転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

睡眠薬

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夜、カナトはいそいそと準備した。

どうにかアレストに睡眠薬を飲ませたい。というのも、渡された四つ折りの紙に万が一抜け出せない状況にあるなら、一緒にはさんだ睡眠薬を使うといいと書いてある。

正直カナトの感覚では、アレストを眠らせないと確実に抜け出せない気がした。

約束の場所はあの水路が流れつく洞窟である。カナトがアグラウを渡したところだった。

約束の日は1週間。そのあいだに行くならばカナトを暫定的に仲間と認めると書いている。

だがクローリー親子をあんな目に遭わせてた直後、カナトは本当にこの決断がよかったのかどうか迷い始めた。

また誰かを巻き込まないか心配する傍ら、このまま1人で突っ走ってもきっと失敗してしまう。

くよくよ悩んでいるとアレストが部屋に入って来た。

カナトはパッと体にかけた布団の前をかき合わせた。

「ア、アレスト~」

「どうしたんだ?」

アレストがベッドに座ると手を伸ばした。カナトを腕の中に抱き寄せ、するりと布団の中に手を滑らせる。

「ほぁ"!?」

「……服着てないのか。だから布団を被っていたのか?」

「そ、そうだけど……」

ベッドに誘い込んで、油断したところで口移しに薬を飲ませるつもりだった。

カナトは布団を開いてひたっとくっついた。

火を吹き出しそうなくらい真っ赤な顔で言う。

「こ、ここ今夜しない……?」

「………」

「いや、なんとか言えよ!恥ずかしいだろ!」

「カナトから誘いにくるなんて珍しいな」

「そうか……?」

「うん。ずっと僕から誘っていたから」

「たまにはいいだろ?……もしかして積極的なのは嫌いか?」

「そんなことない。きみから誘ってもらえるなんてうれしいな」

言いながらアレストは潜り込ませた手をさらに上へと這い上がらせた。

緊張しているらしいカナトは全身を硬直させた。

恥ずかしすぎて穴に入りたい!









激しい行為のあと、なんとか後処理まで終えたアレストがゆったりした様子で帰ってきた。まだ目を覚ましているカナトを見て不思議そうにする。

「先に寝ていていいのに」

「待ち、たい………」

疲れでやけに声に力が入らない。手加減してくれたおかげなのか腰の痛みはだいぶマシである。

しかし気になることが一つある。

「なあ、なんで跡つけないんだ?」

「ん?跡?」

「ほら、あるだろ……キ、キスの跡とか」

思い返せば、アレストに跡をつけられた覚えはほとんどない。もともと体に跡をつけるほどの空きスペースがないからかもしれないが、それにしても不思議である。

小説の中での攻め役といえば独占欲の塊でパートナーの体に跡つけまくりの強欲モンスターなのに、アレストにその傾向はないようである。いや、独占欲や嫉妬ならあるにはある。しかし、跡をつけられないことにカナトは少し釈然としない思いがあった。

布団を顔まで被ってごにょごにょと言う。

「もしかして、こんな傷だらけの体じゃそんな気も起きないか?」

そう言うとすぐ隣でベッドがへこむ感触がした。

「なぜそう思うんだ?何度でも言うが、僕が愛しているのはきみという存在だ。体も顔も性格も関係ない。この先どれほど変わろうとも、中身がきみのままであれば僕は変わらずに愛している」

「体も顔も性格も気にしないならほぼ好きなる要素なくないか!?お前いったい俺のどこを好きになったんだよ!?うわ!今改めてその疑問湧いてきた!」

布団から顔を出したカナトは頭を抱えてしまった。

普通に考えて自分を好きになってもらう要素がない気がした。体も顔も性格もドンピシャじゃないならじゃあ何がアレストを惹きつけたんだ?そんな疑問が湧く。

「中身だよ」

「中身?それって性格のことか?正気か?」

「正気だよ。それと、性格じゃない。きみがきみのままで、ずっとそばにいてくれたから。だから僕はこうしてここにいられる。きみがいなかったらたぶん何か取り返しのつかないことをしていたかもしれない」

「やっぱりよくわからないな……」

そんな話を聞いて、カナトは少しずつと睡眠薬を飲ませることに抵抗感を持ち始めた。だがそうとは知らず、アレストは布団の中に入って来た。

カナトの体を抱き寄せて言う。

「今日は少し様子がおかしい。もしかしてあのメイドのことで驚かせてしまったのか?」

「それもあるけど……アレスト」

「ん?」

「今からキスしてもいいか?」

「いいよ」

「ちょっと待ってろ」

カナトはぐるっと回って背中を向け、枕の下に隠した薬を口に含ませた。そしてアレストの体に登って少しずつと口を近づかせる。

前にされたように、舌で薬を押し込もうとしたが、途中から薬を見失ってしまった。

しまった!!

必死に舌であちこち探し回るが、見当たらず、そうするうちにアレストはごくっと何かを飲み込むような動作をした。

カナトが恐るおそると口を離すと、機嫌をうかがうように上目遣いになる。

「今、何か飲ませたのか?」

「エッ………いや、そんなことはないけど」

「そっか。それじゃあ、おやすみカナト」

「おう!おやすみ!」

しばらくして、カナトは隣から規則正しい寝息が聞こえてくると身を起こした。

「寝た?寝たよな?……ごめんな。でもこうするしかないんだよ」

カナトは急いで起き上がるとドアに向かった。開ける前に一度振り返り、心配げな顔で見つめる。

「う、裏切るわけじゃないからな。本当だ」

そう言い残してドアを開け、外に出ーー

「カナトさん?」

すぐ横からムソクの声がした。振り向くと本当にムソクが立っている。

「ナニッ!!?」

なぜお前がここにいる!?

