転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

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アレストはカナトを部屋に送ると、用事を思い出したと言って1人で離れていった。

部屋に残されたカナトは離れ際にキスされたおでこを押さえながら真っ赤になる。

アレストの部屋久しぶりだなぁ。

何しろシドたちに捕まえられてからはずっと檻暮らしである。

ベッドに上がって思い切りアレストのにおいを堪能たんのうした。

いいにおいだなぁ……本当に戻ってきてくれてよかった。がんばったかいがあった。

だが、カナトはなんだかもやもやとしたものを感じた。まだわからないことが多い。

シドがなんでムカデと一緒にいるのか、なんでアレストとフェンデルたちの関係を知っているだけで拷問までされるのか、その他にもあるがカナトは思い出そうとするのをやめた。













事務室に戻ったアレストは、中はすでに誰もいないのを確認して椅子に座った。

ほどなくするとムソクが戻ってきた。

「アレスト様、ご報告に参りました」

「ああ」

ムソクは開いたドアから入ると、そのままガチャンと閉め、アレストのそばまで行く。

声を落としながら、

「ユシル殿はすでに別の空き部屋にて閉じ込めています」

「それでいい。あいつには何かあるらしいからな。私品のある自部屋に閉じ込めると脱出の手段を見つけるかもしれない。辺境伯は?」

「はい、どうやらハムスターを連れて宿泊部屋へ戻られたようです」

「なるほどな……辺境伯がユシルを放って部屋へ戻るのか。あのハムスター……」

「アレスト様、あのハムスターについて何か気になることがありますか?」

「ああ、憶測だが少し調べたいことがある。それと、ムカデたちの行動に何かあればすぐに報告しろ」

「はい」

ムソクは軽く頭を下げると出て行き、アレストは背もたれに体を預けて深い息を吐き出した。

「あっちの世界……ふふ」

アレストは低く笑い、酔っ払ったカナトが言っていたことを思い出した。自分が悪役とも、死ぬとも言い、小説通りとも言った。

ふとカナトが足から消えていく時のことを思い返す。

「不思議だなぁ。ああ、そうだ。あの薔薇好きと言っていたな。また準備するか。………カナト」

アレストは両手で顔を覆った。



「僕はもう全部きみのものだ」















夢の中でカナトは泣き叫んでいた。

繰り返される拷問と終わりのない痛みが襲い、いくらアレストにやめてほしいと言っても止まることはなかった。

やがてあまりの苦痛にハッと夢から覚める。

静かな部屋で荒い息がゆっくりと収まっていく。

カナトは起き上がって体をぺたぺた触った。何もない。

またあの悪夢か……意識体になってから見なくなったのに、本体に戻った途端これかよ。

額ににじんだ汗をぬぐってシャツのボタンを解いていった。

まだ包帯を巻かれた体に視線を落として固唾を飲む。ほんの少し震える手で包帯を解いていくと、傷は治ったが跡がくっきり残っている体はなかなか酷い。

カナトは目をそらしたくなった。

これ、例え好きな人だとしてもさすがに見ていられないな。

アレストがこの傷を見ていやな表情をするかと思うととても見せられない。

カナトがため息をついた時だった。ドアからガチャと鍵が開く音が響いてくる。カナトはその音に肩を跳ねらせて慌てて前をかき合わせた。

「カナト、何をやっているんだ?」

アレストが不思議そうに入ってきた。

「なぁ"………!」

カナトが慌てて口を閉じ、背中を向けながらシャツのボタンをかけていく。棚に置いたノートとペンを取ってササッと書いていく。

『なんでもない!!』

「……本当か?」

アレストは近づいていくとカナトを後ろから抱き寄せた。ベッドの上でそのつむじに軽くキスをする。

「恨んでいるか?」

恨んでいる?

「その体の傷も、怖い思いをさせたのも僕だ」

言いながらカナトの手を取り、その指先に軽くキスをする。

「知っているか?指の爪はもう生えてきた」

そうなのか?

カナトは気になってするすると手の包帯を解いていった。

すると言われた通り、特に変な形になることなく新しい爪が生えてきていた。

すげぇ!!

「きみが目を覚さないあいだずっと体の包帯を変えていた。酷く後悔したよ。きみをあんなゴミと一緒に出かけさせたことが間違いだった」

ゴ、ゴミ?

カナトはゴミという単語がアレストの口から出てくることに驚きを隠せなかった。まったく似合わないからである。

「記憶をなくしたとはいえ、どう考えても下心丸出しの相手を野放しにしたのも間違いだった」

「ア"レ……ぅ」

「そうやって声を我慢するのもユシルと関係あるのか?」

カナトがぶるぶると頭を振る。

「何か声に関して言われたんだな」

否定してんのになんでわかるんだよ!!

「カナトは顔に出やすいからな」

アレストは愉快そうに笑ってそのままカナトを抱きしめたままベッドに倒れた。

「本当に、危なかった」

「ぅ……?」

「危うくきみを永遠に失うところだった。危うくきみを他人に渡すところだった」

「たぁ"、に"ん?」

気づいてからまた慌てて口をふさぐ。

「ああ、他人だ」

アレストはカナトののどをなでながらゆっくりとした口調で続けた。

「キスされた。そのうえきみの初体験を奪われそうになった。きみが心まで奪われたら発狂しそうだ。そう考えるだけで誰かを………」

そこで言葉を切られるせいか、不穏な何かを感じ取ったカナトはぐるっと回ってアレストと面向かうようにした。

横向きでノートに書き込む。

『お前まさか記憶をなくした期間の自分に嫉妬したのか?』

「……その通りだ。きみを知らない僕なんて僕じゃない。他人だ」

『いやお前だよ!』

「本気で言っているんだ。きっときみをこんな目に合わせない」

アレストはカナトをきつく抱きしめてひたいにキスを落とす。

「何があっても、必ず対価を払わせる」

カナトが不安になりながら手を握りしめた。

対価って、まさかユシルのこと指してないよな?

「きみさえ望めば今ナイフで僕を刺してもいい」

するわけないだろ!

カナトが怒っているのを感じながらアレストは愉快げに笑い、その背中を軽くたたく。そして心の中で密かに思う。

必ず、必ず対価を払わせる。









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