転生と未来の悪役

那原涼

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第三章

お祝いと別れ2

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次の日、ついに別れが来た。

しかし何か心配事があるのかカツラギはずっと沈んだ顔をしていた。

カナトはそれを別れの悲しみだととらえて涙ぐむ。

「絶対忘れないからなぁ」

カツラギが目線を上げると泣きかけの顔が見えた。思わずため息が吐き出される。

「そんなみっともない顔をするな」

準備はイグナスのところでしていたので、カツラギはこれから馬車に乗ってイグナスとともに離れる。

「1年近く過ごして、急にいなくなると思うともったいなくてさ」

「まあ、歳が近いし、合う話題もあったからな。俺も楽しかった。また会えるといいな」

「本当にな」

カツラギはカナトの後ろにいるアレストを見上げた。

「カナトを少し借りてもいいか?」

少し黙ったあと、アレストは「もちろん」と答えた。

カツラギはカナトを引っ張って馬車の裏側に来ると声をひそめた。

「カナト、いいか。もし1人でどうしようもないことにあったら助けを求めろ。本当に助けてくれるかどうかはわからないが、イグナスに話はつけておいた。ユシルに言ってもいい。お前の言うユシルの人物像だと絶対助けてくれるはずだ。いいな?」

「そんな真剣な顔で言うなよ。せっかくの感動が台無しだろ」

「俺はずっと真剣だ。約束しろ。何かあったら1人で突っ走らないこと」

「……わかった」

「あと、前に言ったことのある、やりたいことは紙に書き起こすやつはしたか?まあ、どうせお前のことだから忘れているだろ。アレストが闇落ちした前提でやりたいことを書き起こせ。そっちのほうがいい。これも約束できるか?」

「なんか、子どもに言いつけしているような感覚が……」

「気のせいだ。それより返事は?」

「………わかった」

渋々答えたのを見てカツラギはうなずいた。

そして、カナトはアレストとともに遠ざかる馬車を見送った。

見送りながらカナトはため息を吐き出す。

「なんか寂しくなるな」

「そうか?僕はいなくなってくれて清々したけど」

思わずカナトが言葉につまってしまった。

アレストはしばらく屋敷に入ろうとしないカナトに付き合い、部屋に到着すると落ち込んでいるらしいカナトをひょいと抱き上げた。

「アレスト!?」

そのままベッドに運ばれて体がふかふかの布団に沈んでいく。

「何やってんだ!」

「カナト、きみも帰りたいのか?」

「……な、何が?」

「カツラギだっけ?確か首都の広場にいた時もユシルをカツラギと呼んでいたな」

そうだっけ?カナトはまったく覚えていなかった。

「きみとカツラギは同じところから来たのだろう?」

「……………」

カナトの顔に一瞬空白が浮かび、その後動揺したように瞳孔が揺れた。

「な、ななななな……そ、そそ、そ!」

「緊張しなくていい。きみが誰だろうと、その体が他の者だろうと関係ない。中身がきみならばそれでかまわない」

どうやって知ったこいつ!!いつボロ出した!?俺だって中身とこの体が同じかどうかわからないんだよ!

