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8.良い考え

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 五分ほど経過したけど、残り六組のまま変化はないようだ。
「うおっ。体が赤く光り始めたぞ」
「膠着状態だと判断されたっぽい。多分、今からフィールド内のどこかに転移させられるよ」
 この赤い光は、もうすぐ転移が始まるという合図なんだよね。
「ちっ。せっかく安全な拠点でゆっくりしていたのによ」
 私たちの体を包む赤い光が輝きを増していく。転移が始まりそうだ。
 願わくば、次の転移先の近くにも建物がありますように。
「めっちゃ砂漠だったー!」
 願い虚しく、私たちが転移した先は見晴らしが良い砂漠だった。近くに建物は見えない。
「やべえな。身を隠せそうなもんがねえぞ」
「うん! めっちゃやばい! レーゲンくん、周囲の様子はどう!? プレイヤーの反応はある!?」
「南東約八百メートルにプレイヤーの反応ありだ」
「どうしよう。身を隠せる場所まで移動するか、逆に攻めるか……」
「マップを見た感じ、近くに建物はねえな。攻めた方が良いかもな」
「近くに建物がなくて身を隠せないのは相手も同じだもんね。先手必勝で行こう」
 私とレーゲンくんは前方を注視しながら南東に向かった。相手の姿が見えたらすぐに撃ってやる。
「待て。トラップサーチャーが反応した」
 もうすぐ相手が見えるかも。そう思った頃にレーゲンくんに止められた。このまま進むとトラップに引っかかりそうだ。
「まずい! ちょっと引き返そうか!」
 私とレーゲンくんはトラップを回避するために来た道を少し引き返すことにした!
 トラップサーチャーが反応した場所から百メートルくらい離れたかな、と思った時……
「うおっ!」
 レーゲンくんの足元に赤い水溜りができた! 相手がペイント弾を撃ってきたんだ!
「レーゲンくん! 距離を取りつつ反撃して!」
「相手の姿も見えねえのに撃っても当たらねえと思うぞ!」
「当たらなくていいの! 相手を焦らせて距離を詰めさせる!」
「よく分からんが適当に撃ちまくるからな! 失敗しても恨むなよ!」
 レーゲンくんは後ろ向きに走りながらペイント弾を撃った!
 多分、これは当たらない! だけど……
「何だ!?」
 引き返す寸前まで私たちが居た場所の近くに、轟音とともに青い稲妻が落ちた!
「よし! 相手がトラップにかかった! 青い稲妻が落ちたってことはスタントラップだね! しばらく動けないはずだから今のうちに!」
 青い稲妻が落ちた方に向かって、私たちは走る!
 ――少し走ると見えてきた! 金髪と銀髪の男女のコンビが!
 ん? さっき見た顔だなあ。
 おっと、ボーっとしている場合じゃないね! スタントラップの効果が切れる前に仕留める!
「当たれっ!」
 私は金髪の女性に狙いを定めて引き金を引いた後、すぐに銀髪の男性に銃口を向けてもう一度引き金を引いた!
「よっしゃ! 当たってるぜ! 流石フラムだ!」
 ペイント弾は、見事に二人の男女の胸あたりにヒット! 何とか危機を切り抜けたようだ!
「レーゲンくんのおかげだよ。レーゲンくんが撃ちまくって相手にトラップサーチャーを使わせる間を与えずにトラップがある場所に誘いこんだから何とかなった」
「そっか。あれも作戦の内だったんだな」
「うん。私たちの作戦勝ちだね」
「ひやひやしたけど何とかなって良かったぜ。……にしても、何でこいつらがこのゲームに参加してるんだよ」
 私たちが今倒した相手。それは恋空チヒロと恋空ダイチだった。
「えっと、恋空さんたちは講演会をしているはずじゃ……」
「よくご存じね! 確かにわたくしたちはラブの素晴らしさを伝える講演会をしていましたわ! しかし!」
「休憩時間が終わると参加者が消えていたのだ!」
