転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

真実味

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「すげー!」

カナトの興奮した声が馬車から響いた。

「危ないよ」

「え?あ、そうだな」

注意されて、カナトは馬車の窓から頭を引っ込めた。

だが目の前の人物を直視できない。

アレストは予定より早く仕事を切り上げてカナトとともにイグナスの管理する地へ向かった。

「それより、もう宰相としての仕事はいいのか?」

「うん。めんどくさいことは全てフェルサジア殿に投げたから」

「そ、そうか……その、信用してないわけじゃないけど、ニワノエたちのことは……」

「大丈夫。あれからフラン殿下は王子として戻ることができたし、ニワノエの家に関しても問題はない」

「……ならいいんだ」

「まだ何か心配ごとでもあるのか?」

「いや……そういうわけじゃ」

やはりアレストがこんなに簡単に手に入れた全てをあきらめるとは思えない。

だが、疑ったところで確かめるすべはない。

「ついたみたいだな」

「本当か?」

馬車が止まると、カナトは窓から顔を出した。

「うおー!4日近くかかってどんなところかと思ったけど、案外いいな!」

新しい暮らし場所はヴォルテローノの屋敷におよばないが、それなりに大きな屋敷であった。

屋敷の周りは煉瓦造りに囲まれて、ちゃんと庭もついているようである。ただ一つ、どこか殺風景に見えた。

何かが足りないような……。

「カナト、どうかしたのか?」

「な、なんでもない」

馬車を降りて周りを見渡してますます何かが足りない気がした。

茶色一色に満たされたみたいなこの空間はなんなんだ?茶色?……そうか!緑がない!植物が劇的に少ない!

どう見渡しても緑が見当たらない。強いて言えばほとんど道端に生えている程度の緑しかない。

もしかしてアレストを警戒しているのか?魔女が緑豊かな自然に触れることで魔力が保てられるからなぁ……イグナスなら絶対警戒するだろうな。

「カナト、入ろうか」

「おう……」

アレストの話によればこれからはこの場所から出られないらしい。アレストも何度もカナトにそのことを確認した。

望むならもっとを探ると。

よからぬ考えを持っていそうな言い方にカナトはぶるぶると頭を横に振るしかなかった。

これでアレストが生き延びれるなら別に悪いことではない。要は自由が制限されるだけの話であって、命が脅かされるよりよっぽどマシである。

この選択は間違いじゃないよな?

自分がアレストのもとに戻り、共にイグナスの管理下に入ることでこれ以上最悪な事態を防げるはずである。

それに……、とカナトは胸に手を置いた。

アレストのことは……たぶんまだ好きだしなぁ。

やっぱり嫌いにはなれない。いまだに正しい道に戻って欲しいと思ってしまう。

「来たようだな」

その声にハッと顔を上げる。

屋敷からイグナスが歩いてきた。その目がカナトをとらえた後、アレストとほんの視線を交わす。

「約束したことは忘れるな」

「もちろん。あなたの力不足を僕が補いますよ」

思い切り挑発の言葉にカナトが目を丸くした。

だがイグナスはふんっと身を翻して屋敷の中へ入っていく。

「僕たちも行こうかカナト」

「おう………あのさ」

「どうした?」

歩きながらアレストが不思議そうにする。

「約束って、なんだ?危険なことじゃ……」

「ああ、違う違う。心配しなくていいよ。ただ僕が支配権を持っている『コドク』という暗殺組織をフェルサジア殿に貸すだけだよ。あの人が表の仕事、僕が裏の仕事を手伝うと言って手を取り合ったんだ」

お前たちそう言う意味での手の取り合いかよ!

どうやら2人が仲良しという噂のでところはこれが原点らしい。

「お前たちって仲悪いままなのか……」

やっぱりというか、この2人が仲良くなることなど“この世界において”恐らくありえない。

カナトは屋敷に入り、中をあちこちのぞいた。そこへ「にゃーん!」と鳴き声がして見やると、なんと猫たちもこの屋敷に来ていた。

「お前たちもいるのか!」

カナトが嬉々と両腕を広げて抱きつこうとしたが、猫たちはカナトを当たり前のように避けてアレストのもとへ集まった。

「あれ?」

「教育が足りなかったかな」

「え?」

「大丈夫、カナトのことじゃないよ」

アレストは猫たちを1匹ずつ抱き上げてカナトに渡した。

最初は抵抗を見せていた猫たちだったが、そのうち驚くほどおとなしくなった。

「久しぶりだなぁこいつらに会うの」

「よろこんでくれた?ホロロも連れてきているし、温室をここでも作って鳥たちを連れてきたんだ」

「マジで!?」

「うん」

カナトが猫たちをもふもふしていると、ふと、あれ?と首を傾げた。

猫たちってアレストのこと怖がってなかったか?なのにさっきはまっすぐにアレストのほうへ走ってきたな。俺の知らない間に仲良くなったのか?

