転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

断罪の前触れ

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カナトとアレストが事務室に着いた時、すでに出口が使用人たちに囲まれていた。そんななか、アレストの姿に気づいた使用人から道を開け、事務室内の様子が見えるようになる。

ムソクにさえぎられてどこにも行けない偽ユシルとその後ろに立つイグナスが言い争っていた。

いや、具体的にはムソクと偽ユシルが言い争っている。

「ムソク!そこをどいて!」

「ダメです」

「このッ、アレストの金魚のフンめ!」

「光栄です」

「本当に融通の聞かない男だな!」

「お互い様です」

……一応言い争っているんだよな?

カナトが固まっているとアレストが前に歩み出た。アレストの姿を見たん途端、偽ユシルの表情が変わる。

「ユシル、少し話せないか」

「に、兄さん……なんで」

「少々おもしろいことを聞いてな。僕が寝ていたあいだ、寝ているはずの僕がなぜか人前に出たらしいな。ずっと辺境伯の部屋で休憩をしていたはずなのに、どうしてきみと一緒に事務室へ入るところを見られたんだ?」

「そ、その人の見間違いじゃない?」

「だったらカナトの顔の傷はどう説明する?きみと僕がいたらしいこの部屋を出てすぐ顔に傷があるのを見たという人がいる。まさかきみが殴ったのか?」

「そんなわけないでしょ!そんな使用人より私を疑うの?」

「カナトを捕まえようとした人たちがいるんだな?」

アレストが視線を向けるとカナトは何度もうなずいた。

「その人たちが目を覚ましたら話を聞いてみよう。すぐに捕まえに来たらしいから、命令を下したきみの隣に果たして僕がいたのかどうか訊けるかもしれない」

「兄さんっ!」

「ん?」

「どうして私を信じてくれないの?もしかして、まだ爵位のことで恨んでいるんじゃ……」

「ただ単に信じるには証拠が足りないだけだ。カナトが水に落ちた時、きみは助けを呼ばずにすぐに戻ってきたと聞いた。ダムが開く時間は直前に告知されている。そしてきみがその数日前にダムの管理者にわざわざ使用人を向かわせ、開く時間を聞いていたと教えられた。調査員の報告書もある」

「ちが、そんなつもりじゃ……」

カナトが口を曲げた。

てっきり悪運を招くあのクロスタイの留め具が原因だと思っていたけど、こいつ、俺が遭難しやすい状況を作っていたのか?最悪だな!

カナトは口ごもる偽ユシルを尻目にアレストを見上げた。

記憶がないとはいえ、自分が遭難しているあいだまさかそんなことを調査されているとは思わず、カナトは少しうれしくなった。


「これは僕の部屋から見つけた」

そう言ってアレストは懐から何かを取り出した。

二つ折りの紙を開いて見せる。

「父様が病で伏した時、きみはまるで最初からわかっていたかのように、通達されるよりも前に屋敷へ到着した。調べてみれば辺境伯の邸宅にたくさんの草花を運び入れているそうだな」

「それは……」

「その中から毒草も見つかった」

「そんな!いったいいつからそんなことを……」

偽ユシルがイグナスの屋敷に植物を運び入れるのは単に魔力のためなのだが、作品の中でユシルが魔女であることは最初から最後まで他人に隠していた。

そして物語を知る偽ユシルは例え通達されなくてもどのあたりでアグラウが毒を飲まされたのかわかる。

犯人はアレストだが、それを他の人に言えない。言ったとしても信じる人はいない。なりより証拠がない。

「きみが屋敷に持ち込んだ植物にも毒物が見つかっている。父様との因果関係は不確かだし、きみがやったという証拠もない。だから兄としてお前を監禁することにする」

「なっ!」

かばうように見せかけて、実際アレストの打算はもっとところまでいっている。

それに気づかない偽ユシルは何か言おうと口を開くが、すかさずムソクが押さえ込む。

「ユシル殿、あなたがほとんど交流したことがないカナトさんを誘ったのは目的があったのですか?少し残念です。信じていたのに……」

ムソクが悲しげに眉を下げる。

「何言ってんの!?お前たちおかしいんじゃない!?イグナス!なんとかして!このバカたちをどうにかして!」

いつもと違って暴れる偽ユシルを見て使用人たちのあいだに困惑が生じた。

助けを求められたイグナスは手を伸ばそうとしたが、その手首をつかんでカナトがにじり寄る。

ノートに素早くペンを走らせて見せた。

『自分の大切な人本当に忘れたのかよ!こいつじゃないだろ!いや、ある意味間違ってないけど……絶対あいつじゃないぞ!中身が違うだろ!』

「イグナス!!早く助けて!」

偽ユシルはムソクともう1人の男の使用人に抑え込まれて連れて行かれようとした。

偽ユシルの声にイグナスが眉を寄せて頭痛に耐えながら、獣のようなうなり声を出した。

その時、パパッと小さな生き物が走ってイグナスの顔に飛びついた。

金色のハムスターはその小さな手で懸命にパシパシとイグナスの額をたたく。

人前なので声は出せないが、一定のリズムがあるたたき方はユシルとイグナスのあいだで使われる暗号である。

ハッとしたようにイグナスが固まった。

カナトは1人と1匹を見てアレストの腕を引くと事務室を出た。

密かに安堵のため息をつく。

とりあえずユシルが無事みたいでよかった。

「カナト」

「ん"?」

ハッとしてカナトが口をふさぐ。

「………気になっていたが、なぜ声を出そうとしないんだ?記憶の中じゃ、筆談を使うように言っても使わないこと多かったじゃないか」

「ぅ……」

アレストに扮したイグナスに耳障りな声と言われたのが引っかかるとは言えない。実際自分の声はそんな聞いてていいものじゃない。確かに耳障りだ。

だからか、カナトは実際のアレストもそう思っているんじゃないか、もしくは今はよくてもあとあとになって嫌うようになるんじゃないか。そう考えると安易に声は出せなくなった。

ノートに慌てて何かを書き込む。

『声を直すためだよ!声が治ったら告白するつもりだし!』

「なるほどな。別にその声で言ってくれてもいいけど、いやなら無理にとは言わない」

カナトがうんうんとうなずく。

アレストは軽く笑うと廊下に溜まっている使用人たちに声をかけた。

「全員お疲れ様。もう持ち場に戻っていいよ」

使用人たちはお互い顔を見合うと頭を下げて廊下から消えた。

そこでカナトが少しおかしいことに気づいた。

なんで使用人たちをここに集めたんだ?

アレストを見ると、あちらはただ笑って去っていった使用人たちを見ている。

その青い瞳がほんの危険味をはらんで事務室をかすめ、カナトに向けられた。

「カナト、帰ろうか。つかれただろ」

別にそんなにつかれては……まあ、休むか!偽ユシルの件はなんだか一段落しそうだし!アレストの記憶が戻ったし、イグナスの記憶もユシルがなんとかするだろうしな!

『休む!』

「僕の部屋へ行こう」

アレストは自然な動きでカナトの肩に手を回した。粘着質な視線を注ぎながら愉快げにその口もとが歪められる。

記憶が戻っても戻らなくてもやることは変わらない。だが一つ気に食わないことをあげるとすれば……。

アレストはがカナトを襲った時のことを思い出した。

危うくに大事なものを奪われそうになった。………許さない。何があっても地獄に落とす。関わったやつらも、あの忌々しい存在もやはり残してはいけない。



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