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2.ブースタープログラム
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『で、扉の向こうには何があった?』
「えっとね……」
扉をくぐった後、私は部屋の中をぐるりと見まわした。
小さな部屋。その片隅に、透明で四角い箱があった。箱の中には赤いシールのような物体が沢山並んでいる。間違いない。これは……。
「〈BP製造機〉を発見したよ」
『そうか。リーク通り、このビルの中にあったな』
BPとは、ブースタープログラムの略だ。
今、メタバース内ではこのBPが絡んだ事件が沢山発生している。
「はあ。何でこんな物を作る人が居るんだろう」
『BPを使えば、メタバース内での身体能力が一時的にかなり向上するからな』
基本的に、現実での身体能力がそのままメタバース内での身体能力になる。そうなるようにプログラムされているみたい。身体への負荷を考慮して、とかそういう理由で。
だけど、BPを使用するとメタバース内での身体能力が一時的に向上する。運動音痴の人でも、BPを使用すれば数十メートル離れたビルからビルに大ジャンプできるようになったり、百メートルを三秒くらいで走れるようになったりするみたい。
「でも、脳への負担がやばいじゃん」
今、全世界で普及しているメタバースは、人間の脳内を繋ぐブレインリンクという技術が使われている。現実で、脳波を読み取る小さな機械のチップをこめかみに貼り付けて、そのまま目を閉じればあっという間に全世界の人々の脳内と繋がるようになっているのだ。
脳内世界と電子技術が融合して生み出された仮想世界。それが、現代のメタバースだ。
で、ここからが問題。現代のメタバースは人間の脳と密接に関係している。だから、脳への負担を考えながら利用しないといけないのだ。
『そうだな。BPを使用すると、脳に多大な負担がかかる。その結果、使い続けると現実の身体に影響を及ぼす。手足が動かなくなったり、記憶障害が起きたりな。最悪、呼吸の仕方を忘れるなんてケースもあるらしいな』
現実の身体に悪い影響を与えて命を脅かすプログラム。それがBPだ。
BPの危険性は周知されていて、メタバース法という法律で規制されている。それなのに、違法品であるBPを製造したり使用したりする人が沢山居るんだよね。
「こんな物、無くなっちゃえばいいのに」
『少しでも減らすために、今俺たちはこうやって任務をこなしているんだろうが。ほら。余計なことをうだうだ考えてねえで、さっさと製造機をぶっ壊しちまえよ』
「そうする」
私は腰のホルスターから銃を引き抜いて、BP製造機に銃口を向けた。
今度使う銃はパラライズガンではない、もう一丁の銃の方だ。
この銃の名前は〈ブレイズガン〉。炎を纏った弾丸を放つ、破壊力が高い銃だ。危険だから人間相手には使えないんだけど、頑丈な物を壊す時には役に立つんだよね。
「はいドッカーン!」
私が引き金を引くと目にもとまらぬスピードで炎の弾丸が放たれ、それの直撃を受けたBP製造機はべっこりとへこんだ! 間違いなく壊れたねこれは! この破壊力、たまらない!
「はいお仕事完了。……って、何!?」
突然、サイレンのような音が部屋中に響いた! これは、何かの警報音!?
『どうやら、BP製造機が停止した時に警報が鳴る仕組みになっていたみてえだな。早く脱出しねえと、BPの製造に関わった悪人どもが押し寄せてくるぞ。もしそいつらに捕まったら……生きて現実に戻ることはできねえかもな』
「さらっと怖いこと言うのやめて!?」
『生きて帰りたきゃ、早く脱出しろ』
そうしよう! とりあえず、扉から出て……。
「いつの間にか扉が閉まっているんだけどー!?」
何故か分厚い扉が閉まっている! しかもこっち側にはパスワードを入力するパネルらしきものがない!
『警報が鳴ったら自動的に扉が閉まって部屋の中に居るヤツを閉じ込める仕組みになっていたんだろ。よくできてんな』
「関心している場合じゃないよ!? どうしよう!」
今の私は袋のネズミならぬ、袋のエージェントって感じだ!
「そうだ! ブレイズガンならもしかして……!」
私はブレイズガンを両手で持ち、扉に銃口を向けた状態で引き金を引いた!
