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第四章
罪の代わり2
しおりを挟む1週間後アレストは帰って来た。だが隣に見知らない中年男がニヤニヤしながら立っている。
迎えに出たカナトが眉をひそめて訊いた。
「アレスト、おかえり!で、隣のは誰だ?」
アレストはカナトの頭をなでてから隣にいる男を紹介した。
「この人は騎士団団長のブラッド・ミリオライト。このたびは調査のためについてきた」
騎士団団長!!?あの汚い金に手を出したっていうあの!?
カナトが驚愕にあごが外れそうなほど口を開いた。
「ああ。とりあえず先に中へ入ろう」
「わ、わかった……」
うながされるままふらふらした足取りで屋敷内へ入った。
アレストはブラッドと話すことがあると事務室へ行き、部屋に残されたカナトはまだ我に返っていない状態でベッドに腰かけている。
どういうことだ?なんであの物語中2回しか名前が出なかったやつがアレストと一緒にいるんだ?調査ってなんのことだ?……わからない。なんでアレストの周りにこんなやつらばかり集まるのかまったくわからない。
「お前がまさか使用人をわざわざ部屋に送るとはなぁ」
ブラッドはあごをなでながらニヤニヤとした。
「カナトは特別だ」
「あんな純真そうなやつが?」
「純真か……確かにそうかもしれない。考え方が真っ直ぐで、誰にでも優しく助けの手を差し伸べようとする」
「優しく?俺のことにらんでいたがな」
「きみが怪しいと直感で当てたのだろうな」
「ハハ!間違いねぇ!でも俺から見ればあのカナトってやつ、愚直でお人よしなだけだ。たぶん悪い人に利用されてその後はポイだぜ?」
意味ありげな視線を受けてアレストが片眉をひょいと上げる。
「例えば?」
「お前に、とか」
「ふっ、……ふふ。そうか。そう見えるのか」
ブラッドに近づいてその肩にポンと手を乗せる。
「さっきも言ったが、カナトは特別だ。閉じ込めても手放したりしない。きみも余計なことはするな。じゃないと何かの手違いで裏金問題が表に出るかもしれない」
「……いったいどこからそんなこと聞いたのか」
「さあ?それじゃあ、これからのことよろしく頼むよ」
「任せろ。お前があのカナトってやつに憎まれないといいな」
「むしろカナトが人を憎むほどの感情があるかどうかのほうが気になるかな。真っ直ぐな人だから、嫌いも好きもはっきりと態度に出る。憎む前に離れていきそうだ」
「お先真っ暗じゃねぇか」
アレストはただ軽く笑うだけにとどめた。
アレストが帰って来たその晩、カナトはいつものように抱きかかえられながら眠りにつこうとした。
「なあ、一つ訊いていいか?」
「いいよ」
明かりの消えた室内で、まるで安全な場所を探すようにカナトは体をくっつかせた。顔を相手の胸に埋めて言う。
「その……なんであいつと一緒にいるんだ?」
「ブラッドのことか?」
「そう」
「調査のためだよ」
「なんの?」
「明日になればわかる」
教えてもらえないとわかり、カナトも渋々訊くのをあきらめた。
「そっか……わかった」
「それより、シドから聞いたよ」
「……?」
「僕がいないあいだ、接客がんばってくれたんだって?」
「え?ああ、うん!がんばった!」
「ありがとう」
アレストがよしよしと頭をなでるとカナトが照れたように笑った。
「俺、少しは役に立ったか?」
「もちろん。すごく役に立った。おかげで仕事もはかどったよ」
「まあ、ほとんどシドがやってくれたけどな……」
「いや、カナトが顔を出さなければあれほどたやすくできなかった。きみは僕の専属使用人だから、あの場にいることで僕の代わりということになる。この屋敷できみにしかできないことだ」
「本当か……?」
「本当。僕のためにがんばってくれてありがとう」
「うん……」
さらにぎゅっと抱きしめられて、カナトは恥ずかしながらも幸せで胸がいっぱいになった。
だけど、こんな幸せになる一方でアレストは魔女狩りを計画している。それを知っていても止める方法がわからない。アグラウのこともきっと近いうちにバレてしまう。
嫌われたくないなぁ。
カナトは少し悲しげに眉を寄せた。そしてアレストの体温を感じながらゆっくりと眠りに落ちていく。
翌朝、朝食を一緒にとっている時だった。外にひかえていたメイドがドアをノックし、アレストの許可を得て中に入って来た。
どこか慌てた様子にカナトが不思議そうにする。
「お食事中に申し訳ありません!たった今、旦那様が失踪されたと情報が!」
カランーー
カナトが持っていたフォークがお皿の上に落ちてしまった。
ついにバレたか!!
カナトは口の中に入っているものを咀嚼するのも忘れて固まった。
「カナト?平気か?」
「え!?ああ!平気平気!」
「ならよかった。そのこと詳しく聞いてもいいか?」
メイドがはいとうなずいた。
「朝、旦那様におあいさつしたいとミリオライト様が無理に部屋へ入り、そこで旦那様がいないことに気づきました」
ミリオライト?あの騎士団長!?あいつのせいかよ!
