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第五章
バッドエンドの未来2
しおりを挟む脚のことは事故かもしれない、と思うようにしているが、もしかしたらアレストに関係が……そう考えてしまうたびに頭を振る。
さすがのアレストでもそんなことはしな……しそうな人ではあるかもしれないけれど!!でもしないはず!!
ずっと脚のことを教えてもらえないせいかいろんな可能性を考えるようになっていた。
「気になる~!なんでか今回の体験は長いし……現実と区別つかなくなりそうだな」
椅子に背中を預けていたカナトはあまりのつまらなさに貧乏ゆすりを始めた。そうしているうちにバランスを崩してゴンッと後ろに倒れた。
「あ"ーー!!」
思い切りぶつけた頭を抱えて地面をゴロゴロ転がる。
「カナト!?」
悲鳴を聞きつけてシドがバンッとドアを開けた。
「どうした?」
頭を押さえてうめいているカナトを抱き起こし、素早く全身の具合をみる。
「頭をぶつけたのか?」
「いって……クソ」
「何をやっていたんだ」
「暇だから体ゆすって遊んでいたんだよ」
「落ちるかもしれないという発想はなかったのか?」
「落ちないと思ったんだよ!」
「とりあえず頭見せてみろ」
カナトが手をどけると軽く触れられる感触がした。シドが慎重にぶつけた位置を確かめている。
「……少したんこぶができているな」
そんなシドにカナトは訝しげに目を細めた。
「お前ってさあ、急に優しくなったな」
「何?」
「脚がないから気をつかっているのか?大丈夫だ!気にしてない!」
何より帰ったら両脚戻ってくるし!
「なんで脚がないことに対して楽観的な態度が取れるのかわからないが、無理してないか?」
「いや、してないけど……」
「そうか。それならいい。お前は昔からそそっかしいからな。次からは気をつけろ」
昔からというのは具体的にどれほど昔を指しているのかわからない。しかし、その口調や表情を見るとまるで懐かしむようなイメージを受ける。
カナトは、かなり前にシドが自分と知り合っていることを思い出した。
「なあ、記憶戻ったのか?」
「今さらか?」
「今さら?」
「すでにみんなの記憶が戻っている。記憶が合わないことに苦しんでいる者もいるけどな」
「そっかー……ん?てことはキトウ…じゃなくて、ユシルが戻したのか?」
カナトを椅子に戻してからシドが眉をひそめた。
「本当に何も覚えていないのか?」
「覚えてないんだよ……記憶なくなった」
「よく記憶をなくすな」
「俺だって、別に……」
ちょっとすねて口を突き出しながら相手の視線から顔をそらす。シドは軽いため息を吐き出した。そしてどこか悩ましげに手をひたいにそえる。
「まず、キトウの存在はもう知っている。そして全員の記憶を戻したのもキトウだ」
「全員の記憶戻れたのか!?じゃあユシルは?」
「………」
「何かあったのか?」
「知りたいならアレストに聞け」
「……じゃあアレスト呼んでくれ!」
「今は屋敷にいない」
「じゃあどこにいるんだ?」
「城」
「城?なんで?」
「今のアレストはこの国の宰相をしているからな。かなり忙しい。屋敷を離れることも多い」
「そんなに忙しいのか……」
「あとお前も気づいているだろうが、屋敷も首都へ移っている。首都にある邸宅とは別の場所だから、周りの景色はお前が慣れないじゃないかと、ヴォルテローノ領の庭と似た造りにしている」
き、気づいてなかった!
というか宰相?聞いたことあるけど何するのかよくわからないな。というかユシルもそうだけどイグナスは?ちゃんと無事なのかどうか気になる!キトウが記憶戻したってことは処刑されたわけじゃないんだな?魔女狩りも止まったりしてないか?
聞きたいことが多すぎてまとめられず、カナトがショート寸前になりかけた。
「い、今どうしてもアレストには会えないか?」
「お前が会いたいと言えばすぐに来てくれると思うが」
「あ、でも忙しいんだよな……」
「……とりあえずアレストに伝言してみる」
「ありがとう……でも忙しいなら来なくていいって言ってくれ!」
「わかった」
帰ってくるのを待つあいだ、やることがないためそのままうとうとし始め、知らずに寝てしまった。
だが次に目を覚ました時、知っているにおいにハッと目を開ける。
「起きたのか?カナト」
「アレスト!?」
窓の外を見るとだいぶ太陽が傾いている。
「ごめん、呼んでおいて寝てしまった」
「いいよ。こうやってカナトを抱きしめて寝顔を見るのも久しぶりだから」
そう言われるとなんだか気恥ずかしくなってくる。
「というか、仕事大丈夫か?宰相になったんだっけ?」
「そう。よく知っているな」
「シドに教えてもらったんだよ。忙しいって聞いたんだけど、本当に大丈夫なんだよな?」
「もちろん。きみのことと比べたら大したことじゃない」
「宰相ってどんな仕事なんだ?」
「そうだなぁ。簡単に言うと国王と一緒に政治をする役職かな」
「国王と、一緒に?」
「うん」
「本当に忙しくないんだな?」
「全然忙しくない」
嘘つけ!
