エージェント・イン・ザ・メタバース

神所いぶき

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7.ゲーム開始

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 私とレーゲンくんは普段着に着替えた後、ピカリちゃんとミケを含む複数の人たちに囲まれた状態でエリアの移動を行なった。
 移動先はコールマンスコップエリア。砂漠に飲み込まれたゴーストタウンを模したエリアだ。簡単に言うと、砂と廃墟しかない場所だね。
 ここはペイントガンナーズのようなゲームが好きな人たちが集まる場所だ。とにかく広くてのびのびと動けるからね。ペイントガンナーズ専用のフィールドもいっぱい用意されている。
「ふーん。こんなエリアがあったんだな。初めて来たぜ」
「メタバース内のゲームが好きな人には有名なエリアだよ。私もペイントガンナーズをやり込んでいた時にはよく来ていたなあ」
 じりじりと照りつける日差しと、乾いた空気が懐かしい。
「それで、どうやったらゲームを始められるのにゃん?」
「あそこに赤く光ってる装置があるでしょ。あれに触れたらフィールドのあちこちにランダムで飛ばされてゲームスタート。あ、でもチーム戦の場合はチームメイトが離れ離れになることはないから安心して」
 ルールを知らない様子のミケに、ピカリちゃんが説明をしている。
「レーゲンくんも分からないことがあったら聞いてね」
「とりあえず銃で撃ちまくりゃいいゲームなんだろ?」
「めっちゃ素人の発言! それでよく売られた喧嘩を買ったね……」
「売られた喧嘩は買って倍にして売りつけるのがモットーだからな」
 なんで腕組みして得意げなのかな。レーゲンくんは。
「早く遊んでみたいにゃ。ルールはやっている内に覚えていけるはずだから早速やってみるにゃん」
「そうだね。それじゃあ、始めようか」
 そう言って、ピカリちゃんは赤いシール――BPを取り出して自らの腕に貼り付けた。
 ……ピカリちゃんがBPを使用するのは、これで最後にさせてやる!
「ゲームが始まったら速攻であいつらを撃ち抜いて終わらせるぞ。フラム」
「待ってレーゲンくん。ペイントガンナーズはタッグバトルの場合、十組で争うようになっているんだよ。他のチームにも警戒しないと」
「マジか。めんどくせえ……」
 タッグバトルの場合は二十人が広大なフィールドの中で動き回ることになり、その内の十八人は敵ということ。ピカリちゃんとミケだけに気を取られてはいけない。
 ペイントガンナーズは人気のゲームだから、マッチングはあっという間に終わる。まもなく、ゲームが始まるだろう。
「互いに楽しもうにゃん」
 ミケがそう言うのと、機械音声のカウントダウンが始まるのはほぼ同時だった。
 このカウントダウンが終わったら、私たちは広大なフィールドのどこかにランダムで転移させられる。

「絶対に勝つぞ。フラム」
「……うん!」

 三、二、一……ゼロ!
 カウントダウンの終了と同時に私たちの体が赤い光に包まれた! 
 さあ、ゲーム開始だ!

