転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

秘密の部屋

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カナトは大きく息を吸って吐き出した。

夢の内容がどうしても頭から離れず、朝から胸騒ぎが収まらない。

夢なんだよな……でもあんなに本物みたいな夢、普通の夢なのか?

なんなら感じた痛みすらまだ残っている気がした。最後のショッキングな光景に今は床すら見れない。

カナトはベッドの上で布団にくるまりながら小さくなった。

気持ち悪い……。

その時、ドアが軽くノックされた。

「だ、誰だ……!」

「……僕だよ」

「アレスト?」

「今入っていいか?」

「あ……うん」

ドアを開けてアレストが入ってきた。ベッドの上で縮こまっているカナトを見て慎重深く近づいていく。

「何かあったのか?ノックした時、かなり緊張した声だったから」

優しい声音に緊張をほぐそうとする気遣いを感じた。

それなのにカナトはやはりアレストの目を見れない。

「その、悪夢を見たから……」

「悪夢?」

「うん」

「怖った?」

こくりとうなずく。

「抱きしめてもいいか?」

カナトの体が明らかにびくりと反応した。

「あ、いやその……」

「じゃあここにいてもいいか?」

カナトは口をもごもごとさせてから、決心したようにそろそろとアレストに近づいた。ベッドに座るよう袖を引っ張り、その腕の中に自ら入っていく。

「夢の内容がお前関係だったから……」

「辛いこと思い出させた?」

「そうじゃない。ただ、すごくいやな夢だった」

「そっか。大丈夫、ここじゃきみをどうこうできる人はいない」

「……少し聞いてもいいか?」

「何を?」

「俺のこと愛しているんだよな」

「当たり前だろ?」

「じゃあさ、まだ俺の……俺を繋げたいとか、閉じ込めたいと思ったりするのか?」

カナトの頭をなでていた手がぴくっと止まった。

「まったくない、と言えば嘘になる。だけど絶対にしない」

「本当か?」

「ああ、約束する。どのみち今の僕たちはどこにも行けない」

「もし、もしの話だぞ?俺が繋げても閉じ込めても……その、脚を切り落としてもいいから、ここで他のことを考えずに暮らして欲しいといえばーー」

言い終わる前にぐいっとあごをつかまれて上向かされた。

目の前にアレストの顔がせまり、激しい独占欲をにじませた青い瞳と目が合った。

「本当か?」

「え……?」

「繋げても、閉じ込めても、脚を切り落としてもいいのか?」

カナトはぞわりと寒気を感じた。

直前まで怖くて見れないが、今は逆に怖くて目をそらせない。例えるなら、圧倒的な脅威が目の前にいるのに、それから目を逸らすとすぐに噛み殺されそうな、そんな感覚と似ている。

