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第三章
二度目の相談
しおりを挟むキスをした晩から数日。
カナトはずっとアレストを避けていた。悩みに悩んで、最終的に壁伝いにカツラギの部屋へと来た。
窓に張り付いているカナトを見て、カツラギは目頭をもんでから手に持った本を下ろした。
「頼むからもっと普通の出方をしてくらないか」
「カツラギィ~」
「わかったからそんな憐れみ誘うような声やめろ」
カナトが部屋に入ってくるとカツラギは窓の外を確認して鍵をかけた。一応カーテンもシャッと閉める。
「それで、こりずに来た理由はなんだ?」
「俺アレストとキスした」
「キッ!?」
カツラギがずれてもない、目に見えない眼鏡をくいっと上げた。
「どういうことだ……」
カナトがことの経緯をペラペラとしゃべったあと、その内容に自分で撃沈しベッドに伏した。
「つまり、雰囲気に押されてキスしてしまったと?」
「……たぶん」
「でもいやではなかった」
「………うん」
カツラギが目頭をもんだ。
「ただ聞いて欲しくて来たのか、それとも今後の対策を話し合いたいのかどっちか言ってくれないと」
「………わからない」
「わからないって……解決のしようがないんだが」
「俺って、男が好きなのか?」
「俺が知るか」
カツラギはおおかたカナトが何で悩んでいるのかわかった気がした。おそらく自分の気持ちが知りたいのだろう。
男は好きじゃないが、男(アレスト)にキスされていやじゃなかった。しかも本人の話を聞いている限りうれしそうにも聞こえる。
「そういえばあの薔薇、写真撮ればよかったな。あ、いやこの世界にカメラないか……はあ」
「薔薇?」
「んー、成人の誕生日に薔薇をくれたんだよ。冬に綺麗に咲く薔薇を探すのが難しいらしくて、でもアレストからもらった薔薇はめちゃくちゃ大きくて綺麗なんだよ。色はちょっと怖かったけど。あれくらいの薔薇って冬だとかなり珍しいみたいでさ、今思い出すと押し花でもなんでも良かったから形に残せばよかったな」
「どんな色なんだ?」
「赤色。というより、血みたいな色」
「深い赤ということか?」
「そう!」
カツラギは考えるように少し間を開けた。
「冬にわざわざ色の深い赤薔薇か。作者のオリジナル設定でなければ、参照されている時代背景を考えるに冬に薔薇は確かに難しいな。季節外れで見つけたとしても大輪に咲くことはない」
「そうだろ!というか詳しいな」
「取引先でプレゼント送る時に花を選ぶからな。花言葉も調べた上で送らなければいけない」
「そうなのか?俺が調べた時って赤薔薇は情熱や愛情が……」
言いながらカナトは顔を真っ赤にして枕に口もとを埋めた。
「好きだって言われたことあるけど、そんなに早い時期から好きだったのかな」
カナトの顔を見ていたカツラギは思わず眉をしかめた。
本人が自覚していないだけで実はもうすでに……そんないやな憶測が横切る。
「乙女みたいな顔するな」
「し、してねぇよ!」
「深い赤薔薇は綺麗だが、あんまり贈り物にしないほうがいいこともある」
「なんでだ?」
「深い赤薔薇は黒薔薇とも呼ばれている。花言葉も暗いものが多い。憎しみとかな」
もしくは『あなたはあくまで私のもの』などである。
「マジか!?でもあの時期のアレストの心情を考えるとわからなくもないな」
知ってか知らずか、カナトはすでにアレストに偏り始めていた。
「カナト、なんでアレストのことをそんなに信用できるんだ?」
「なんでって、昔から何をしても許されたからな。何をしでかしても味方してくれたし、パーティーの時も俺を助けたり、恥に思ったことはないって言われたし。俺って行動が色々と問題だろ?」
「自覚はあったんだな」
「何か文句あんのかよ!」
「いや、ないよりましだと思って」
「ふんっ」
カツラギは少し不思議に思った。
昔からアレストはカナトに甘いと他人の口から知っていた。
しかし、カナトが言うように使用人の不手際は主人の顔に泥を塗ることになる。使えない使用人だと周りから見下され、恥だと思われるのが当たり前だ。ニワノエの態度を見てもそれはあきらかである。
この世界はある程度上下関係が厳しく、主従に関しては言うまでもない。
それなのに周りから非難されると知りながらもわざわざカナトを専属使用人にし、かつその行動を制限しないのは……闇落ち前のアレストは本当にそうするのか?そこまで考えていなかったとは考えにくい。もしかしたら、アレストは最初からカナトの周りにいる者を遠ざけ、自分しか目に入らないようにしたんじゃないか。
