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第五章
様々な結末
しおりを挟むカナトは周りを見渡した。
真っ暗な空間に浮かんでいるだけで何もない。
「なんだこれ」
腕を組んで考える。まさか未来は真っ暗闇で、未来などないという意味か?
嘘だろ!?
本当にそうだったらどうしようと頭を抱えそうになると、背中にぽつんと何か当たったような気がした。
見ると、小さな球体が少しずつと大きくなっている。黒い球体は拳よりも一回り大きくなり、真ん中にふわふわと白い模様が出来始める。それが風景だということに気づいた。
風景はじわじわと赤く染まり、その中で小さな人影が見えた。
ここは……ん?
視線の端でぷかぷかする影があるかと思えば、いつの間にか空間のいたるところに黒い球体が現れ始めた。
「なんなんだこれ……」
そう思っている時だった。目の前にあった球体がぶるぶる震え始めると、強い引力を感じた。
「え?いや、ちょーー!あああああ!!」
抵抗する間もなく球体に吸い込まれてしまった。
「うっ、ぁ……」
目を開けるとあたり一面が火の海になっていた。
胸に痛みを感じて触ると、ぬめっとした感触に驚き、見れば胸は血に染まりきっていた。
「ぁ、んだ………!」
うまく声も発せず、酷い痛みに涙が浮かんでくる。
なんでこんなことになったんだ!!痛い!めちゃくちゃ痛い!なんでだ!?
混乱した頭で理解しようとするが、理解できるような状況ではなかった。痛みに苦しんでいると肩に誰かの手が置かれた。
「ああ、カナト。こんなところまで逃げていたのか」
振り向くとアレストがそこに立っていた。だが、視線を少し下にさげると血のついた剣が見える。
「カナトは逃げ足が早いから、追いつくのが大変だった」
「え………?ぁ、れすと………?」
「大丈夫、すぐに終わるよ」
そう言って剣を掲げた。
「まっ、て!なんで、こんな…こと!」
「なんでこんなこと?それはカナトが逃げようとするからだろ?自分のいた世界に帰ろうとするから、僕から離れようとするから……だからそうするしかなかった。きみが永遠にそばにいてくれる。大丈夫。体は大事にするよ。……それじゃあ、おやすみ」
胸に鋭い痛みが走り、その後、痛みが急激に消えていき、目の前が暗くなり始める。
「ぁ、あ……!」
「いい夢見れるといいね」
今まで以上に優しい声音でアレストはつぶやいた。
「愛している」
カナトは抱きかかえられる中、必死に腕を動かした。アレストの顔に触れようとするが、力及ばずに腕がだらりと落ちてしまう。涙を流しながらなんとか言葉だけで伝えようとする
「ぉ、れも……」
俺も愛している。
伝わったのかどうか、最期に見たアレストの目がほんの驚きに見開かれた。
球体から引っ張り出されるように出てきたカナトは「ぶはっ!」と声を出した。
息苦しさも痛みもない。なんなら泣いてもいない。
ぱたぱたと体をたたくと、現実味が少しずつと戻ってきた。
「生きている……」
目の前の球体がやがてすべて火に包まれたように真っ赤になった。
「………これが、未来!?俺殺されているじゃねぇか!というか元いた世界に帰るってなんだ!?俺帰りたいのか!?」
急ぎながら他の球体たちも見ていく。どうやらすべての球体に何かしらの未来がある。
「こっちは死んでる、あっちのも死んでる……あこっち……いや、投獄されてるし。何一つマシな結末ないんだがッ!!!??」
また吸い込まれるんじゃないかと、カナトは近づくのを怖がった。あんな痛い思いは二度も味わいたくない。
何よりアレストに殺されたことがかなりこたえている。今でもあの胸を貫かれた感覚が消えない。
なんとか自分が生きている未来だけを見ていくと、その途中でアレストが泣いている場面を見つけた。
「アレスト?」
見てみると何かを抱きかかえながら必死に地面に散らばるものをかき集めるように拾っている。
何を拾っているんだ?
近づいて見ると、気づいた時にはもう遅く、カナトはその球体に吸い込まれてしまった。
「クソがぁあああ!!」
吸い込まれてから気がつくと、抱き込まれていることに気づいた。
おかしなことに自分の意思で体を動かせなかった。声も出せない。
しかしアレストの声だけは聞こえてくる。
「カナト……カナト……」
こんな泣き声を聞いたのは初めてである。そもそもアレストが泣く場面なんてほとんどない。その声に胸が締め付けられるような感覚になる。
なあ、なんで泣いてるんだ?
しかし声が出せないのでいくら呼びかけても返事は返ってこない。
「カナト……カナト……」
まるで壊れた機械のようにカナトの名前しか繰り返さない。
「お前が招いたことだ」
その低く冷たい声はイグナスのものだった。
イグナスの声?イグナスもいるのか!
「カナト……カナト……」
「こいつの死もお前のせいだ」
「………許せない」
アレストが初めてカナトの名前以外の言葉を口に出した。
「僕以外の人がカナトを殺してしまうなんて……許せない……お前も、ユシルも、キトウもあの動かされるだけの駒どもも!絶対に許さない!!」
「……お前は、本当にどこまでも救いようがないな」
イグナスがどこか苦々しく吐き出した。
カナトは抱き込んでくる力が弱まったのを感じた。アレストの腕から落ちてゴロゴロと地面を転がった。同時にドサドサと何か落ちる音も聞こえてくる。
いっ!後頭部打った!って、あれ?
目にあり得ないものが映った。それは人間の腕である。
なんなんだあれ!!
だがよく見るとどこか妙な見慣れ感がある。
「救い?僕の救いはもうなくなってしまった」
アレストはそう言って地面に転がったカナトを拾い上げた。
「ああ、痛かっただろ。落としてすまない。必ず全部拾い集めて、縫い合わせるから」
縫い合わせる?どういうことだ?
カナトのなかでとてつもなくいやな予感がしてくる。さっき見た腕が頭に浮かんで、直前に見た何かを拾い集める場面が一緒にフラッシュバックする。
あれって、まさか……。
カナトは自分が転がった時のおかしな感覚をまだ覚えている。まるで……、
狂気的な表情でアレストはカナトと目を合わせた。
「必ず、復讐するから……」
アレストはゆっくりとカナトに口づけをした。
地面にアレストの1人のみの影が映り、何かを掲げながら頭部を重ね合わせていた。
「俺がそんなことを許すと思うか」
そんな声にアレストが口を離して視線を上げた。何を考えているのかわからない目でじっと近づいてくるイグナスを見つめている。
青い瞳に冷酷な光を放つ剣が映っていた。それに呼吸が荒くなりそうになる。
アレスト逃げろ!!殺されるぞ!!
だが思いは届かず、目の前で冷たい光が一閃した。
カナトを抱きしめたまま、あふれる血も止めようとせずにアレストは笑った。
歪んだ笑みにますますいやな感覚になる。
「呪ってあげよう……お前たちには、同じ苦しみを……味わせて、死んでいって欲しい」
カナトを抱きしめたままアレストはその場に崩れ落ちた。
アレスト!!アレストーー
またも球体から弾き出されたカナトは震える体を抱きしめた。
「やっぱり殺されるんだ……アレスト、どうしよう……そうだ。何か、他の未来が……きっと幸せになれるような未来があるはずだ」
カナトはすがるような気持ちで球体を一つひとつ見ていった。
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