転生と未来の悪役

那原涼

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第三章

助け

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紙を持ったまま立ちすくみ、無意識にアレストの方向を見る。しかし、なぜかいるはずの場所にいなく、探すと階段を上がって来ていた。

「アレスト……」

カナトが不安げに呼ぶとアレストは優しげな笑みで笑い返した。

「それ、見せて」

「でもこれ教材でもなんでもなくて」

「大丈夫」

差し出された手を見てカナトは迷いながらも渡した。アレストは内容を見てふむとうなずき、目線を上げた。

「なるほど。僕がいない場面ではこんなことも話題に上がっていたのか」

「だったらなんだ?」

「僕の出身か……アレスト・ロイマン・ヴォルテローノは幼少期に領地視察をしていた伯爵に拾われ、貴族と同じ教育を受けることができた。当時の伯爵は妻子が失踪したため、精神的に不安定なことが理由として挙げられる。当時の視察地とアレストの年齢と見た目から察するに、出身地は北最大の花街と言われるアスタムールだと推測できる。本人はその街でどうやって育ってきたのか想像できなくもない」

笑顔で淡々と読み上げるアレストにその場の全員が声も上げずに聞いていた。

「アレストが初めて社交界に出たのは12歳。当時の伯爵の付き添いで友達の誕生日パーティーに参加していた。そこで男色家として有名な某伯爵に言い寄られ、そのまま水をかけた」

「アレスト!」

「ん?なんだ?」

カナトは戸惑った表情で言いよどみ、そしてパッと紙を奪い返した。

「こんなもの読まなくていい!」

「どうして?全部本当のことだ。でもひとつ訂正するなら僕がいたのはアスタムールじゃない。その隣にあるゴミ捨て場だ。口減しのためにーー」

「アレスト!!」

カナトはじっとアレストの目を見て少しずつと怒りが湧いてきた。

「こんなやつのためにお前がいやな思いしなくていい!人前で他人の噂を紙に書き込んで読ませるようなやつごとき俺が代わりに殴ってやる!!」

「ありがとう。でも大丈夫」

その目がニワノエを見た。

「そんなに僕のことに憧れていたんだな」

ニワノエが「は?」と声に出す。

「ここまで書き込むほどだなんて。そういえば以前から僕の真似をして白い服を着ていたな。きみに似合ってるよ」

「う、うるさい!誰がお前の真似なんか!」

「あの短時間でこれほど書けるのはすごいな。僕ですら忘れかけていたことだ。いい記憶の呼び起こしになったよ。ありがとう」

まさか本人が内容を読み上げ、あまつさえ感謝をするなど想像しなかったニワノエは言いたいことが言えず、口をぱくぱくとさせた。

アレストはふと視線を階段下へ注ぎ、このパーティーの主役であるシュナを見た。見られた本人は緊張した面持ちでアレストが降りてくるのを目で追った。

目の前まで来た長身の男は、本来ならその身長で他人に威圧感を与えるが、生まれつき人懐大型犬みたいな顔立ちのせいで威圧感の大部分が相殺そうさいされた。

「もしよければ、最初の一曲は僕と踊っていただけませんか?」

身分や日頃の行いなどを見ても、ダンス開始の一曲を踊る相手としてアレストは適切だった。

「わ、私でよろしいのですか?」

シュナは胸の前で握りしめた手を解き、戸惑いげに差し出された手に乗せた。

と、そこで2人は同時にカナトを見上げる。

「いや、なんでこっち見んだよ!踊りたければ踊れよ!」

「カナトさん!私、あなたの正直でまっすぐなところがとても素敵だと思います!」

シュナは思いを告げるように叫んだ。カナトは訳がわからないように首を傾げ、なんで今それを言われるのか必死に考えた。

この場面と何か関係あるのか?

「だからどうかずっとそのままでいてください!私応援してますから!そしてアレスト様のことも奪ったりしません!」

んんん???何言ってんだ?

「お兄ちゃんの無礼はお許しください!」

「シュナ!お前はどっちの味方だよ!」

「お兄ちゃんなんて大嫌い!!」

大嫌いと叫ばれてニワノエが固まった。

その後、アレストはシュナと踊ったことでその場の気まずい雰囲気は解き、パーティーは順調に最後まで執り行われた。

ニワノエに関しては母親である子爵夫人に連れられて二階へ消えたきり現れてない。

カナトたちは早めに切り上げ、あいさつだけしてパーティーを去った。










帰ったあと、カナトはアレストの部屋でその帰りを待った。時はもうすぐ真夜中を回ろうとしている。

ベッドの上でうとうとしながら寝かけているとドアがガチャと開いた。

「ふあぁ……帰ってきたのか」

「先に寝てていいのに」

「いや、ちょうど話したいことあったから」

カナトは目をこすりながら誰かが近くでベッドに座ったのがわかった。

「今日は悪かったな。迷惑かけて。あんな文読ませるし」

近くに座ったアレストはうとうとしているカナトを支えて自分の肩に頭を乗せた。

「気にするな。内容は事実だし、僕自身はもうなんとも思ってない」

実際、ニワノエをよく知っている身として何か悪巧みをしていることはわかっていた。だからアレストは最初から気にしてない。

しかし、そんなことあるわけないだろ、とカナトは思った。作中で養子ということに対してアレストはとてつもない劣等感を持ち、さらにそれが闇堕ち材料の一つである。なんとも思わないわけがない。

「なんか変な噂されていると感じたら俺に言え。考える頭はねぇかもしれないけど、噂したやつ全員殴り飛ばしてやるくらいの力ならある」

「そう言ってくれるだけでいい」

目を閉じながらほとんどうわ言みたいに言うカナトの髪をなでながら、アレストは穏やかな笑みを見せた。

「その気持ちだけでいいんだ」

安心したように体を預けるカナトの耳を触り、ゆっくりとベッドに寝かせる。身を伏せてほとんど額がくっつくほどの距離までくると、その頬をなでた。

カナトは気持ちよさそうに身をよじり顔を大きな手にこすりつける。

「きみの察しの悪いところが今は助かっている。大丈夫だ。何も難しいことは考えなくていい。今までのように気ままに過ごしてくれればいい。もちろんじゃまなやつらがいない前提だけど」

カナトは寝入る直前にガチャンという音とともに足首に冷たい感触がしたのを感じた。

その冷たさに「んっ」とうめき声をあげると、アレストは目が覚めかけるカナトの頬にキスを落とした。

「大丈夫だ。何もない。安心していいよ。おやすみ、カナト」




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