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第五章
出口
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一行が無言で進むなか、キトウが一番気まずく感じた。
自分の後ろで歩く2人のうちの1人は自分を拷問したやつであり、もう1人ははめてきたやつてある。
正直この迷子急増事態を作った張本人として生きた心地がしなかった。
キトウは人目を避けるべく、フレジアドの計らいでこの地下を使わせてもらっている。だがまだ住み込んでそんなに経つわけではないため、普段行かない場所で迷い、慣れない罠に触れてしまったわけである。
幸い、あらかじめこの地下にしかけられた罠の傾向を知ることでなんとなく周りの作りやヒントで避けることができた。
だがそのわずかなヒントすら見逃してしまいそうなほど、今の状況はよろしくない。
「この地下にはかつてですね、拷問によって死んだ者の霊が漂っているんですよ」
グレルが唐突にそんなことを言い出した。
「夜な夜な漂って、地下に訪れた人々を自分が受けた拷問と同じ体験をさせるんですよ」
拷問経験者のキトウが苦い顔をした。
アレストはなんてことないように手の中で激しく振動しているカナトをなでた。
「あれ、やっぱり誰もこんな話で怖がりませんねぇ」
「アホか……。こっちは怖いより嫌な思い出が多いんだよ」
「それは申し訳ない、魔女さん」
「黙れっ」
「ははは!伯爵はどうです?こういう話は信じない派ですか?」
「どうだろう。魔女がいるわけだし、幽霊がいてもおかしくないんじゃないか?」
そう聞くとカナトがさらに激しく振動し始めた。
「でしょうねぇ。俺も同じ考えですよ」
キトウが「くだらな」と小さくつぶやいた。
「そういえば……」
まだ何を言い出す気だよ!!
警戒していたカナトは即座に耳をふさごうとした。しかし、グレルが言おうとしたのはそんな怖い話ではなかった。
「次の魔女はもう決めましたか?」
「ああ、処刑予定の魔女だな」
自然と話を繋いだアレストは淡々と言った。
「別の死刑囚を使う予定だ」
「ほう?民衆が魔女だと吊し上げた人物を使ったほうがいいのではないかな?」
「まだダメだ。もう少し民衆の怒りを上げなければいけない。この時期にキトウが各地で起こす災害を勝手に魔女と結びつけてくれればやりやすくなる。こちらが手を出さなくとも、勝手に周りが魔女狩りをしてくれる」
「そこで浄化機関は魔女対策の道具を高く売り出す、か。ひと昔の教会がしていたことみたいだな。魔女狩りが流行れば教会が商売に乗っかってくるな」
「大丈夫だ。なんせこちらには心強い仲間がいるだろう?」
アレストが意味深い視線をキトウに向けた。自分へ向けたものだと知りながらキトウは決して振り返らなかった。
あのアレストがそう簡単に自分を許すとは思えない。かと言って手を出してくるわけでもない。協力という立場にいるせいか、割と無事に過ごしている。
が、少し前の魔女狩りで自分をギロチンしようとしやがったことは忘れていない。キトウはこの何を考えているのかわからない相手からなるべく離れていたかった。
「そうでしたね。こちらには心強い仲間がいる。何かあったら教会を吹っ飛ばしてください」
「バチ当たりなやつだな」
「そうですかねぇ。以前はともかく、今の教会はほとんど利益重視になりましたからねぇ」
グレルは頭をかきながらだらけ気味の目を上に向けた。
「浄化機関を守ってきた傍ら、教会の清掃役をやってきたが、あいつらはもう教会を設立した当初の目的も忘れている。一度吹っ飛ばして新しく建て直したほうが神のためでしょうよ」
「きみの目的も教会だったな」
「伯爵の言う通りです。まさか自分の代で魔女狩りが行われるとは思わなかったのですが、まあ、感謝してますよ。あの私腹を肥やす狼どもに一泡吹かせてやりたいもんです」