アレストはまだ驚きから我に返っていないカナトのそばに座ってその頭をなでた。

「カツラギみたいに帰ったりしないと約束してくれるか?」

今日だけでめっちゃくちゃ約束させられるな。

カナトは少し迷ってから「わかった」と言った。アレストは満足げに笑って、何か思い出しようにふところから何かを取り出した。

「そういえばこれはなんだろうな。カツラギがずっとこれを大事に持っていたけど、もしかしたら帰るために必要なものだったりしないか?」

カナトがバッと起き上がってアレストの手に持たれている琥珀色の石を奪った。

「なな、な、なんで今言うんだよ!?もし本当に帰るために必要なものならどうすればいい!!」

「今から追うか?」

「追う!!早く!」

カナトはドタバタと起き上がってドアに向かった。アレストは薄い笑みを浮かべてそのあとに続く。

ユシルには何かある。

アレストはそう確信していた。そしてその何かはイグナスも知っている。これを機に確認できるかもしれない。

もちろん石はユシルの所持物だが、カツラギが大事に持っていたかどうかは知らない。つまりこれはアレストがカナトにあとを追わせるための嘘である。

アレストが物を返すためにカツラギを追うはずがない。それはイグナスもわかっていることだろう。だがカナトは違う。カツラギと仲がいいので追うこと自体おかしくない。

イグナスは疑っても手出しはできない。自分が物を返したいと言うより疑いはよっぽど軽いはずだ。アレストはそう考えた。

そしてこうすることにはもう一つの目的がある。

カナトがその帰る方法を目の前にして、少しでも帰りたい素振りを見せれば……アレストは手のひらを見つめて小指から順に握りしめた。

その時は迷わずに閉じ込める。











イグナスの邸宅へ向かう道中、馬車の中でカナトは終始落ち着かなかった。8回目の「まだつかないのか?」を訊いたあと、やっとついたと知ると一目散に馬車を降り、門を突破しようとする。案の定守備に止められた。

「通せよ!!大事な用なんだよ!」

「しかし……」

「イグナス……じゃなくて、ユシルだ!ユシルを呼べ!そうすればわかるから!」

「と言われても今日は何があっても人を通すなと言われているし……」

なかなか通してくれないことにカナトは頭をかきむしった。

「なんで話通じねぇんだよ!」

アレストは背後から腕を回して突っかかりそうなカナトを脇に抱えた。

「少し通してもらえないかな。きみたちの主人にも関わることだから」

アレストに言われると守備の使用人2人は顔を見合わせた。

「それでは確認いたしますので、少々お待ちください」

うちの1人が離れた。しかし、しばらくすると庭のほうから大きな音が響いた。まるでマイクのノイズのような音である。

カナトはハッとして腕から抜け出し、守備が1人になったのをいいことに勝手に敷地内へと走って行った。

「あっ!」と残った守備から驚いた声が響く。

音がした庭のほうへ来たカナトは倒れている守備の使用人を見つけた。視線を向こう側へ向けるとカツラギとイグナスの姿が見える。

カナトは走り寄って呼びかけた。

「おーい!!」

耳をふさいで地面にうずくまっているカツラギの背中に手をそえていたイグナスが顔を上げる。

「……なぜお前がここにいる」

「忘れ物届けに来たんだよ!それより何があったんだ?」

「………」

「黙っているとわからないだろ」

イグナスはあきらめたように息を吐き出した。

「ここで見聞きしたことを他言しないなら教えよう」

「もちろん」

それを言ったのはアレストである。イグナスが顔をしかめて歩いてきたアレストをにらんだ。

「どうかしました?辺境伯」

「いや。……やはりお前たちは外で控えていろ。この場に必要ない」

「そう言わずに。せっかく来たのですから、何か手伝わせてください」

一方はにらみ、一方は微笑み。反対的な2人はそれぞれ違う想いを抱きながら視線を交えた。

そこへ、うぅ、と小さなうめき声が聞こえてきた。カツラギである。

イグナスがやや柔らかい声で言う。

「大丈夫か?」

「大丈夫だ。まさかあんな大きな音だとは思わなかった。気絶しかけるし、耳鳴りは止まないし」

そう言うその目がふとアレストをとらえた。見るとカナトもいる。

「なんでお前たちがいるんだ?」

カナトが来た目的を思い出して石を取り出した。

「ほら、忘れ物!」

石を見てカツラギが、ああ、それか、とない眼鏡を上げる仕草をした。

「こっちに来た時から服の内側に入っていたものだ。大事に布で包まれていたからユシルの大切な物だろう」

「帰るために必要な物じゃないのか?」

「いや?関係ないと思うけど」

「なんだ!それならよかった!」

だがイグナスはその会話を聞いて瞬時にアレストを見た。ほぼ感覚的な行動である。当のアレストはその視線にうん?と首を傾げている。

イグナスはカツラギを立たせると一歩前に出た。

「カツラギが帰るためにこの場に人が少ないほうがいい」

「邪魔はしません」

「俺に逆らうな」

カナトはなんとなくイグナスが怒っていると感じた。慌てて口をはさもうとするとぐいっと手を取られる。

「それなら俺とカナトだけでいい」

今度はアレストまで鋭い視線になった。それでも顔の笑みは消えず、じっとカツラギを見つめる。

「そんな目するな。人が少ないほうがいいんだろ?それならせめて最後にカナトと別れをさせて欲しい。一応こっちで初めてできた友達だ」

イグナスはカツラギが言おうとしていることを理解した。

アレストに帰る方法を見られてはいけない。カナトなら事情を説明すればわかってもらえるかもしれない。なのでアレストを監視するならカナトよりイグナスのほうが適任だと思われる。

