか、貴族のあいだで流行った噂がある。そして慣れない貴族の世界で犯してしまった過ちなど、ユシルが帰って来てからアレストの処遇はどうなるのかなど、貴族のあいだで言われている憶測や推測が書き込まれていた。

カナトがそんなものを読み上げるはずがないと確信しているニワノエはニヤつくのを抑えきれなかった。

教材じゃないと言ったところで内容は別にあきらかな貶めじゃない。さらにはこの場にいるほとんどの人がその噂たちについて話したことがある。言ってしまえば事実が書かれ、嘘は書かれていない。

責任を問うなら1人だけではないし、味方をするなら誰にするのか明白だった。

ここで内容を公開せず、カナトが読めないと言えばこの場の人々はおおかたニワノエに肩入れする。アレストの甘やかした使用人は結局勘違いしたバカだという滑稽な図が出来上がる。その主人としてアレストも立場がなくなる。

最高だ!ニワノエは心の中で歓喜した。

ほら、どうした!早く恥を晒せ!

カナトはどうすればいいのかわからなかった。






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