「ミステリーですわ~!」
 私たちもその消えた参加者に含まれています。ごめんなさい。
「そりゃ話があんなにクソつまらなけりゃみんな帰……」
「レーゲンくんストップ! 世の中には言わない方が良いこともあると思うな!」
 たとえそれが真実であってもね!
「せっかく講演会をメタバース中に配信していたのに、参加者がいなくなってしまってはな!」
「そう思ったわたくしたちはゲーム実況で盛り上げようとしましたわ! 負けましたが!」
 つまり、講演会ができなくなったからゲーム実況に切り替えて、それで私たちと戦うことになったってわけか。うーん、すっごい偶然。
「ああ、わたくしたちのラブパワーが負けるだなんて! 何かの間違いですわ~!」
「次こそは勝とう! ラブの力をより強くして、そこの恋人たちのラブを超えてみせるのだ!」
「ええ! 負けっぱなしではいられませんわね! 覚えておきなさい! あなたたちのラブパワーをいつか超えてみせますわ~!!」
 好き放題言った後、恋空チヒロと恋空ダイチは赤い光に包まれて消えた。
 ゲームに負けたら、一定時間経過後にフィールドの外へと転移する仕組みなんだよね。
「何だったんだあいつら……? ラブラブ言い過ぎだろ」
「しかも私とレーゲンくんを恋人同士だと思い込んでいたね」
「ま、まったく。変な誤解しやがって」
 レーゲンくんは腕組みしながら、私から目をそらした。恋人同士と思われたのが嫌だったのかな? そうだとするとショックかも。
 おっと。いけないいけない。今は勝つことだけ考えないと。
「……とにかく、ゲームに集中しようか。マップを確認してくれる? レーゲンくん」
「ああ」
 レーゲンくんは頷き、タブレットに視線を移した。その瞬間、レーゲンくんが目を見開く。
「どうしたの?」
「残り二組って表示されてんぞ」
「ええっ!? 短時間で減りすぎでしょ!」
 相手を倒すか、相手に倒されるか。それで終わり。
 いつの間にか、ゲームはそんな段階になっていた。
「残った相手は、やっぱりあいつらか?」
「多分ね。ピカリちゃんは元々このゲームが上手かった。それに加えてBPで身体能力も上がっているから、並の相手には負けないと思う」
 私とレーゲンくん対ピカリちゃんとミケの戦いになりそう。いや、すでになっている。間違いなく。
「近くにプレイヤーの反応はねえが……」
「しばらく反応がなければ、また膠着状態扱いになって転移されるはず。それを狙って待機しようか」
「下手に動くよりそうした方が良さそうだな」
 私たちはマップを見つつ周囲を警戒し、時間が過ぎるのを待った。
「なあ、フラム。もし相手があいつらだったら、俺に良い考えがある」
「良い考え?」
 私は集中し、レーゲンくんが言う良い考えとやらを聞いた。

 レーゲンくんが話し終わった直後、私たちの体が赤い光に包まれる。
 膠着状態だと判断されたようだ。
「レーゲンくん。もしできそうだったら、レーゲンくんの良い考えを採用するね」
「ああ。きっとうまくいく」

 ……もうすぐ、転移が始まる。
 今度は身を隠せる建物の近くでありますように。そう祈っている最中に、私たちは転移した。 
「ラッキー! 建物発見!」
「建物っていうか、残骸だけどな」
 屋根がないボロボロの廃墟。転移してから真っ先に目に入ったのはそれだった。
 でも壁があるから身を隠すのに使える! さっきみたいに砂だけしかない場所に転移されるより何倍もマシだ!
「よーし、早速あの壁がある場所に……」
「待てフラム! すぐ近くにプレイヤーの反応がある! 北西三百メートル先だ!」
 タブレットを見たレーゲンくんがそう叫ぶのと、三毛猫のメタロイド――ミケが猛ダッシュで迫ってくるのが見えたのはほぼ同時だった!
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