上 下
13 / 25
第2章

12.騒乱の始まり

しおりを挟む
「地震でしょうか!?」
「とにかく、落ち着い……」
 オレがそこまで言ったところで、二度目の爆発音が辺りに響き、辺りが薄暗くなった。
 どうやら、停電したようだ。買い物客たちの悲鳴が辺りに響く。
「くそっ! 一体何が起こってるんだ!」
「今の音、一階の広場辺りから聞こえたかも……」
「本当か、ナハト?」
「うん。私、耳がいいんだ」
 一階の広場。さっきまでオレが文化祭のチラシを配っていた場所だ。広場には沢山の人と魔族がいたはず。
「あわわわ。どうしましょう……」
「とりあえず、はぐれないようにしよう。ナハト、ユウくん。手を繋ぐぞ」
「そうだね。こういう時は落ち着いて集団行動しないと」
「分かりました……」
 周りの買い物客がパニックになって、非常口を探して走り回っている!
 こんな状態ではぐれるのはまずい。二人と手を繋ごう。そして、慌てず冷静に歩こう!
「どこに行くんですか?」
「とにかく、一階を見て状況を確認した方が良いだろうな」
 不安げなユウくんの問いかけに、オレも不安感を押し殺しながら答えた。
 このデパートは吹き抜け構造だ。つまり、二階から一階を見渡せる場所がある。もしナハトの耳が確かなら、広場で何かが起こっているはずだ。
「勇者くん! あれ!」
 広場が見える位置まで来て、オレたちは言葉を失った。何故なら、広場に黒い穴が生じており、そこから黒い霧に包まれたモンスターが、大量に現れていたからだ。
 間違いない。あの黒い穴はゲート――モンスターの住処だ。
「な、何ですかあの化け物たちは……!」
 ユウくんがオレの手を強く握る。恐怖を感じているのだろう。無理もない。
「勇者くん! 襲われてる人がいるよ! 助けないと!」
「ああ! 急ごう!」
「待ってください! あんな化け物たちがいる場所に行くんですか!?」
 そうだった。オレとナハトは魔法を使ってモンスターと戦うことができる。だけど、ユウくんはそうじゃない。モンスターがいる場所に連れて行くのは危険すぎる。だけど、ここで離れたら逆にもっと危険な可能性もある。一体どうすれば……。
「怖いだろうけど、行こう! いざとなったら私が防御魔法を使って守るから!」
「ごめんユウくん! でも、魔法が使えるオレたちが助けにいかなきゃ……!」
 オレは意を決して、止まったエスカレーターを走って降り、広場に向かって走った! 少し遅れて、ナハトとユウくんもオレに続く!
「ユウくんはナハトのそばにいてくれ! いざという時は防御を頼むぞナハト!」
「了解! 絶対に怪我させないから安心して!」
「二人とも、一体何をするつもりなんですか……!?」
「とりあえず、辺りのモンスターを一掃する!」 
 オレの腕くらいの太さがある巨大なヘビ型のモンスターの群れが、無差別に買い物客を追い回している!
 そのヘビ型のモンスターに向けて、オレは魔法を発動させた!
「熱の波よ、押し流せ! ヒッツェヴェルメ!」 
 熱波がヘビ型のモンスターに直撃する。だが――
「くそっ! 効いてないのか!?」
 どうやら、このヘビ型のモンスターは熱に耐性があるようだ!
 熱波の直撃を受けた瞬間に、一瞬だけ動きを止めたがそれだけだ。またすぐに動き始めた!
「降り注げ水よ! ヴァッサーフォール! ――そして、水よ! 凍結し、槍と化せ! アイススピア!」
 突如、ヘビ型のモンスターの群れに大量の水が降り注いだかと思うと、次の瞬間には床にできた水たまりが凍結し、氷の槍が大量に床から突き出した!
 氷の槍に貫かれたヘビ型のモンスターたちは甲高い悲鳴を上げ、消滅していく!
「ヴォルフ! 無事だったか!」
 大量の水が降り注ぐ魔法であるヴァッサーフォールと、水を凍結させて氷の槍を作成する魔法であるアイススピアを発動させたのはヴォルフだった。この騒ぎを聞きつけて、どこからか駆けつけて来たのだろう。
「オレ様は何ともねえ! でも、何だよこれ! 何でこんなところでゲートが開いてんだ!」
「オレにも分からない! 分からないけど、モンスターを退治しないとみんなが……!」
「二人とも! 後ろ!!」
 ナハトの悲鳴にも似た声が聞こえ、慌てて振り返ると、そこにはさっきヴォルフが倒したヤツよりも一回り大きいヘビ型のモンスターが居た!
 一体、いつの間に――――!
「くっ!!」
 大きなヘビのモンスターは、大きな口を開け、オレに襲い掛かってきた!
 ぎらりと光る尖った歯が迫る!
 ――――逃げられない!
「貫き爆ぜよ、輝石の弾丸! シュタインクーゲル! ……ッス!」
