転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

その決断4

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翌朝、カナトが頬を擦り寄せながら目を覚ました。

頭に何かが当てられ、ゆっくりと上から下に繰り返し動いていた。

それが気持ちよく、ついつい二度目の夢の中へ入り込んでしまいそうになる。

まだ朝の寒さに温かさを求めてぎゅっとつかむ手に力を入れる。すると「うっ」という苦しげな声が聞こえてきた。

こえ………声?ん!?

一気に眠気が覚醒したカナトは思い切り目を開けた。

ぱちっと青く深い目と合う。

カナトがその目に本能的な恐怖心でうつむくと、自分が相手に抱きついていることに気づいた。

「ああおおああっ!!!」

驚いた声にドアの外からバタバタと音がする。

「店長!何かありましたか!」

「レリィ!?はっ、入って来るなあっ!」

カナトが慌てて離れて着替え始めた。

「そんなに慌てなくても、何もしないよ。と言っても、やっぱり信じられないか?」

カナトの動きがピタッと止まった。その目が緊張気味に泳ぎ、やがてボソボソと言う。

「違う……その、ごめん」

「どうして謝るんだ?」

「お、俺が勝手に抱きついたのに、叫んで……」

「無意識にやっていたのだろう?だったらきみは何も悪くない。僕も嫌じゃなかった。むしろきみから触れられてうれしかった」

無意識にやっていた、と言われてカナトの顔に熱が集まっていく。

「あ、あのさ…!」

「ん?」

「昨日偶然……本当に偶然だからな!その、体のアザが広がっていたように見えてたんだけど……」

「アザ?広がっているように見えたのか……おかしいな。アザのことカナトに言った覚えはないのに」

カナトがハッと自分の口を押さえた。

そうだった!あれはレリィから教えられたんだ!ど、どう言い訳する!?

「でも、気にかけてくれるのはうれしいな。ありがとう」

「……そ、それで、アザはなんで……」

アレストはふいに顔をそらした。

「さあ」

「さあ?何かしたのか?」

「……眠れないと言ったこと、覚えているか?」

「覚えている」

「きみのにおいを保つために、この一年ずっと魔法を使って保存していた」

「はあ!?」

「きみがいなくて……後悔したから。どうしてもまだきみがいる妄想をしてしまう。きみにちょっかいをかけた人物たちを始末することで、まるできみがまだそばにいて、僕が代わりに復讐をしている感覚から抜け出せないんだ。まるで……まるできみがまだそばにいるような感覚に、どうしてもすがりつきたくなった」

「……バカだろ。始末って、なんでお前はいつも考えが極端なんだよ」

においのこともそうだが、もはや依存しているように見える。

「においなんて、そんなもののために1年間も?お前自分の体が今どんな状態かわかっているだろ」

「うん、わかっている。でも、きみが消えていくようで、どうしてもやめられない」

「………」

「一晩泊めてくれてありがとう、カナト。おかげさまでぐっすり眠れた」

「それならいいんだ……ぐっすり眠れたなら」












迎えの馬車が来て、アレストが最後にカナトにお別れをした。

忙しいから次いつ来れるのかわからないらしい。

それを聞いてカナトがぴくりと反応した。アレストが店を出ようとする直前、思い切りその腕をつかんだ。

「カナト?」

「あっ……その、お、俺……」

酷い葛藤のなかでカナトは言おうとするべき言葉をなんとか搾り出そうとした。しかし、緊張でなかなかうまくいかず、頭の中が真っ白になりかける。

「大丈夫。聞いているから、ゆっくり話してみて」

気遣うような優しい声音に、カナトは思わずぶわっと涙を噴き出した。

「俺もついていく!!」

アレストが驚いたように目を見開いた。

「本当…なのか?」

「本当だ!お前を信じてやる!だけど本当の本当に約束しろ!ユシルとニワノエたちのこと、そして俺を殺さないって!」

「ああ、約束する。きみがそう望むなら」

アレストはなんとか笑いで上がってしまいそうな口もとをちょうどいい角度にとどめた。その視線がカナトの後ろで立つレリィに向けられる。

命令を受けたレリィが一礼して店の奥へと入っていく。

「カナト、今僕から触れてもいいか?」

こくこくとうなずかれる。

カナトは頬に冷たい手が触れてくるのを感じた。涙をすくうようにふかれ、ますます止まらなくなる。

「み、見るな」

「カナト、どんな姿のきみも本当に愛らしくて仕方がないな」

「何言ってんだよ……。そうだ、荷物もあるから片付けないと。えーと、今日は帰れそうにないな」

「それならご心配ありません!このレリィにお任せください店長!」

「え?」

店の奥を見ると、荷物を抱えながらレリィが出てきた。

「すでに片付け終えましたよ!」

「は?いや、早すぎないか!?」

「普通です!」

「どこが!?」

カナトが驚いている傍らで、アレストは我慢できずに背中を向けた。口を手で覆い、カナトの前では極力出さないようにしていた笑みをもらす。

ダメだ……抑えられない。カナト……。

だが、笑っていたその目がすぅと店の窓に向けられた。

窓の前にはフランが立ってこちらを化け物でも見る目でのぞいている。

アレストは笑みを深めて、人差し指を口の前に持っていき、しーと釘を刺した。

フランは顔を引き攣らせながら慌てて窓から離れた。視界から離れたというのに、悪寒はまったく収まらない。

カナト、自分のその決断を後悔するぞ。

フランは腕を抱いて、なんとか震える体を抑えようとした。









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