転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
111 / 241
第四章

召集

しおりを挟む







カナトが目覚めたのはアレストの腕の中だった。

ハッとして身を起き上がらせるとアレストも合わせて起き上がった。

「おはよう、カナト」

「ぁ、ア"……!」

名前を呼ぼうとしたカナトは慌てて口を塞いだ。

自分の声がまたあの声に戻っていた。

「カナト?」

「ぅ」

カナトがパタパタと体をたたいてノートとペンを探したが、何も見つからなかった。部屋の中を回って紙とペンを見つけるとベッドに戻ってくる。

『記憶戻ったか?』

緊張した顔にアレストは優しく笑いかけた。

「戻った。きみのおかげだよ。ありがとう」

カナトの顔に一瞬の空白があったあと、急に歪めて泣き始めた。

「よぉ"、が……っ」

よかったと言おうとしたがまたも言葉を飲み込んで紙に書く。

『よかった!おかえりアレスト!』

「ただいま」

アレストはカナトを抱きしめて耳もとでささやいた。

「記憶の中のこと、全部覚えている。それと記憶を変えられた期間、きみにしたことを謝りたい。必ず全てを償うからもう一度僕に機会を与えてくれないか?」

カナトがコクコクうなずく。

帰ってきてくれただけでいい。その他はもう全部どうなってもいい。

だが、感傷に浸っていたカナトはすぐにユシルのことを思い出した。

「ぃ"ま!」

カナトはすぐに話すのをやめて紙に書いた。

『今お前の偽物が事務室にいたんだ!◼️◼️ハムスターが目を引き付けてくれている助けないと!』

その文章を見ていたアレストはふむとうなずいた。

「なるほど。ハムスターとはもしかしてあの金色の毛をしたハムスターか?」

カナトがうなずく。危うくユシルと書きそうになり、ユシと書いたところで黒く塗りつぶした。

アレストはどこか考え込むようにななめ上を見て、それからふっと軽く笑った。

「記憶をなくした期間のこともよく覚えている。あのハムスターはいつ飼ったんだ?」

「ぇ"?」

「いや、今訊くことじゃないな。偽物を探しに行こう。しっかりと対価を払ってもらわないと」

声を低めたアレストにカナトは思わず背筋を凍らせた。思わず記憶の世界でのことを思い出す。

アレストって、だいぶユシルのこと嫌っているけど、あんなに殺したいほど憎んでいるのか?

そもそもカナトにとってアレストはいつだって優しかった。行き過ぎるところはあるが、そのほとんどが自分を思ってのことだとわかるとなんだか責められなくなる。

ただ、今回の事件を通してアレストは自分以外にそれほど優しくはないんじゃないかと思い始めた。自分への優しさは疑わないが、他人に優しいのは上面だけなんじゃないかと疑ってしまう。

何より、偽ユシルを殺した時のあの興奮じみた感情を自身も少なからず受け取っている。そこには人をあやめた罪悪感はいっさい感じられなかった。
















事務室で偽ユシルは不安から机の前を行ったり来たりしていた。休憩スペースで、魔法が切れかかり、アレストに扮したイグナスはもとの姿に戻っている。ただ、頭痛するようにずっと眉間をもんでいた。

「金色のハムスター……金色のハムスター……」

そうつぶやきながら偽ユシルははたと足を止めた。

まさか狙いはアレスト?でも使用人の報告じゃカナトは1人のはず。あの何も考えてなさそうなやつが何かできるわけがない。

その思いから偽ユシルは、カナトなんかどうでもいい。ハムスターを先に捕まえろ、と命令をした。しかし、その判断は本当に良かったのかと考えてしまう。

ダメだ。カナトも捕まえないと。

悪役なんて誰でもいい。主人公カップルの1人、イグナスとこの作品最大の悪役、アレスト。この2人から想いを寄せられるのならどんな敵が現れても怖くない。

「私が、私が一番特別じゃないとダメだ!」

「……関係ない」

「なんだって?」

偽ユシルは声の主を振り返った。イグナスはうつむきながら、どこか苦しげな声で言う。

「特別かどうか関係ない。お前はお前のままでいてほしい」

この人はユシルだ。違う……何が違う?

イグナスはこの人をユシルと思うのに心のどこかで酷く拒否していた。だがその原因がわからない。

「心配してくれるの?ありがとう。でも私を邪魔する人はみんな消えてもらわないと。あなたもそう思うでしょ?」

「………」

イグナスの反応を見て偽ユシルはふんっと鼻を鳴らした。

やっぱりイグナスやアレストと言った重要人物はなかなか思うように操れない。

特にアレストである。カナトのことでいつもと違う様子を見せたアレストに、これはつけ入る隙だと思い、偽ユシルは惚れ薬を使うことにした。

アレストの疑心を取り除くために、惚れ薬は少量で食事に混ぜ、関心を装いながら近づくことで少しずつと意識され、自然な恋愛感情を持ったと勘違いさせることにした。1週間かけてやっと成功したのに、直前でアレストは反抗し偽ユシルを殺そうとした。

なんとかイグナスが間に入ってアレストを制したことでことなきを得たが、それにこりた偽ユシルは魔法でアレストを眠らせた。

なのに、なぜかこのタイミングでカナトが帰ってきた。しかも本物のユシルも現れた。

何か出来すぎてない?

その時、なぜか急に部屋に使用人たちが入ってきた。

「あなたたち、なんで……」

使用人たちもユシルを見て困惑した。人垣から歩み出たムソクがよく通る声で口を開く。

「アレスト様がこちらへ来るように言付ことづかりました」

「待って、誰に言われたって!?」

「アレスト様です」

なんでアレストが!

偽ユシルは信じられない思いで目を見開いた。





しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...