轟音とともに放たれた弾丸が扉に直撃! ……したんだけど、ちょっとヘコんだだけだ! 何発撃っても壊れそうにない! 頑丈すぎるでしょこの扉!
『扉は壊せたか?』
「無理だった! 別の方法を考えないと!」
もう一度、部屋の中をぐるりと見まわす!
……この部屋、窓すらない! 扉がある場所以外は、コンクリートの壁で囲まれている!
「ん? この壁ならもしかすると……」
私は部屋の奥にある壁に向かってブレイズガンを数発ぶっ放した!
――思った通り! 扉と違って、壁は脆かったよ! ガラガラと壁が崩れ、人が通れるくらいの穴ができた! 早速、この穴から出て……
「って、外~!?」
崩れた壁の向こうは、何と外! そしてここはビルの十三階! めっちゃ高所!
『よし、飛び降りろ』
「いや、死ぬよ!?」
メタバース内で肉体が傷ついても、現実の肉体は傷つかない! だから無茶をしても大丈夫! ……ってわけじゃない!
メタバース内で肉体が死ぬようなダメージを受けると、脳の機能が停止する! いわゆる脳死状態になっちゃう! つまり、メタバースでも無茶すれば死んじゃうの!
『安心しろ。飛び降りたら俺が何とかしてやる』
「信じていいの!?」
『ああ。だから大の字になってさっさと飛び降りろ』
見上げれば、星空が煌めく夜空。正面を見ると、ネオンが瞬くビルの姿。遥か下には、コンクリートの地面。
この穴から出たら、私はコンクリートの地面に吸い寄せられるだろう。
今の私に与えられた選択肢は二つ。一つは、このまま飛び降りずに悪人たちに捕まるという選択肢。もう一つは、レーゲンくんの言葉を信じてここから飛び降りるという選択肢だ。
「……信じるからね! レーゲンくん!」
私は深呼吸した後、大の字になって穴から外に飛び出した! 直後、勢いよく落下する私の体!
うん! やっぱり地面に吸い寄せられちゃうよね! 知ってた! このまま落下死したらレーゲンくんを呪ってやる!
『ほい、パラシュート起動』
え? パラシュート?
「何が起きたのー!?」
ボシュンと音がした後、私が落下するスピードがとても緩やかになった!
ゆっくり、ゆっくりと地面に近づいている!
『実はフラムのホルスターをこっそりと改造して、パラシュートを仕込んでおいた。すげーだろ』
「勝手に人の私物を改造するのはどうかと思うよ!? 助かったけど!」
レーゲンくんが勝手に仕込んだパラシュートのおかげで、私は落下死することなく緩やかに地面に着地できた!
こ、こわかったぁ……!
「よう。ひでえ顔してんな」
着地地点には、フード付きの青いパーカーを着た少し目つきが鋭い黒髪の男の子――レーゲンくんが立っていた。
「ちょっとレーゲンくん! パラシュートを仕込んでいるなら先に言ってよ! マジで死ぬかと思ったんだけど!」
「度胸が鍛えられただろ。良かったな。これでまたエージェントとして一つ成長できたぞ」
そう言って、レーゲンくんが意地の悪い笑みを浮かべる。
ああ、もう! 意地の悪い笑顔でも、イケメンだと絵になるなあ! 腹立つ!
「……さあ、後は〈リターンポイント〉まで全力で走って現実に帰るぞ。追手が来る前にな」
「了解。現実に帰ったら、美味しいものを奢ってねぎらってよね。レーゲンくん」
「ちっ。仕方ねえな。アイスくらいは奢ってやるよ」
「やった! じゃ、さっさと帰ろ!」
私はレーゲンくんの後を追って、ネオンが瞬くビル街を走り始めた!
メタバースは、いくつかのエリアに分かれている。今、私たちが居るクーロンエリアもその一つだ。そして、エリアの中のあちこちに青い光を放つ円が存在する。それがリターンポイントだ。その円の上に立つと、現実に帰還できるようになっているんだよね。逆に言うと、メタバース内ではリターンポイントに行かないと現実には帰れない仕組みってこと。
――五分程走った頃、前方に青く光る円が見えた。青い円の近くには、クーロン東第三リターンポイントと書かれた電子看板が設置されている。
「飛び込むぞ」
「うん!」
私は頷いた後、レーゲンくんと一緒にリターンポイントの中に飛び込んだ!