「きみならできるはずだ」
「信用されてますねぇ」
「いや?きみならやりかねない、という確信だ」
「ハハハッ!伯爵の性格は嫌いじゃありません。やはりあなたたちと手を組んだことは正解ですね」
「お互い、良き仲間として手を取り合おう。きっと後悔はない」
すでに関わったことを後悔しかけているキトウはその言葉に舌打ちしかけた。
「おっと?あれは出口では?」
確かに前の明かりが出口に見える。近づいていくと入り口付近に王子のフレジアドの姿も見える。
「早く行け。俺は最後に行く」
「警戒してますねぇ」
「お前ら相手に警戒しないほうがおかしいんだよ!」
グレルは愉快そうに笑って出口をまたいだ。
「殿下、お先に失礼します」
「グレル、あなたもいたのか。お気をつけて」
では、と言ってグレルは裏側に回ろうと離れた。
「グレルはたぶん黙って地下に侵入したから、裏口から出たいんだろうね」
「いや、とっ捕まえて拷問しろよ」
「キトウは根に持っているなぁ」
「なに自分は関係ないみたいな顔してんだ、クソ王子」
「きみたちが無事に出てこれてよかったよ」
「俺の功績だけど」
キトウが得意げにしているその隣にアレストが来た。
「きみのおかげで余計な遠回りもしたけど」
キトウがぎくりとして顔をそらした。
「それじゃあ、殿下、僕はここで失礼します」
「わかった。今回はちゃんと案内できなかったけど、またぴぃと遊びに来ていいから」
「ご厚意に感謝いたします」
アレストは固まっているカナトを連れてその場を離れた。
邸宅に戻って来ると、カナトも我に返り不安げな視線で見上げる。
「アレスト……」
「どうした?」
「その、地下で次の魔女の話……」
アレストはシッと口の前に指を持っていった。
部屋に入ってからカナトをベッドの上に置き、黒いくちばしを小さく突いた。
「カナトが嫌がると思って、とりあえず死刑囚を魔女代わりにしたんだ。よろこんでくれた?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「知っていたか?」
「何を?」
「今朝出かける前に手紙が来ていたんだ」
「手紙?」
アレストの笑みが少し深くなる。
「辺境伯からなんだ。僕と会って話したいらしい」
自分の後ろで歩く2人のうちの1人は自分を拷問したやつであり、もう1人ははめてきたやつてある。
正直この迷子急増事態を作った張本人として生きた心地がしなかった。
キトウは人目を避けるべく、フレジアドの計らいでこの地下を使わせてもらっている。だがまだ住み込んでそんなに経つわけではないため、普段行かない場所で迷い、慣れない罠に触れてしまったわけである。
幸い、あらかじめこの地下にしかけられた罠の傾向を知ることでなんとなく周りの作りやヒントで避けることができた。
だがそのわずかなヒントすら見逃してしまいそうなほど、今の状況はよろしくない。
「この地下にはかつてですね、拷問によって死んだ者の霊が漂っているんですよ」
グレルが唐突にそんなことを言い出した。
「夜な夜な漂って、地下に訪れた人々を自分が受けた拷問と同じ体験をさせるんですよ」
拷問経験者のキトウが苦い顔をした。
アレストはなんてことないように手の中で激しく振動しているカナトをなでた。
「あれ、やっぱり誰もこんな話で怖がりませんねぇ」
「アホか……。こっちは怖いより嫌な思い出が多いんだよ」
「それは申し訳ない、魔女さん」
「黙れっ」
「ははは!伯爵はどうです?こういう話は信じない派ですか?」
「どうだろう。魔女がいるわけだし、幽霊がいてもおかしくないんじゃないか?」
そう聞くとカナトがさらに激しく振動し始めた。
「でしょうねぇ。俺も同じ考えですよ」
キトウが「くだらな」と小さくつぶやいた。
「そういえば……」
まだ何を言い出す気だよ!!
