転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

裏切り

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カナトは今日も1人部屋でアレストの帰りを待っていた。やることは特にないので窓の外を眺めるか、ムソクが持ってくるお菓子を食べるかくらいである。

体の鍛錬を続けるにも背中の傷が邪魔をして何もできない。

「だから……!………と……して!」

「………です」

外で言い争うような声を聞きつけてカナトが椅子から降りる。

ドアの前に立ってバンバンたたいた。すると言い争う声が止んだのを確認してカナトが声を出した。

「なあ、何かあったのか?ケホッケホッ!」

「いえ、なんでもありません」

「カナト!私だよ!」

偽ユシル?

外から聞こえたのはユシルの声だった。

「入れてくれないかな?話すことがあるの」

「は?」

「あなたが教えてくれたじゃない。色々と。それについてもっと聞きたいからさ、入れてくれない?」

俺何か言ったっけ?

カナトは眉をしかめていたが正直内容に興味があるので、ちょうど相手が何をしたいのか知りたかった。

「ムソク、入れていいか?」

「ダメです。アレスト様は誰も入れないよう……うっ!」

「ムソク?…………ムソク!!ゲホッゲホ!!」

ドアの鍵が外れる音と一緒にドアが開かれた。

「ユシル……」

「カナト?前回ぶりだね。どうせお互いわかっているから手短に話さない?」

「パチモンが、何言いたいケホッケホッ!と言うかムソクは……」

「本当に酷い声」

「うるせぇよケホッケホッ!ムソクは?」

「魔法で眠っているだけ。ケホッケホッ!」

「お前も咳してんじゃねぇか」

「うるさいな!誰のせいだと!」

偽ユシルは部屋に入ってドアを閉めた。

「まあ、いい。今日は協力を持ちかけてきたの」

協力?こいつが俺に?

「じゃあ本物のユシルは今どこだ」

偽ユシルが振り返って自分の胸に軽く手を当てた。

「私だよ。私が本物」

「あ?ゲホゲホ!何言ってんだ……パチモンが」

「私が本物になるの。私がこの世界の主人公になるの!」

「バカ言ってんじゃーーゲホッゲホッ!!」

「まあ今はまず話を聞いてくれない?それから決めていいからさ」

偽ユシルは窓辺の椅子に腰かけて怪しく笑った。

それ俺の椅子だよ!!

「カナト、この世界はあなたのせいでもとの物語からそれてしまった。アレストは本来使うコマがあっても協力者などいないはずでしょ?」

「だったらなんだ」

この人、一応物語は知っている。

偽ユシルはそう心にきざんで次の質問に移った。

「アレストが誰と協力しているのか教えてほしいの」

カナトがぷいと顔をそらすことで拒否を表した。

なんだ。誰なのかは知っているみたいだね。わかりやすい人。

ユシルは笑みを深めて完全に上位者の態度で話を進めた。

「言いたくないなら私たちの協力について話そっか」

「お前、ユシルの話し方真似ているだろ。今すぐやめろ!ゲホッゲホッ!」

「のどに気をつけて?言ったでしょ、私がユシルなの」

ほざいてろ。

カナトはそっぽを向きながら頑なに偽ユシルの顔を見ようとしなかった。

「カナト、私にアレストの協力者を教えてほしい。代わりにアレストの記憶を戻してあげる」

ハッとしてカナトはユシルを見た。

「ほん、とうか?」

「本当だよ?」

それでもカナトは迷った。アレストに思い出してほしいのはもちろん、だからと言って裏切るようなことはしたくない。

見透かしたように偽ユシルは続ける。

「考えてみて、アレストのやることは必ず度が過ぎてしまう。それを阻止したいでしょ?でも協力者がいるとそれが難しくなる。私もこれ以上物語に狂ってほしいくない。だから協力しましょ?私がアレストのやることを阻止し、物語を正しいーー」