「わかった。俺はこいつと別場所で待機する」

もはやアレストをこいつ呼ばわりし始めたイグナスは率先してこの場を離れようとした。

アレストは厳しい目でカナトを見つめる。

「カナト……」

「俺?」

「帰るのか?」

「帰らねぇって!大丈夫だ。必ず戻るからさ」

明るく言うその顔には嘘の形跡はない。

だが、アレストは不安だった。もしカナトが帰ろうとすれば自分では会える方法がない気がした。例えこの世界のどこに行っても捕まえるが、それができない気がしたのだ。

先ほどの聞いたこともない音も不安要素の一つである。

「信じろよ!」

「……わかった」

ちょうどいい。アレストは思った。カナトが自分の言ったことを守るのかどうかこのことを機会に見極めようとした。

アレストとイグナスが見えなくなるとカツラギはカナトのひたいをデコピンした。

「いてっ!」

「いいか、アレストにこのことは絶対言うな。帰るために魔法を使わないといけないからな」

「わかってる。小説読んだことあるから、アレストにバレたらいけないって俺も知ってるし」

「それならいい。絶対に気をつけろ」

「任せろ!」

カツラギはない眼鏡を上げた。

………心配だな。

「それじゃあ、これから帰る。元気でな」

「お前もな!」

カツラギは草花を抜いた平地に歩み出ると何かを唱え始めた。

すると、その足もとで少しずつと魔法円に似たものが浮かび出る。

「なんだ!?」

「転送魔法だ。図円は樹脂で描いた。この世界でないものをもといた場所に戻すことができるらしい。俺の場合中身が違うから中身だけ帰ることになる。さっきは唱え間違えて変な音が出たが、今回は大丈夫なはずだ。何段階か唱えないといけない。そのあいだ邪魔が入らないように見張って欲しい」

「任せろ!」

「………本当に頼んだぞ」

カツラギは唱えては一旦止まり、また唱えての順番を繰り返した。すると、ユシルの体から何かが浮き出始める。

スーツを着た、眼鏡の男?

カナトはポカンと口を開けた。

その男が目を開ける。自分の両手を見て、下にいるユシルの体を見る。理解したようにふむとうなずいた。眼鏡を上げてから言う。

「成功したようだな」

「お前、そんな顔していたのか。インテリぽいな」

「感想がそれか?まあいいか。お前らしいし」

そう言ってその体がどんどん足から消えかかる。カツラギは何か言いたげにしていたが、やがて言うのをあきらめ、別の言葉で代用した。

「カナト、きみは今までできた友達の中でも最高だ」

「俺にとってもそうだ!」

「……じゃあな」

「またな!」

カツラギはついつい笑った。

「ハハ!またな」

カツラギが完全に消え、ユシルの体が倒れようとした。

カナトは慌ててかけ寄り、まだ薄っすらと光っている魔法円に片足を踏み入れた。その瞬間、ぶわっと吸い上げられるように体が地面から離れる。

「あ?おい、ちょーーまっ!アレスト!!アレストーー!?」

支えがなくなったユシルの体がその場に倒れ、同時に慌ててかけ寄って来たアレストとイグナスは見た光景に目を見開いた。

暴れているせいなのかカナトの体が真っ逆さまになっている。しかも足から消え始めていた。

「カナト!!」

アレストは走ってカナトの手をつかもうとした。しかし、手を差し伸べてもカナトの手が消えてつかめない。

やがてアレストの顔に今までにない悲しげな表情が浮かんだ。

「離れていくのか?」

「違う!!待ってくれ!なんとか、なんとかかえーー」

言い終わらぬうちにカナトは口まで消え、やがてすべてが消えていなくなった。

アレストは自分の両手を見た。

いない……いなくなった………。

近くでイグナスが倒れているユシルを抱きしめていた。何を考えているのか、その顔はどこか沈んでいるように見える。











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