ひとまず、現実に帰ろう!
「えっとね……」
扉をくぐった後、私は部屋の中をぐるりと見まわした。
小さな部屋。その片隅に、透明で四角い箱があった。箱の中には赤いシールのような物体が沢山並んでいる。間違いない。これは……。
「〈BP製造機〉を発見したよ」
『そうか。リーク通り、このビルの中にあったな』
BPとは、ブースタープログラムの略だ。
今、メタバース内ではこのBPが絡んだ事件が沢山発生している。
「はあ。何でこんな物を作る人が居るんだろう」
『BPを使えば、メタバース内での身体能力が一時的にかなり向上するからな』
基本的に、現実での身体能力がそのままメタバース内での身体能力になる。そうなるようにプログラムされているみたい。身体への負荷を考慮して、とかそういう理由で。
だけど、BPを使用するとメタバース内での身体能力が一時的に向上する。運動音痴の人でも、BPを使用すれば数十メートル離れたビルからビルに大ジャンプできるようになったり、百メートルを三秒くらいで走れるようになったりするみたい。
「でも、脳への負担がやばいじゃん」
今、全世界で普及しているメタバースは、人間の脳内を繋ぐブレインリンクという技術が使われている。現実で、脳波を読み取る小さな機械のチップをこめかみに貼り付けて、そのまま目を閉じればあっという間に全世界の人々の脳内と繋がるようになっているのだ。
脳内世界と電子技術が融合して生み出された仮想世界。それが、現代のメタバースだ。
で、ここからが問題。現代のメタバースは人間の脳と密接に関係している。だから、脳への負担を考えながら利用しないといけないのだ。
『そうだな。BPを使用すると、脳に多大な負担がかかる。その結果、使い続けると現実の身体に影響を及ぼす。手足が動かなくなったり、記憶障害が起きたりな。最悪、呼吸の仕方を忘れるなんてケースもあるらしいな』
現実の身体に悪い影響を与えて命を脅かすプログラム。それがBPだ。
BPの危険性は周知されていて、メタバース法という法律で規制されている。それなのに、違法品であるBPを製造したり使用したりする人が沢山居るんだよね。
「こんな物、無くなっちゃえばいいのに」
『少しでも減らすために、今俺たちはこうやって任務をこなしているんだろうが。ほら。余計なことをうだうだ考えてねえで、さっさと製造機をぶっ壊しちまえよ』
「そうする」
私は腰のホルスターから銃を引き抜いて、BP製造機に銃口を向けた。
今度使う銃はパラライズガンではない、もう一丁の銃の方だ。
この銃の名前は〈ブレイズガン〉。炎を纏った弾丸を放つ、破壊力が高い銃だ。危険だから人間相手には使えないんだけど、頑丈な物を壊す時には役に立つんだよね。
「はいドッカーン!」
私が引き金を引くと目にもとまらぬスピードで炎の弾丸が放たれ、それの直撃を受けたBP製造機はべっこりとへこんだ! 間違いなく壊れたねこれは! この破壊力、たまらない!
「はいお仕事完了。……って、何!?」
突然、サイレンのような音が部屋中に響いた! これは、何かの警報音!?
『どうやら、BP製造機が停止した時に警報が鳴る仕組みになっていたみてえだな。早く脱出しねえと、BPの製造に関わった悪人どもが押し寄せてくるぞ。もしそいつらに捕まったら……生きて現実に戻ることはできねえかもな』
「さらっと怖いこと言うのやめて!?」
『生きて帰りたきゃ、早く脱出しろ』
そうしよう! とりあえず、扉から出て……。
「いつの間にか扉が閉まっているんだけどー!?」
何故か分厚い扉が閉まっている! しかもこっち側にはパスワードを入力するパネルらしきものがない!
『警報が鳴ったら自動的に扉が閉まって部屋の中に居るヤツを閉じ込める仕組みになっていたんだろ。よくできてんな』
「関心している場合じゃないよ!? どうしよう!」
今の私は袋のネズミならぬ、袋のエージェントって感じだ!
「そうだ! ブレイズガンならもしかして……!」
私はブレイズガンを両手で持ち、扉に銃口を向けた状態で引き金を引いた!
轟音とともに放たれた弾丸が扉に直撃! ……したんだけど、ちょっとヘコんだだけだ! 何発撃っても壊れそうにない! 頑丈すぎるでしょこの扉!