 ヘビ型のモンスターの尖った歯がオレの皮膚に突き刺さる! ……そう思って恐怖で目を閉じたが、痛みがオレを襲うことは無かった。
 恐る恐る目を開けると、大きなヘビ型のモンスターはオレの目の前で倒れていた! 
 オレの足元には大きな石のようなものが転がっている。どうやら、この大きな石がどこかから飛んできて、このヘビ型のモンスターに直撃したようだ。
「ふう。間一髪ッスね」
「これは、ゼーゲンさんがやったのか?」
 オレがそう尋ねると、ゼーゲンさんは大きく頷いた。
「はいッス。石の弾丸を飛ばす、土属性の魔法を使わせて貰ったッス」
「来るのがおせえよ兄貴!」
「これでも全力で走ってきたッス! 車を拭いてたらいきなり凄い音が聞こえたからびっくりしたッスよ! まさかゲートが出現してるとは思わなかったッスが」
 ゼーゲンさんのおかげで助かった。でも、ゲートからは次から次にヘビ型のモンスターが現れる! キリがない!
「うわあああっ!」
 ユウくんの声だ!
 慌ててユウくんの方に目を向けると、ヘビ型のモンスターがユウくんに飛びかかる瞬間が目に入った!
「させないよ! メッサーヴィント!」
 ナハトが放った風の刃が、ユウくんに飛びかかったモンスターを切り裂く!
「絶対に怪我させないって、約束したでしょ? 怖がらなくていいからね」
「あ、ありがとうございます。ナハトさん……」
 一瞬ヒヤリとしたが、無事でよかった。ユウくんはナハトに任せて良さそうだ。
「おかしいッスね……」
 周りのモンスターに、魔法で生成した石の弾丸を放ちながら、ゼーゲンさんは険しい表情でそう呟いた。
「どうしたんだ、ゼーゲンさん?」
「普通、モンスターは魔素を狙うはずッス。オイラたちみたいな、魔素が身体に染み付いた魔法使いが狙われるのはともかく、魔法と関わりがない人が襲われることは滅多にないはずッス」
「じゃあ、何で一般人が襲われているんだ……?」
 モンスターは、魔素を食べて生きているはずだ。ゼーゲンさんは、魔法と関わりがない人間が襲われることは滅多にないと言った。なのに、ユウくんや、魔法に縁が無さそうな買い物客まで襲われている。何故だ。
「って、考えてる場合じゃないか!」
 今度はゲートからコウモリ型のモンスターが複数現れた!
 狙いを定めて、熱波を飛ばす魔法、ヒッツェヴェルメを発動する!
 ヘビ型のモンスターと違い、コウモリ型のモンスターは火属性の魔法に耐性が無いようだ。熱波の直撃を受けたコウモリ型のモンスターが消滅していく!
「クオンさん、やるッスね!」
「よし、コウモリのモンスターにはオレの攻撃が効くみたいだ! オレはコウモリのモンスターを狙うから、みんなはヘビの方を退治してくれ!」
「おう! ヘビ野郎はオレ様が冬眠させてやるぜ!」
 ヴォルフの水属性の魔法は、ヘビ型のモンスターに効果的なようだ。ゲートからヘビ型のモンスターが現れるペースよりも、ヴォルフの魔法で退治されるペースの方が上がってきた。オレも負けてはいられない!
「すごい……。これが魔法なんですね……」
「本当ならもっと安全な場所でゆっくりと見せたかったよっ、と。私も頑張ろっと」
 ナハトが発動させた風属性の魔法、メッサーヴィントにより、コウモリ型のモンスターが次々と切り刻まれていく!
 風属性の魔法は、ヘビとコウモリ、どちらのモンスターにも効果があるようだ。羨ましいな。
「ふう。お客さんたちはあらかた避難し終わったみたいッスね!」
 周りを見渡すと、買い物客の姿は見当たらなくなっていた。まだ油断はできないが、少し安心だ。
「客が避難できたのはいいけどよ、このままだとキリがないぜ! どうすりゃいいんだ!」
「ゲートの中に居るヌシを倒して、ゲートを閉じるしかないッス!」
「でも、オレたちが全員でゲートの中に入ったら、ゲートの外が大変なことになるんじゃないか?」
 ゲートから次々と出てくるモンスターを放置することはできない。だけど、ゲートからモンスターが出てくるのを止めるためにはゲートの中に入ってヌシを倒すしかない。
「じゃあオレ様がゲートに入ってヌシをぶっ飛ばす! てめえらはゲートの外のモンスターを退治してろ!」
「おいヴォルフ! 一人じゃ危険だ!」
「そうッスよ! まずはもう少し考えてから……」
「考えてる場合か! どのみち誰かが行かねえといけないだろうが! なら、オレ様が行く!」
 そう言って、ヴォルフはゲートに向かって駆け出した。だが、ヴォルフがゲートに近づこうとした瞬間、禍々しい黒のローブに身を包んだヤツがゲートから現れた。胸には黒く輝く宝石のようなペンダントを付けており、フードを被っているが、よく見ると白い虎の顔が見える。恐らく、魔族だ。
しおりを挟む

処理中です...