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第三章
収穫祭——開始
しおりを挟む収穫祭は開会式を終え、それぞれが馬に乗って森の中へ駆け出した。
カナトはアレストの前で必死に大型動物に気をつけるよう言いつけながら、剣は持ったか?、どこも体調は悪くないか?、危ないと思ったら帰るんだぞと心配していた。
「大丈夫だ。今年はやけに心配してくれるんだな」
「いや、そ、そうかな?」
「今年もきみのために勝利をしよう。まあ、今年は辺境伯もいるから難しいけど、必ずきみのために勝つよ」
そう言われてカナトが思い切り顔を真っ赤にした。
「そ、そういうこと人前で言うなよ……」
アレストは毎年優勝賞品の花冠をカナトに渡していた。
とはいえ、小説通りなら今年はイグナスが優勝し、花冠をユシルに送る予定である。
収穫祭はもともと狩猟をする一方、採れた収穫物を振る舞うことも重要なことである。そのためか、すでに野外テーブルには様々な果物を含め、軽食が用意されていた。
狩りに出た者たちが帰ってくるまでのあいだ、いわゆる社交を交えて待つ者たちはお話に花を咲かせる。
アレストを見送り出したカナトは心配が収まらず、そのうえカツラギのこともあってその場でぐるぐる回り出した。
大丈夫か?本当に大丈夫か?
「落ち着かない使用人だな」
どこか蔑視のふくんだ声に振り向くと、第二王子のフランが立っていた。長い金髪が風に揺らいで肩にかかったのを煩わしそうに後ろへはらう。
フラン!!!???あれっ!?狩りは?なんでこいつがここに残ってんだ!!小説の内容と違うぞ!!
「そうだ。アホ面をしているきみに紹介しよう」
そう言ってフランは自分のななめ後ろに立っている使用人に手を向けた。
「彼は私の専属使用人だ。きみと違って読み書きはもちろん、礼儀作法、各方面の知識を持つ優秀な人材だ」
「もったいないお言葉です」
その優秀な人材は胸に手を当てて模範的な礼をするとカナトに挑発的な目を向けた。どれほどあきらかではないが、胸を張ってカナトを見下ろすように自信のある目を向ける姿は、カナトの闘争心に火をつけるのに充分だった。
なんだコイツ。
「つまり何が言いたいんだよ」
優秀な人材が目を剥くように見開いた。
「お前、王室きっての美しさを持つ王位継承者であらせられる第二王子のフラン殿下に向かって、その口の聞き方はなんだ!」
「そんなに長い人物説明必要か?なくても誰かわかるだろ。お前らってムダな努力好きだな」
「なっ!」
最初は自分の専属使用人の言葉で誇らしげにしていたフランが、その言葉で顔を引きつらせた。
「さすが何処の馬の骨もわからない使用人は言うことが違うな」
「そうか?ありがとって言えばいいのか?」
皮肉がまったく伝わってないことにフランはまぶたをぴくつかせた。
「ふん……身分の怪しい者をそばに置くのはヴォルテローノ家の習慣かな?アレストといいお前といい、下賎な血でしかないのに私のような高貴な者に楯突くなんて、いやはや、教育とは恐ろしい」
「何が言いたいんだよ」
さすがのカナトも気づいた。
「アレストはあくまで優秀だからわかるけど、きみのような者をそばに置くなんて、どう考えても解せない」
「アレストの考えがわからないのはただ単にお前がーー」
バカなんじゃないか?と言おうとしたところ、口をふさがれた。驚いたカナトが振り返ると開会式終わったばかりなのに、すでに酔い気味なデオンがそこにいた。
カナトに向かって、しー、と言う動作をしてフランを見た。
「殿下、ご機嫌麗しゅうございますねぇ」
「あなたか。爵位を受け継ぐのではないかとささやかれているそうで?」
デオンはその鋭い歯を見せて笑った。
「ああ、バカ兄貴が女と賭け事に溺れてしまってなぁ」