 §

「ラッキー! 廃墟の近くだ!」
 私たちが転移したのは、石造りの古びた廃墟の近くだった。
「何でラッキーなんだ?」
「コールマンスコップエリアは砂漠地帯が多くて身を隠せる場所が少ないんだよね。だから、身を隠せる廃墟は貴重なの。まずはあそこに行くよ!」
「わかった」
 私とレーゲンくんは周りを警戒しながら、石造りの廃墟に向かって走った! 幸い、他のチームは近くに居なさそうだ!
「よし、作戦会議するよレーゲンくん!」
 壊れた扉から廃墟に潜り込んだ後、私たちは作戦会議をすることにした。このゲームに慣れた私はともかく、レーゲンくんは素人。ルールを丁寧に説明しなきゃ。
「転移した後、いつの間にか肩掛けカバンを装備していたでしょ? この中にゲームに必要なアイテムが入っているの」
「へえ。んじゃ、確認してみるか」
 私とレーゲンくんは、カバンの中身を石畳の上に並べていった。
 まず、主力武器になるペイント銃。それから、電子タブレットと懐中電灯によく似た機械。それがカバンから出てきた。
「このタブレットみたいなのは何だ?」
「タブレットを起動したらフィールド内のマップや現在地が分かるよ。あと、半径一キロメートル以内に他のプレイヤーが居たら通知してくれるし大まかな位置情報を教えてくれる。生き残っているプレイヤー数も画面の右上に表示されるよ」
「なるほどな。こっちの懐中電灯みてえなやつは?」
「それはトラップサーチャーってアイテム。近くにトラップがあれば赤く光るようになっているの。トラップに近づけば近づくほど色が濃くなるから、トラップの大まかな位置を探って回避しないとね」
「ふーん。凝ったアイテムだな」
 フィールド内のあちこちにはトラップが隠されている。引っかかったら一定時間動きが止まってしまうスタントラップや、全チームに現在地を知らせてしまうポジショントラップなど、様々なトラップがあるんだよね。なるべくならかかりたくない。
「ねえ。レーゲンくんに提案なんだけど……」
「タブレットとトラップサーチャーを使ってサポートしてほしい、だろ」
「どうして私の考えが分かったの!? レーゲンくんってエスパー!?」
「四ヶ月もいっしょに行動してりゃ考えも読めてくるさ。それに、探索やアイテムを使うのが得意な俺にサポートを任せるのは理にかなっている。それに気づいたのは褒めてやるぞ」
「うわ。偉そう。でも、ありがとね」
「おう。まあいざとなったら俺も銃を使うからな」
「うん。基本的にはサポートで、いざとなったら銃も使う。それがレーゲンくんの役割ね」
 レーゲンくんがサポートをしてくれたら、私は射撃に専念できる。その方がきっと勝率は上がるはずだ。いざという時はレーゲンくんにも銃を使ってもらうけどね。ペイント銃は一人のプレイヤーに一つずつ支給されているから全く使わないのも勿体無いし。
「一応確認しとくぞ。トラップに気をつけつつ、ペイント銃で相手を撃つ。それがこのゲームのルールってことでいいのか?」
「うん。基本的にはその考えで合っているよ」
「やっちゃいけないこととかねえのか?」
「ペイント銃以外で相手を攻撃するのはルール違反になるよ。やっちゃいけないのはそのくらいかなあ」
「ふーん」
 レーゲンくんがかすかに笑った気がする。特に面白い話はしていないと思うんだけど、どうしたんだろうね。
「他に聞きたいことはある?」
「いや、大丈夫だ。ルールは把握したし、とりあえずマップを確認っと。……ん?」
 タブレットを起動したレーゲンくんが驚いたような声を出した。
「どうしたの?」
「画面の右上に残り九組って書いてあんぞ」
「もうやられたチームが居るみたいだね……」
 油断できない。私たちもやられないように気をつけなきゃ。
「それと、北の方角に他プレイヤーの反応がある」
「距離はどのくらい離れていそう?」
「六百メートルってとこだな。どんどんこっちに近づいているぞ」
「向こうも私たちの位置を捕捉しているはず。迎え撃たないと……」
 私とレーゲンくんは、建物の中を移動して北側に向かった。
 おっ。ガラスがハマっていない窓枠を発見。少し顔を出して外の様子を見てみよう。
「男の子が二人いるねえ」
 窓枠から少し顔を出すと、砂漠を歩く男の子たちの姿が見えた。ピカリちゃんとミケのコンビじゃなくて残念なような、ちょっと安心したような……。
「倒せそうか?」
 レーゲンくんの言葉に、私は頷いた。
 結構距離が離れているから、慣れていない人は弾を当てることは難しいと思う。だけどこのゲームに慣れていて、エージェントとしても腕を上げた私にとっては余裕だ。
「今だ!」
 反撃の暇は与えない!
 私は窓枠から半身だけ体を乗り出し、男の子の片割れに向けてまず一度引き金を引いた! その後、すぐにペイント弾を補充してから違う男の子に照準を向け、素早く引き金を引く!
 もし今の二発を外していたら反撃を食らう恐れがある。だけど反撃は来なかった。二発とも、見事に男の子たちに当たったからだ! ペイント弾で服が赤く染まった男の子たちが悔しそうな表情を浮かべている。
「バッチリ倒したよ!」
「流石だな。これで残りは八組……じゃねえな。いつの間にか六組になってんぞ」
「私が倒した子たち以外にも、二組退場したんだね」
 ピカリちゃんたちが退場していたら安心なんだけど、そううまい話はないよね。きっと、あの二人は生き残っている。
「なあ。思ったんだが、ここで待ち伏せしていたら楽に勝てるんじゃねえか?」
「そう甘くないんだよね。戦況が動かない膠着状態が続くと、ランダムで転移させられる仕組みになっているから」
「なるほど。まあ全員が待ち伏せ作戦を取ったらいつまで経ってもゲームが終わらねえもんな」
「そういうこと。でも、戦況が動いている内は遮蔽物が多い場所で待機していた方が安全だからしばらくここに居ようか」
「わかった。んじゃ、俺はタブレットを見て周りを警戒しとく」
 しばらくの間、私たちは周囲を警戒しながら建物の中で待機した。
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