そう考えると少し悪寒がする。何よりパーティーで堂々とカナトをかばうところが自分は周りと違うことを主張しているようで、なんとも計算高い。人前で宣言するにはある程度勇気がいる。おまけにカナトの態度は本人にもわかるほど問題がある。周りが責める環境で1人だけ自分をかばうとなると、おのずと感激してしまう。アレストはそこまで考えて行動しているのではないか。
カツラギはちらっとカナトを見た。何かいいことでも思い出しているのか、その顔はやけにニヤニヤとしている。
ヴォルテローノ領では厨房で働いているエルサという女性がいる。彼女が言うにはカナトは昔からアレストの言うことだけはなんとか聞き入れていた。主従でありながら2人の仲は少し良すぎている。カナトもアレストに依存している節がある。
今までの行動を思い返せばたくさんある。例えばアレストはカナトとユシルの距離が近いことに嫌悪感を抱いていた。それなのにカナトは“ユシル”に飽きずに近づいていく。まるでわざと注目を引いているように見える。
何か困りごとがあればアレストの姿を探そうとする。パーティーでの一件も似た場面があった。
そして殺しかけられても簡単に許してしまう。
危険だな。カツラギはそう思った。カナトはアレストから離れたほうがいいのではないかと思う。しかし、この世界で生きていくのならカナトは何かしら後ろ盾が必要だ。自分は現代へ帰れる可能性があるが、カナトの場合すでに死んでいる。それならこの世界で生きていくしかない。どちらかといえばその可能性が大きい。
だからカツラギはひとえに離れろとカナトには言えなかった。
もう少しかしこいやつなら1人でも生きていけるんだがなぁ。
いかんせんカナトの性格は衝動的で理性より感情に出る派だった。簡単にいえばヤンチャで子どもすぎる。
現代で死んだのは23、この世界では17。単純計算でも40年は生きているはずなのにこの考えなしの性格でいったいどうやって無事に生きてこれたのか。カツラギは不思議でならなかった。記憶のない年数を入れないとしても26年ほど生きている。
それなのにこの性格なのは本人の問題に加え、確実にアレストが甘やかしたせいでもあるだろう。
カツラギと別れてからカナトは言われたことを考えた。
本当にアレストへの気持ちを確かめたいなら恋人の間でするようなことをアレストで想像してみろ、か。
想像した。
だがすぐに恥ずかしさでその場でもだえた。
だ、ダメだ……恥ずかしすぎる!
頭を抱えて顔を真っ赤していると、「カナト?」と呼びかけられた。
「ああああああ!!」
「っ!?カナト、大丈夫か?驚かせてしまったのか?」
「ア、アレスト……なんでもない、なんでもない」
視線をそらすのを見て、アレストはほんの目を細めた。
「この方向、ユシルの部屋だな」
その言葉にカナトはピンっと背筋を張った。真っ赤な顔が瞬時真っ青になる。
冷や汗を流しながら視線がキョロキョロさまよい始めた。
「な、何言ってんだ。たまたまこの方向に用事が……」
「きみが普段使いするような場所なんて、この方向にはない」
「……………」
「大丈夫。ユシルにそこまで会いたいなら会いに行けばいい。ただ、夜はちゃんと帰って来てほしいな」
アレストはカナトの耳をさすっとなでた。その指先の冷たさに身震いしそうになる。
カナトは耳を押さえて「わかっている!」と叫んでドタドタと走り去ってしまった。
最近カナトがアレストを避けるために自分の部屋へ逃げたことを言っていた。それがわかってしまったカナトはただただ気恥ずかしさにもだえた。
本当に今の状態で同じ部屋に住んでいいのか!?
◇—————————————————————
今日が大賞投票日最終日(?)になりました。
大賞ページから、検索から見つけていただきありがとうございます!
投票、エール、コメントすべて感謝です!
初めての参加でしたので、投票以外にエールやコメントなども対象であること初めて知りました。(ちゃんとルール読んでいなかった私が悪い…)
なので前回の感謝において投票しか触れてなかったこと申し訳ありません。
しおり、エール、コメント、お気に入りなどなど、ご反応のすべてが作品を書き進める源です!
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