「た、例えばの…話だって……言った、だろ」

「………。そうだったな。気が早まってしまったみたいだ」

アレストはカナトを離し、ゆっくりと立ち上がった。

「朝食は食べれそうか?」

「あ、ああ……」

「よかった。それじゃあ、持ってくるから待っていてくれ」

そう言ってアレストは部屋を出て行った。

しばらくしてから我に帰ったカナトは、なおもどこか呆然とドアを見つめている。

アレストは、そうしたかったのか。









カナトは1人で屋敷を回りたいと言って誰にもついて来させなかった。

カナトが向かった場所を聞いたアレストは自室の窓際の前でフッと笑った。

「カナトは本当に……なんと言えばいいのか、怖いもの知らずだな」

そう言うには少し語弊があるかもしれない。どちらかと言うと厄介ごとに自ら首を突っ込み、それでいて避けるべき自分のトラウマを増長させようとする。

しっかりと後悔を味わってもまるでそれが教訓とならないように、また同じことを繰り返す。

「そうやって僕のことを暴いて行こうとする姿勢は好きだよ、カナト」

僕の全てを知って……そして受け入れてくれ。

窓に薄っすらとアレストの執着じみた笑顔が映り込んだ。

報告に来たレリィはカナトの前で見せるような笑顔は一切なく、明るい印象を与えるメイクを落としたあとのその顔には、ただ冷徹な表情が浮かんでいた。












あちこち回ってやっと探していた入り口を見つけたカナトは唖然と口を開いた。

「本当にあった……」

目の前には地下へのドアがある。

夢の中で見たあの部屋は閉じ込められていた時期の部屋と非常に似ているが、違う部分もあった。

おそらく同じ部屋ではない。もしかしたらその部屋はこの屋敷のどこかにあるのではないか、そう考えて探していた。

カナトは緊張する手で取っ手を回し、意外にも鍵のかかってないドアは簡単に開いた。

用意した蝋燭を掲げ、階段を伝って降り、カナトは最初のドアを見つけた。慎重に開けようとするが鍵がかかって開けられない。

さらに奥へと進んで探すが、他のドアも同様で何もなかった。

そして四つ目の部屋のドアも開かないものだと思っていた時だった。ガチャと開いてしまった。恐るおそる中をのぞくと、その内装は記憶の中にある部屋とはずいぶん違う。

やっぱり気のせいだよな……。

開けたカナトはどこかほっとした息を吐き出した。

これで最後にするつもりだったが、中をさらにのぞくとふと、もう一つ扉があることに気づいた。

………。

カナトがごくっとのどを鳴らして近づいていく。

手をかけてみると簡単に開いた。ゆっくりと引いて中を照らしてみる。

カナトの足がピタッと止まり、思わず背筋が凍った。

ソファがある。そのすぐ前にはベッドほど大きい台があり、四肢を固定する枷がついている。その台に何かを立てかけているのか、蝋燭で少し下を照らすとノコギリが見えた。

混乱して細部まで見れなかったが、夢の中で見た光景と非常に似ている。

思わず二、三歩後ずさり、その場から遠ざかろうとした。

なぜこの部屋が夢の中とこれほど酷似するのか、もしくはなぜこのような器具たちがここにあるのか、その理由を想像もしたくないカナトはとにかくこの場から離れたかった。

後退しているとポンと肩に手が置かれる。驚いたカナトが素早く振り返ると、酷くくらい目と合った。

悲鳴がほぼのどまで出かかっている。

「カナト」

「………っ!」

「この部屋まで来れたんだな。どうだ?」

どういう意味でどうだと聞かれたのかわからず、カナトはただ首を横に振った。

「ここはフェルサジア殿が僕の意向を反映して作ってくれたんだ。今は布でさえぎっているが、ちゃんと外が見れる格子窓がある」

カナトの顔が恐怖に歪んだ。

「し、しない…って、い、言った……」

アレストはただ部屋の中を見つめながら笑った。

「なぜフェルサジア殿が僕の意向を反映してくれたかわかるか?ここで例え僕がカナトに何をしてもいいように手配してくれたんだ。自由と引き換えにカナトが二度と逃げれない、元の世界にも帰れない“呪い”をかけられたんだよ」

「い……意味が、わからない」

「ユシルも了承している。だから僕がカナトに何をしても誰も助けに来ない」

「アレスト……」

カナトの声が少し泣き声に近づいてきた。

アレストはカナトの涙をふき、そっとその場にひざをつく。

まるで大事な壊れ物でも扱うようにその手つきは優しいものだった。

「きみが言ったように、だからこそ何もしない」

「ほ、本当……か?」

「本当だ。……今、抱きしめてもいいか?」

戸惑ったが、カナトはうなずくことにした。

震えていた体が抱き込まれ、頭を優しくさすられる。抱き込まれた勢いで地面にひざをつき、アレストの腕をつかんだ。すると、涙が急にあふれ出した。

「し、信じていいんだよな……」

「信じて欲しいな。きみが大好きなユシルもイグナスもきみを僕に差し出したんだ。でも僕は例え何があってもきみを差し出したりしない。僕だけだ。カナトを大事に思い、縛りつけたいくらいに愛しているのは僕だけなんだ」

カナトを抱きしめながらアレストは病的な笑みを浮かべた。きつく抱きしめてささやく。

「この世で僕だけが一番にきみを想っている。他人の存在は絶対に許さない」





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