「それにしても……いち、にー、さん、しー……1匹少なくないか?母親がいないぞ」

「母猫は死んだんだ」

今のカナトは特別「死」という言葉に敏感だった。

「し、死んだ……?」

「うん。もうずいぶんと生きたから」

「あ、そうか……もう歳か」

寂しく思いながらカナトは腕の中で妙におとなしい猫たちをなでた。

前回会った時も長い間会ってないが、だいぶ警戒されていた。ホロロが自分の名前を言えるところを見ると、もしかしたらキトウがかけた魔法は人間にしか作用しないのかもしれない。

だが、なぜ今回猫たちは懐いてきたのだろうか。カナトは妙にこのことが引っかかっていた。

その後イグナスにここでの注意事項を聞き終えてからポツンと残された。イグナスの去った方向を見つめながら、

「つまり、敷地から出なければ何をしてもいいと?」

「うん。ユシルが特定の人物が出られない魔法をかけたらしい」

「その特定の人物って……」

「僕ときみ。あと使用人たち」

「使用人たち?」

「確か今なら厨房のほうにいるんじゃないかな。シドもいるよ。お店のことがあるから、たまにしか来ないと思うけど、来てくれる時はたくさんチョコレート持ってきてくれると思う」

「おお!」












なんだか知らないあいだに全てのことが収束に向かっている気がした。

屋敷を探索し終えたあと、カナトはベッドで横になりながらゆっくりと目を閉じた。

これはこれで望んでいたハッピーエンドかもしれない。まだアレストのことを直視できないが、これから、必ず……良くなる……はずーー













ーー目を覚ますとそこは灰色の壁に囲まれた部屋だった。

「なんだ……ここ」

頭がぼうとする感覚に、どこかで経験したような気がする。

く、薬だ……!この感覚、間違いない!

だが覚め初めている段階だからなのか、少しぼうとしていると、だんだんと思考がクリアになっていく。

なんで俺はここにいるんだ……。アレスト……アレストは?

アレストを探そうと座っているソファから降りようとする。だが、体が椅子に縛られてソファから降りられない。さらに違和感を感じて視線を下げると……、

「………ッ!!」

両脚がひざからなくなっていた。

「な、なんだよこれ……アレスト……?アレスト!!いないのか!おい!」

いくら叫んでも誰もこの部屋に来ない。

カナトは混乱と恐怖に陥り、半狂乱的に叫んだ。

「誰かいないのかよ!!誰か!お願いだから誰か来てくれ!!アレスト!どこだよ!なあ!!」

夢……だよな?

だが叫びすぎてのどが痛くなり、暴れたことで脚の切断面から巻かれた包帯に血がにじみ出た。夢というには現実味がありすぎている。

「ゲホッゲホッ……誰か……うっ」

「カナト?」

その声にパッと顔を上げる。

「アレスト……?アレストなのか?」

「僕だよ」

鉄製のドアの小窓が開かれ、向こうから青い瞳がのぞいた。

「もう覚めたのか?」

「俺………脚が……」

アレストはほんの目を細めると小窓から離れ、ドアの鍵が開かれる音が響いた。

ギィとドアが開かれると、カナトは反射的に下をうつむきそうになった。しかしそうすると自分の両脚が目に入り、思わず視線を上げる。アレストの顔をかすめた視線がふいにまた戻った。

「なん、だよ……それ」

困惑した声にアレストは自分の顔を触った。

そこに広がっているのは目の下まで、右顔の半分ほどを覆う黒いアザだった。

「なんで……そんなに、広がって……」

「忘れたのか?」

「え?」

アレストはゆっくりと近づいた。

「……いや、忘れたならそれでいい。それより傷はどうだ?まだ痛むか?もっと薬を使おうか?」

優しく声をかけながらアレストは地面にひざをつき、カナトの脚にそっと手をそえた。

「脚……」

「うん」

「なんで……ないんだ?なんでこんなことになっているんだ?ここどこだよ……!」

「落ち着いて。大丈夫。邪魔な奴らは全て消しておいたから、カナトはずっとここにいて、僕だけを見ていればいい。外のことなんて全て忘れて、ずっと僕のそばにいればいい」

「消しておいた?どういうことだ?」

「………」

「答えろよ!!」

「言葉の通りさ。こんなことになるのは、それは僕がカナトを愛しているからだろ?ここはきみと僕だけの秘密の部屋だ。きみと僕しか入れない」

「……本当に俺のこと愛しているのか?」

「当たり前だろ?」

「それはただの執着じゃないと…なんで断言できるんだ?」

アレストの目がわずかに見開かれた。

「だってそうだろ……こんなの、おかしい。なんでいつも少しマシになったかと思うと予想外のことが起きるんだよ」

「この部屋はいやなのか?」

「誰が好きかよ!」



そう叫んだ瞬間、カナトの目の前がザザザッと砂嵐が起きたかのように不鮮明になった。



次に目を開けるとそこは天蓋付きのベッドがある部屋だった。

おかしい……やっぱり夢なのか?

「カナト、起きたのか?」

振り向くと、すぐ近くでアレストが微笑んでいた。

肩を抱き寄せられ、額にキスを落とされる。

2人とも裸だった。

カナトは体の節々が痛い気がした。

「贈り物は気に入ってもらえなかったみたいだから、また他のを送る」

「贈り物?」

「忘れたのか?仕方がないな、ほら、あそこに転がっているだろ?」

いやな予感がして、カナトが恐るおそるとアレストの視線の先を見た。

視界に侵入した光景にカナトは呼吸を忘れ、目を見開いた。

床に転がっているのは人頭である。それも一つではない。

ニワノエ、フラン、シド、ムカデ、ムソクーー

「うああああ"っ!!!」














ーーーーーーー

「ハッ!!!」

カナトは荒い呼吸を繰り返しながら目を覚ました。

慌てて周りを確認し、自分の両脚を見る。

「ある……」

なんだったんだ……。

冬だというのに、冷や汗に全身がびっしょりとしている。

寒さからなのか、それとも夢の内容になのか、全身に鳥肌が立っていた。

「本当に……なんなんだよ」










◇————————————————————

少しノロノロと進んでしまいましたが、もうじき終わりになります。

あともう少しお付き合いいただければ幸いです!
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