転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
83 / 241
第三章

お祝いと別れ1

しおりを挟む








時間になるとカナトは去年の誕生日にも使っていた両開きドアの部屋に連れてこられた。

若いメイドは「がんばってください!」と言うとそそくさとその場を離れた。

カナトはえりもとを引っ張って緊張した面持ちでドアを開く、とその瞬間、パッと深紅の薔薇が目の前に現れた。

「カナト、誕生日おめでとう」

「アレスト…ありがとう」

黒々しい赤薔薇には変わりないが、なんだか去年よりもきれいに大輪に咲いた薔薇である。しかも数えてみると去年と同じ11本。

「やっぱり、去年はわざと11本だったろ。鮮度のいいもの選んでいたとか言って、俺本数調べたぞ」

「よくわかったな。愛しているよ、カナト」

瞬時にカナトの顔が真っ赤になる。

「何言ってんだ!……こ、こんな場で」

「本当の気持ちだ」

「お前……」

そこで「ごほん」と咳払いが聞こえてきた。みるとカツラギとイグナスがまだ食事の用意されたテーブルの前で立っている。

カナトの顔がさらに真っ赤になった。

「その、俺たちがまだいるから、そういうのは2人きりの時にでもやってくれんか……」

カツラギが気まずい顔でそっぽを向きながら言う。

「ア、アレストお前のせいだぞ!!」

真っ赤になりながらカナトは叫んで、ドタドタとテーブルの前に行く。

「もういいから早く食べようぜ!」

その焦りと恥ずかしさの混じった様子にアレストは楽しそうに声を上げて笑った。

それぞれがタワーみたいな三段ケーキからワンカット取った時、カツラギが頬を引くつかせた。

「じかに見ると恐ろしいな。なんだこの30センチありそうな高さのケーキは」

何層にも重ねられたスポンジケーキの断面を見ながらそうつぶやく。

カナトはなんでもない顔で振り返った。

「そうか?去年もこんな感じだったけどな」

「カナトはワンホールぐらい食べた」

アレストの補足にカツラギは驚きを隠せなかった。

「胃が気持ち悪くならないのか?」

「他のケーキもあるだろ?ほら、マカロンも」

「…………そうか」

カツラギはわざわざ、結局どれもケーキ類だろ、というツッコミを飲み込むことにした。

祝いムードも少しずつと終わりに近づいてくるとアレストがほんの離れたすきを狙って、カツラギが何かをカナトに手渡した。

「なんだこれ?」

ジュースを飲んでいたカナトが渡された箱を見て首を傾げる。

「固形チョコレートだ」

カナトがぎょっと目をむいた。

ジュースのグラスをテーブルに置いて慌てて箱を開けた。中に入っていた包みを取り出して開いて見る。

「本当に固形だ……すげぇ!ありがと!」

「どういたしまして。固形自体作ろうとするのはそんなに難しいことじゃないしな」

「マジか!お前本当になんでもできるな!」

「まあ、俺ほど優秀となると朝飯前だ」

「またそれか。でも本当にありがとな。俺あっちの食べ物たまに恋しくなってしまうからさ」

そこへ別の声が入ってきた。

「何をもらった?」

振り向くとアレストが微笑みながら近づいてきた。それを見てイグナスも冷たい目でカツラギの後ろに立つ。

瞬時周りの雰囲気が変わった気がした。

カナトは二つの意味で緊張している。一つは雰囲気、もう一つは……ちらり。カナトはイグナスを盗み見した。

イグナスって、いつからアレストを警戒していたっけ?