「幸運だな。まさか問題児のお前に爵位が行き渡るなんて、ロンドール家もいよいよ栄えるね」
「殿下からそう言ってもらえるなんてうれしいですよ。それではこの使用人借りてきますよ」
「どうぞ?」
含みのある会話を終え、カナトを連れて行ったデオンは急に笑い出した。
「ハハハハッ!」
「急に連れてきてなんだよ!」
「いやぁ、お前が何を言おうとしたのかわかってたぜ?だがな、アレストのいない場で王族に立ち向かうなよ。下手すりゃあ、打首の刑だ」
デオンが首もとで手をシュッと振る。
「そうなのか?」
「本当にわかんねぇのかよ、ハハハ!」
「あ、ありがと?」
「まあ、礼はいらねぇよ。ついでだしな。それに本当はアレストと仲良いの悟られたくねぇんだ。だから、人前で連れきたからには少し手伝え」
「いいけど、何を?」
デオンがスッと指を前に向けた。
「あっちで女ナンパしてるやついるだろ。俺の兄貴だ。ちょっと静かにさせるから女性のほう避難させてやれ」
「なんだ、そんなことか!任せろ!」
「頼もしいな」
2人はデオンの兄だと言う人に近づいた。ナンパされているらしい女性はメイドで、立場上うまく断れないらしく、困った表情で立ちすくんでいた。
「少しだけでいいから、飲みに付き合え」
「兄貴!」
その呼びかけに、メイドにワイングラスを渡そそうとしていた男がピタッと動きを止めた。カナトはそのすきにメイドの腕を引いて離れさせた。
「カナトさん!」
「あ、お前屋敷のメイドか!」
「はい!そうです!」
「ここは俺たちに任せろ。あっち行っていいぞ」
「ありがとうございます!」
メイドは慌ててこの場を離れて走り去った。
見ると、デオンは慣れた動きで男の首と両腕をホールドして動きを制限していた。
「離せっ!!」
「またナンパしてるのかよ」
「貴様に関係ないだろ!」
「いい加減受け入れろよ。公開したほうがマシじゃねぇか?」
「ッ!ふざけるな!勝手なことをするんじゃない!俺は、俺はお前のーーんうっ!」
デオンが首をホールドしていた腕で男の口をふさいだ。
「あんまり余計なこと言うな。世話のかかるやつだな」
そう言ってデオンはカナトを振り向いた。
「手伝ってくれてありがとな。ほんの少し離れてるから第二王子に気をつけろよ」
そう言って自分の兄を肩に担ぐと離れていく。
結局デオンって自分の兄のこと嫌いなのか?結構世話してるみたいだけど。
カナトは頭の後ろをかいて自分の席へ戻った。
しかし、デオンの言ったことが実現した。しばらくして第二王子の専属使用人が前に出て、高台に立つと集まった人々を見渡して大声で叫んだ。
「みなさん、ご注目ください!」
アレストの言いつけでフルーツをちまちまと食べていたカナトも声につられて顔を上げた。高台にいる人を見て我関せずにジュースを飲む。
……どっか見たことあるな。誰だっけ。
「私は黄金の薔薇であらせられる第二王子の専属使用人、ストルです!」
その長たらしい説明にカナトは相手のことを思い出した。
ああ!フランの専属使用人か!
完全に余興のつもりでカナトはリラックスしていた。耐えきれずにクリームたっぷりのケーキに手を伸ばそうとした時だった。
「私はフラン殿下の専属使用人としてある方を許せません!その人は殿下に敬意をはらわないばかりか、礼儀作法の一つもできない!注意されても散漫な態度で己のあやまちを認めず、そのうえ楯突こうとしました!その人はそこにいるアレスト・ロイマン・ヴォルテローノの専属使用人、カナトです!」
突然名指しで呼ばれ、ケーキにかじりつこうとしたままカナトが目を見開く。
俺?
「つきまして、私はここでカナトと専属使用人の名をかけた対決を望みます!」
ワッツ!?
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