『扉は壊せたか?』
「無理だった! 別の方法を考えないと!」
もう一度、部屋の中をぐるりと見まわす!
……この部屋、窓すらない! 扉がある場所以外は、コンクリートの壁で囲まれている!
「ん? この壁ならもしかすると……」
私は部屋の奥にある壁に向かってブレイズガンを数発ぶっ放した!
――思った通り! 扉と違って、壁は脆かったよ! ガラガラと壁が崩れ、人が通れるくらいの穴ができた! 早速、この穴から出て……
「って、外~!?」
崩れた壁の向こうは、何と外! そしてここはビルの十三階! めっちゃ高所!
『よし、飛び降りろ』
「いや、死ぬよ!?」
メタバース内で肉体が傷ついても、現実の肉体は傷つかない! だから無茶をしても大丈夫! ……ってわけじゃない!
メタバース内で肉体が死ぬようなダメージを受けると、脳の機能が停止する! いわゆる脳死状態になっちゃう! つまり、メタバースでも無茶すれば死んじゃうの!
『安心しろ。飛び降りたら俺が何とかしてやる』
「信じていいの!?」
『ああ。だから大の字になってさっさと飛び降りろ』
見上げれば、星空が煌めく夜空。正面を見ると、ネオンが瞬くビルの姿。遥か下には、コンクリートの地面。
この穴から出たら、私はコンクリートの地面に吸い寄せられるだろう。
今の私に与えられた選択肢は二つ。一つは、このまま飛び降りずに悪人たちに捕まるという選択肢。もう一つは、レーゲンくんの言葉を信じてここから飛び降りるという選択肢だ。
「……信じるからね! レーゲンくん!」
私は深呼吸した後、大の字になって穴から外に飛び出した! 直後、勢いよく落下する私の体!
うん! やっぱり地面に吸い寄せられちゃうよね! 知ってた! このまま落下死したらレーゲンくんを呪ってやる!
『ほい、パラシュート起動』
え? パラシュート?
「何が起きたのー!?」
ボシュンと音がした後、私が落下するスピードがとても緩やかになった!
ゆっくり、ゆっくりと地面に近づいている!
『実はフラムのホルスターをこっそりと改造して、パラシュートを仕込んでおいた。すげーだろ』
「勝手に人の私物を改造するのはどうかと思うよ!? 助かったけど!」
レーゲンくんが勝手に仕込んだパラシュートのおかげで、私は落下死することなく緩やかに地面に着地できた!
こ、こわかったぁ……!
「よう。ひでえ顔してんな」
着地地点には、フード付きの青いパーカーを着た少し目つきが鋭い黒髪の男の子――レーゲンくんが立っていた。
「ちょっとレーゲンくん! パラシュートを仕込んでいるなら先に言ってよ! マジで死ぬかと思ったんだけど!」
「度胸が鍛えられただろ。良かったな。これでまたエージェントとして一つ成長できたぞ」
そう言って、レーゲンくんが意地の悪い笑みを浮かべる。
ああ、もう! 意地の悪い笑顔でも、イケメンだと絵になるなあ! 腹立つ!
「……さあ、後は〈リターンポイント〉まで全力で走って現実に帰るぞ。追手が来る前にな」
「了解。現実に帰ったら、美味しいものを奢ってねぎらってよね。レーゲンくん」
「ちっ。仕方ねえな。アイスくらいは奢ってやるよ」
「やった! じゃ、さっさと帰ろ!」
私はレーゲンくんの後を追って、ネオンが瞬くビル街を走り始めた!
メタバースは、いくつかのエリアに分かれている。今、私たちが居るクーロンエリアもその一つだ。そして、エリアの中のあちこちに青い光を放つ円が存在する。それがリターンポイントだ。その円の上に立つと、現実に帰還できるようになっているんだよね。逆に言うと、メタバース内ではリターンポイントに行かないと現実には帰れない仕組みってこと。
――五分程走った頃、前方に青く光る円が見えた。青い円の近くには、クーロン東第三リターンポイントと書かれた電子看板が設置されている。
「飛び込むぞ」
「うん!」
私は頷いた後、レーゲンくんと一緒にリターンポイントの中に飛び込んだ!
ひとまず、現実に帰ろう!
応援ありがとうございます!
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