「あのさ、本当に来なくてもよかったんだぞ?呼んといてこんなことを言うのもあれかもしれないけど、別に仕事のじゃまをしたいわけじゃ……」
「わかっている」
なぐさめるようにアレストはカナトの頭をなでた。
「でもきみから会いたいなんて言われるの、いつぶりだろう。本当にうれしかったんだ。それに、僕がいなくてもあと国王がいるじゃないか。少しくらい抜け出しても大丈夫」
正直カナトにはその言葉の真偽はわからないが、かと言ってせっかく来てくれた相手をまた追い返すわけにはいかない。
「僕に何か聞きたいことがあるって話だけど、どんなことなんだ?」
「その……みんなの記憶をキトウが戻してくれた話だろ?それで、ユ……魔女狩りとかどうなったかなーって思って」
「ああ、なるほど。それも忘れてしまったのか」
「うんうん!」
「それなら大丈夫」
大丈夫と言われてカナトがほんの期待に目を輝かせた。
まさか、魔女狩りは行われなかった?未然に防いだ?
だが、その期待を裏切るようにアレストは笑った。嗜虐的に歪めた目で言う。
「数100人ほどの魔女が処刑された」
「…………………は?す、すうひゃく?」
一瞬言葉を忘れたかのようにその言葉を繰り返した。
「そうだよ。キトウはユシルに利用されたと証言し、魔女は存在してはいけないと、人間に味方して自ら魔女の居場所を占ってきた。そして魔女が増えた元凶としてユシルは今地下へ幽閉されている」
まるで物語をかたるような口調である。
「まっ、待って……なんで、そんなことに……」
「きみはユシルを助けるために無理やり城の地下へ侵入し、罠にかかってしまった。しかも発見が遅れたことで両脚を失うことになった。イグナスのことも気になるか?」
「あ、え?イグナス?」
「イグナスは僕が殺した」
カナトは思わず目を見開いた。
「殺した?」
「ああ。本来なら僕がイグナスに殺されるのだろう?だからカナトと離れられないように首を刺してやったんだ。これでずっと一緒にいられる」
「ま、待って………頭が、追いつかない………イグナスが殺されて、ユシルは幽閉されて……なんでそんなことになったんだよ……」
全身から冷や汗が吹き出す感覚にカナトは腕を抱いた。
マシだと思っていた未来が実は真逆なことに、むしろ自分が殺されていたほうがマシとさえ思えてくる。もちろん死にたくはないが。
「カナト、大丈夫?震えている」
「………こ、殺さないと、いけなかったのか?」
「もちろん。あの2人が目の前から消えて清々した。きみの前にも現れないし、命を脅かす存在もいなくなる。今この国で僕に意見する人さえ限られてくる。きみが欲しいものもしたいことも全部できるんだ。うれしくないのか?」
「本気でそう思っているのかよ!」
「思っている。後悔でさえ一度もしたことがない。だからこそ、きみの心が離れていった」
「……お前は俺に嫌われてもいいのか?」
「よくないさ。でも、きみは今僕のそば以外どこにもいけないのだろう?きみのことを愛しているんだ。怖がられるより憎まれたほうがいいと言ったことは忘れたのか?」
「でも俺はこんなの望んでいない!俺が欲しかったのはお前と幸せに暮らしたい未来で、こんな犠牲出してまでお前に復讐させたいわけじゃない!」
結局この未来も失敗である。もはやいい結末など迎えられない絶望感に打ちひしがれそうになる。
カナトは目の前が少し歪み始めたのを感じた。帰る予兆だということに気づいた。
だが今回はいつもと違って目の前が一瞬で真っ暗になった。
目を覚ますと、そこは球体のある奇妙な空間ではなく、クモに連れてこられたあの部屋だった。
戻って…来たのか?
半身を起き上がらせて周りを見る。確かにあの空間から帰って来ている。
「どうしよう……何一ついい未来見つけられなかった」
「カナト?起きたの?」
声がした方向を見ると、ユシルが窓からテーブルに飛び移るところだった。
「大丈夫?いい未来はなかったの?」
その優しい声と心配げな目にカナトの涙腺が一気にゆるんだ。
「ユシルぅ………」
「っ!な、泣かないで!」
ユシルはカナトの体に飛び移り、肩によじ登るとそっと涙をふいた。
「どうしよう……俺が死ぬかアレストが死ぬかのレース勝負だし、脚はなくなるし、犠牲者は出るし、いい未来一つもなかった!全部バッドエンドの未来だった!」
「そうだったんだ……」
ユシルはうつむき、お腹の毛をギュッとつかんだ。言おうか言わまいかと迷っているように眉間に力が入る。
「ユシル?」
「あのね、今………実はカナトが寝てからもう2週間も経っているんだよ」
一変して、ユシルは明るく言った。
「2週間!!」
「そう。お腹空かない?一応回復魔法でなんとか餓えはしのげられるけど、実際に食べ物を口にしたほうがいい」
「じゃあ肉!」
「それはダメ。お腹弱いんでしょう?何か食べやすいものを頼んでおくから、カナトは絶対にこの部屋から出ないようにしてね」
「……?わかった」
「じゃあ、待ってて、すぐに戻ってくる!」
そう言ってユシルはドアに登り、小さな窓から外に出た。
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