イグナスはあきらかに警戒していた。アレストもそれに気づいているが、2人は静かに対峙したままどちらもそれに触れようとしない。

その雰囲気の中で最初に声を発したのはアレストだった。何やら固まったカナトを見下ろして口を開く。

「カナト?」

「はい!」

「それは?」

「こ、これ?えーと、チョコレート?硬いやつ……」

見つめられて最後のほうの声が消えかける。

「見たことないが、おいしいのか?」

「味はいいと思うけど……」

カナトはチョコレートを見下ろしながら箱だけテーブルに置くと一つつまんで食べた。もぐもぐと口を動かしているとその目がだんだん輝いた。

「おお!本物だ!うまい!」

「よ、よかったな」

カツラギは寒くなるのを感じて片腕を抱いた。多分寒いのは気温が低いだけではない。

そこでカナトが戸惑いげに口を開いた。

「なあ、あのさ……今日帰るのか?」

その顔を見てカツラギが思わず一瞬固まった。

「……いや、そんな予定詰め詰めなわけないだろ。帰るのは明日だ」

「そっか……本当にチョコレートありがと」

「まあ、本当は俺が発明したわけじゃないからこんなこと言いたくないが……紅茶の代わりにそれを商品にしてみたら?最近の小説で流行っているだろ?あっちの知識で最強的な」

数秒の空白後、カナトが大きく口を開けた。

「それだ!!!カツラギお前本当に天才だな!!」

以前カナトはちらっと紅茶店のことに触れたことがある。今紅茶店はアレストがなんとかしていた。ユシルが脚光を浴びるはずの果汁紅茶はすでに他の人が開発してしまったので、このチョコレートでなんとか取り返しができるかもしれない。

「アレスト!これ紅茶店で売ってもいいか!」

「もちろんいいよ。せっかくだから商品名はカツラギにしようか」

「いい考えだな!」

嫌味だって気づけバカ!!カツラギはかろうじて出かかりそうな声を我慢した。

「そ、その、さっきも言ったように開発者俺じゃないから他の商品名にしろ」

「そうか?じゃあ……」

真剣に考え始めたカナトを前にアレストはポンポンとその背中をたたいた。

「名前はまたおいおい考えよう。まだ試験段階を踏まないといけないし」

「だな!」

わいわいとするなか、現代人2人の会話を半分理解、半分不理解で受けて入れていたアレストとイグナスはあえて開発者が別にいるという言葉を信じることにした。

ただ、今までの会話でカナトとカツラギは同じ場所からきたことだけはわかっている。

万が一、カナトも帰ろうとしたら……そう考えるとアレストは思わず握る手に力を入れた。

帰る具体的な方法が明言されなかったが、それはイグナスの指示と言っていい。できればユシルの身分をアレストに知られたくないからだった。

とはいえ、バカではないのですでに疑問を持っているかもしれない。イグナスは笑顔を浮かべて何を考えているのかわからないアレストを見つめた。

ほぼ表面上なごやかな人間じゃないことだけはわかる。問題はカナトである。いまだにカナトはどちらに味方しているのかよくわからない。かと言って中立的なのかどうか問われれば、それさえあやふやに見える。

イグナスは眉間にしわを寄せた。













夜、寝ていたカツラギは夢にうなされていた。

…………………………
—————————————

お願い!帰らないで!何かがおかしい!嫌な予感がする!


お前は誰だ?


未来が乱れている!真っ暗なの!お願いだから、まだーー


—————————————
…………………………


ハッとしてカツラギは目を開けた。荒い息遣いが部屋の中にこだまする。

「………ユシル、なのか?」














一方で、カナトも夢から覚めていた。

寝巻きをめくってお腹に置かれた大きな手を感じながら心臓をバクバク言わせている。

来たか!!ついに来たか!!

今までキスしたり抱きしめることはあったが、事に及んだことは一度もない。アレストにその素振りがなかったからだ。

カナトは寝たふりをしたまま枕をぎゅっと握りしめる。

ど、どうする!目覚めたこと教えたほうがいいか?いやでもどうやって!というか心の準備が!!いやそれよりも男同士でどうやってーー

「カナト」

呼ばれて一瞬でカナトの背筋が強張る。

「おやすみ」

しばらくしてから静かな寝息が聞こえてきた。

………………………え?






しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...