警戒していたカナトは即座に耳をふさごうとした。しかし、グレルが言おうとしたのはそんな怖い話ではなかった。
「次の魔女はもう決めましたか?」
「ああ、処刑予定の魔女だな」
自然と話を繋いだアレストは淡々と言った。
「別の死刑囚を使う予定だ」
「ほう?民衆が魔女だと吊し上げた人物を使ったほうがいいのではないかな?」
「まだダメだ。もう少し民衆の怒りを上げなければいけない。この時期にキトウが各地で起こす災害を勝手に魔女と結びつけてくれればやりやすくなる。こちらが手を出さなくとも、勝手に周りが魔女狩りをしてくれる」
「そこで浄化機関は魔女対策の道具を高く売り出す、か。ひと昔の教会がしていたことみたいだな。魔女狩りが流行れば教会が商売に乗っかってくるな」
「大丈夫だ。なんせこちらには心強い仲間がいるだろう?」
アレストが意味深い視線をキトウに向けた。自分へ向けたものだと知りながらキトウは決して振り返らなかった。
あのアレストがそう簡単に自分を許すとは思えない。かと言って手を出してくるわけでもない。協力という立場にいるせいか、割と無事に過ごしている。
が、少し前の魔女狩りで自分をギロチンしようとしやがったことは忘れていない。キトウはこの何を考えているのかわからない相手からなるべく離れていたかった。
「そうでしたね。こちらには心強い仲間がいる。何かあったら教会を吹っ飛ばしてください」
「バチ当たりなやつだな」
「そうですかねぇ。以前はともかく、今の教会はほとんど利益重視になりましたからねぇ」
グレルは頭をかきながらだらけ気味の目を上に向けた。
「浄化機関を守ってきた傍ら、教会の清掃役をやってきたが、あいつらはもう教会を設立した当初の目的も忘れている。一度吹っ飛ばして新しく建て直したほうが神のためでしょうよ」
「きみの目的も教会だったな」
「伯爵の言う通りです。まさか自分の代で魔女狩りが行われるとは思わなかったのですが、まあ、感謝してますよ。あの私腹を肥やす狼どもに一泡吹かせてやりたいもんです」
「きみならできるはずだ」
「信用されてますねぇ」
「いや?きみならやりかねない、という確信だ」
「ハハハッ!伯爵の性格は嫌いじゃありません。やはりあなたたちと手を組んだことは正解ですね」
「お互い、良き仲間として手を取り合おう。きっと後悔はない」
すでに関わったことを後悔しかけているキトウはその言葉に舌打ちしかけた。
「おっと?あれは出口では?」
確かに前の明かりが出口に見える。近づいていくと入り口付近に王子のフレジアドの姿も見える。
「早く行け。俺は最後に行く」
「警戒してますねぇ」
「お前ら相手に警戒しないほうがおかしいんだよ!」
グレルは愉快そうに笑って出口をまたいだ。
「殿下、お先に失礼します」
「グレル、あなたもいたのか。お気をつけて」
では、と言ってグレルは裏側に回ろうと離れた。
「グレルはたぶん黙って地下に侵入したから、裏口から出たいんだろうね」
「いや、とっ捕まえて拷問しろよ」
「キトウは根に持っているなぁ」
「なに自分は関係ないみたいな顔してんだ、クソ王子」
「きみたちが無事に出てこれてよかったよ」
「俺の功績だけど」
キトウが得意げにしているその隣にアレストが来た。
「きみのおかげで余計な遠回りもしたけど」
キトウがぎくりとして顔をそらした。
「それじゃあ、殿下、僕はここで失礼します」
「わかった。今回はちゃんと案内できなかったけど、またぴぃと遊びに来ていいから」
「ご厚意に感謝いたします」
アレストは固まっているカナトを連れてその場を離れた。
邸宅に戻って来ると、カナトも我に返り不安げな視線で見上げる。
「アレスト……」
「どうした?」
「その、地下で次の魔女の話……」
アレストはシッと口の前に指を持っていった。
部屋に入ってからカナトをベッドの上に置き、黒いくちばしを小さく突いた。
「カナトが嫌がると思って、とりあえず死刑囚を魔女代わりにしたんだ。よろこんでくれた?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「知っていたか?」
「何を?」
「今朝出かける前に手紙が来ていたんだ」
「手紙?」
アレストの笑みが少し深くなる。
「辺境伯からなんだ。僕と会って話したいらしい」
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