まるでカナトの心を読んだかのようにムソクが口を開いた。

「シドと交代で見守っています」

「そ、そうなのか?」

初めて知ったぞ!!どうする!?

とりあえず異変に気づかれないよう、いったんドアを閉めた。

カナトが気まずく笑うと一歩ずつ後ずさる。

「俺、ちょっとだけ散歩してくる」

「お付き合いいたします」

「いらねぇ!あ、いやその……1人でしたい」

「そうですか。わかりました。お気をつけてください」

お?意外と簡単にいけた?

「じゃ、じゃあ行ってくる!」

カナトは何度も振り返って確かについて来ていないのを確認してから屋敷を走り出た。

水路にそって歩き、事後ということもあってヘロヘロになりながらもうじきつこうとしたその時、突然何かが暗闇の森から伸びてカナトをさらっていった。

カナトの後ろを追尾していた人物はハッとしてカナトが消えた方向を追った。















カナトが目を覚ました時、そこは見知らぬ場所だった。

首の後ろが痛く、押さえると直前に何があったのか少し思い出した。

誰かに気絶させられたのだ。

誰に襲われたのかわからないカナトは、ただ約束の場所まで行けないことに焦りを感じた。

寝かせられていたベッドから降りてみるとあたりはまだ真っ暗で、窓の外もまだ夜だった。

「どこだここ?」

「首都の郊外にあるイグナス様の邸宅ですよ」

「うおあ!?」

突然暗闇の中から話しかけてくる声に、カナトは心臓を押さえて窓にしがみついた。

「だっ、誰だ!」

「私ですよ。つい先日も会いましたよね」

暗闇の中から出て来たのはクモだった。すでに顔の怪我も治ったのか、前回当てていた布もなくなっている。

「お前幽霊か何かか!?」

「申し訳ありません。慣れたもので」

「別にいいけど……というか、俺を連れて来たのはお前なのか?」

「はい。少々手荒な真似をしてしまいましたが、気にしてませんよね?」

「してるわ!なんだよ!気絶する意味あるのか!?」

「特にありませんが、その方が運びやすかったので。それに、カナトさんは後をつけられていました。人形を抱いた偽物が目を引きつけてもらっているので、カナトさんに気絶してもらうしかありませんでした」

「そ、そうか?」

じゃあ特に意味ありませんじゃなくないか?

「とにかく、ユシル様をお連れしますので、少々お待ちください」

「え?」

カナトが反応するより先にクモは出ていった。

そして程なくしてハムスター姿のユシルを手に乗せたクモが帰ってきた。

「ユシル!!」

「カナト!久しぶりだね!」

「久しぶり!!」

カナトが感動のあまり顔をこすりつけようとしたが、クモにぐっと顔を押し返された。

「カナト、まずは私の話を聞いて!今カナトにして欲しいことがあるの!」

「なんだ?アレストと関係あるのか?」

「う、うん……」

なんだかぎこちないユシルに首を傾げてしまう。

「平気か?」

「大丈夫!それで、その……手伝って欲しいことなんだけど……」

やはりどこかぎこちない。それを見かねてクモが代わりに口を開いた。

「ユシル様は少し体調が悪いので、私からご説明いたします。まず、今魔女狩りが始まることは知っていますね」

「あ、ああ……」

「アレスト様を止めたいという思いは本物ですか?」

「本物だ!」

「では今からユシル様があなたに魔法をかけます。あなたはこれから起こる可能性のある未来を視ることができます。その可能性の中で一番理想的な未来を見つけ、そのために現実で行動してもらいます。ただ、その未来たちはあなたが実際に経験するので、苦しい思いをするかもしれません」

「ど、どういうことだ?」

「一言でまとめると、未来を視てきて現状を変えてください。できますね?」

「お、おう……」

「カナト、あのね……」

何か言いたげなユシルにクモがちらっと視線を向ける。優しい手つきでそっとその口を押さえた。

「ユシル様、そろそろしないと。これは人々のためです」

それでも納得していないようにユシルはうつむいていた。そして悲しげな顔でカナトを見る。

「カナト、私はあなたの敵になるつもりはないの」

「俺もないぞ!」

「でも、これからすることはカナトが苦しむかもしれない」

「大丈夫だ!アレストを止めないといけないのだろ?それにもうアレストのせいで魔女狩り……いや、なんでもない。計られたこともあるし、少しくらいなら大丈夫だ!」

「そう……」

その後、カナトは言われた通りベッドで横になり、かけられた魔法でゆっくりと意識を手放した。

心配げにするユシルはなかなか離れようとしなかった。そこへ誰かが部屋に入ってくる。

「イグナス!起きてて大丈夫!?」

「大丈夫だ、ユシル」

イグナスは血色の悪い顔色をし、目の下もクマができている。毒のせいで体調がずっとすぐれないままである。

「もう魔法をかけたのか」

「うん……」

「ユシル、これはお前のせいじゃない。俺が計画したことだ」

「あなたにだけ責任を背負わせない。ただ、カナトのことは……」

「アレストを止めたいなら、こうするしかない」

「………」

イグナスはベッドで横たわるカナトを見てすぅと目を細めた。







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