「なるほど……世話役のクローリーさんはなんと?」
「それが、直接お会いして話し合いたいと……」
「僕に?」
「……はい」
アレストは少し考える素振りをすると立ち上がり、手もとに残っている焼き菓子の皿をカナトのほうに置いた。
「カナト、ゆっくりと食べていいから、先に席を外すよ」
「え、いや、まっーー」
だがアレストは止まることなく部屋を出て行ってしまった。
二つに増えた焼き菓子とアレストが去った方向を見比べたあと、カナトもガタッと立ち上がった。
残りの朝食を急いでかき込み、牛乳で流し込むと焼き菓子を持って食事の部屋を飛び出した。
外で控えていたもう1人のメイドに叫びながら、
「もう食器下げていいからな!」
「わ、わかりました!」
人に居場所を聞き、カナトがアグラウの部屋に到着する頃、すでに外には男性の使用人2人が立ち塞がっていた。
「入ったらダメなのか?」
訊かれると使用人2人は顔を見合わせた。
うち1人は前回キトウを閉じ込めた部屋前で看守役をしていた暗殺者である。その人が口を開いた。
「ダメですよ。アレスト様が誰も入らせないようにとのご命令なので」
「俺でもダメなのか!」
「ええ、誰も入らせてはなりません」
「なんでだよ!」
外が騒がしいと気づいたのか、ドアが開いて誰かが出てきた。
「アレーーお前か……」
「おう?アレストのお気に入りがなんの用だ?」
出て来たのがアレストではないと見てカナトがあきらかに失望した。
「なんでもねぇよ。アレスト中にいるんだろ?呼んでくれないか?」
ブラッドはあごをなでながらニヤニヤと口の端をつり上げた。
「主人に可愛がられているからってあんまり調子に乗らない方がいいんじゃないか?そのうちあきられて捨てーーごあっ!!」
カナトが怒り顔でブラッドのあごに頭突きをした。
「黙れっ!この卑猥顔め!」
ブラッドがよろめいているすきにカナトがするりと部屋に入った。
すると、見たのが地面にひざまづいているクローリー親子とそれをただ見下ろしているアレストだった。
リアムは侵入してきたカナトを見て驚いた顔をしたが、すぐにまたうつむき、肩を震わせた。
「ああ、カナト。やっぱり来たのか。絶対来ると思ったよ」
「今何がどうなっているんだ?」
「見ての通り、伯爵が失踪したのを報告せず、主人をだまし続けた罰を与えているところだ」
答えたのはあごをさすりながら戻ってきたブラッドである。
「なんで!」
「当たり前だろ?こんな重大なことを黙っているほうが悪い」
カナトが言葉につまっていると突然体に重みがのしかかった。
リアムが泣きながらカナトの腰にしがみついている。
「お願い!母さんを助けて!今まで意地悪してごめんなさい!なんでもするから母さんを助けて!」
それを見てクローリーが慌てた。
「リアム!戻りなさい!」
カナトの頭がやっと状況を整理し始めた。
つまりアグラウを失踪させてしまったせいでその責任をクローリーが取らなければいけなくなった。
考えれば当然の結果にカナトが焦り始めた。
まさか調査ってこのことか?いや、でもアレストたちが帰って来るのはアグラウの失踪がバレる前ではないのか?一緒に来る偉い人ってブラッドで間違いないだろうけど、それだって失踪が知られる前のはずだ。じゃあ関係ない?
「なあ、なんで何も言わないんだよ!」
「え……あ、とりあえず起きろ!」
我に返ったカナトはリアムを起こして、アレストのそばへ行った。
「ちょっと来い」
返事を待たずにアレストの腕をつかむと部屋の外に出た。誰もいない部屋を見つけてアレストを引き入れた。
「どうしたんだ?」
カナトはパッと向かい合い目をつり上げた。
「お前、アグラウのことは俺の仕業だって知ってるだろ!」
「へぇ、カナトがやったのか」
「知らんふりするな!クローリー親子は関係ないってわかっているんじゃないか?」
「でも失踪してから報告が上がっていないのは事実。罰してしかるべきだ」
「じゃあ俺は!?このことの主犯だぞ!」
「だからこそだ」
「何がだ?」
アレストは一歩つめ寄り、カナト前髪をそっとはらった。
「クローリー親子に責任を取らせてきみの罰をなくす」
「本気なのか……」
「本気だ。きみが選んだことだよ」
「……っ」
「でも今すぐ父様の居場所を教えてくれるなら罰をなくしてもいい」
「それはっ、でも……」
言えない。言ってしまえばアレストは何をするのかわからない。だからと言ってこのままクローリー親子に責任を取らせるわけにはいかない。
「俺が罰を受ける!」
「ダメだ。ちょうど使い捨てのコマがあるのに、どうして使わない?」
「アレスト!!あの2人は曲がりなりにもお前が拾って1年も一緒にいただろ!」
「そうだな。でも使えるなら使う。それだけだよ。もうすでに使用人のあいだでも失踪のことが広まっている。隠すのは無理だ」
その時、思い切りドアが開けられた。
「リアム!」
ドアの向こうに立っていたのはリアムだった。悲しみとも怒りとも取れる泣き顔でアレストをにらんでいる。
「アレスト様っ、どうして!ぼくと母さんにずっと優しくしてくれたじゃないですか!なのにどうして罪の肩代わりをさせるんですか!」
会話を聞かれたというのに、アレストの表情は変わらず笑みをたたえていた。
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