「それだとアレストが死を迎えるだろゲホッゲホッ!!ゲホッ!!」

「殺さない。アレストは絶対に殺さない。殺したとして私にはなんの得もないし。これでいい?それに物語通りならアレストが狙うのは王室なんだよ?」

「本当なのか?殺さないのは。ケホッケホッ!」

「本当だよ」

正直言ってカナトにもアレストの協力者は誰なのかわからない。だが今までの拷問と言葉から察するにフェンデルとデオンの可能性がある。

アレストが記憶を取り戻し、かつ正常に物語が進んでも死なないならそれに越したことはない。それでもまるで裏切るようなことをしなければいけないことにためらいが生じた。

それにイグナスや他の人の記憶はどうすればいい?

その時、偽ユシルの目が一瞬外に向く。

「申し訳ないんだけど、この話はなかったことにしてもいいよ。このままカナトのことを思い出せなくなるのも、死んでしまうのもアレストだし」

魅力的な条件を出したあと、カナトを急かすと偽ユシルはドアに向かって歩き出した。細く微笑みながら、

あともう少し!

焦ったカナトは外の足音も聞こえず、行こうとするユシルの手首をつかんで「待って!」と言う。

「ゲホゲホッ!ア、アレストの協力者はーー」

バンーーッ

大きな音を立ててドアが開かれ、大きな人影が出入り口をふさがった。アレストである。

どこか怒りをたえた目にカナトは思わず偽ユシルの手首を離して後ろに下がった。

「アレ、スト……」

「ユシル、少し席を外してくれないか?」

「わかったよ、兄さん」

ユシルはドアの向こうに消えた。その際、ニッと口もとを吊り上げて笑った。

カナトはドアを閉めて迫りくるアレストを避けるために窓際まで下がり、かかとがゴッと椅子の足にぶつかった。

「俺………」

「僕がなぜきみを部屋から出さないのかわからないのか?僕が隠そうとしていることをきみが知っているからだ。……なぜきみなんだ。だまされるのも、裏切られるのも死ぬほど嫌いだ!」

カナトが首に息苦しさを感じたと同時に背中が窓に押しつけられて激しい痛みが走った。

叫び出す寸前に口を塞がれ、無理やり氷のように冷たい瞳と目線を合わされる。

「ユシルにフェンデルたちのことを言おうとしたのか?」

「ぅ、う"…………!」

口を塞がれて声を出せないカナトは恐怖と痛みで目に涙を浮かばせて震えた。

「今まで僕に見せた好意的な表現はすべて油断させるための演技か?」

カナトは頭を横に小さく振った。

「少しみくびったようだな。きみのこと少しでも純粋だと思った僕が間違った。覚えているかな?言うことに偽りがあるなら迷わずにフェンデルに渡すと。でもたった今僕とフェンデルたちのことを他人に言おうとしたんだ。約束を破ったと思っていいか?」

アレストの目がふと窓の外を見た。カナトの口をふさいでいた手を離し、シャッとカーテンを閉めた。カナトをベッドに投げ、その前に立つ。

「なぜきみなんだ……」

その言葉は苦しくつぶやかれた。

カナトは咳をしながらのどを押さえて事情を説明しようとした。だが何をどう言えばいいのかわからない。どこから説明すればいいのか頭の中でうまく組み立てられない。

「言い訳するつもりもないのか?」

「ち、ちが……!ゲホゲホッ!俺はただ、お前を助けようと、思って……」

「それが秘密を他人に言うことなのか?」

「違う……だって、俺………」

言いよどむ相手に、アレストは身を伏して軽く抱きしめた。

「アレスト……?」

アレストは身を少し離してカナトの目をほんの見つめると顔を近づけて口づけをした。予想外のことにカナトは固まり、そのあいだに口を割られ、何かがのど奥に押し込まれた。

ごくっ。

「ぇ………」

今、何か飲まされた?

アレストが手を離すとカナトはめまいがするのを感じた。

「ア…レ、スト……」

「僕は裏切られるのが嫌いだ。相手が誰だろうと許さない」

その言葉を最後にカナトは意識を失った。










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