上 下
3 / 24
第1章 入学試験は命がけ!?

2.優しいおじさん

しおりを挟む
「おや。もしかして入学試験を受けに来た子かい?」
 校舎裏に向かって歩こうとした時、私の後ろから声がした。
 振り向くと、そこには警察官の制服のようなものを着た細身のおじさんがいた。多分、三十代くらいかな? 結構整った顔をしている。イケおじって感じ。
「はい。入学試験を受けに来ましたけど……あなたは誰ですか?」
「MCCアカデミーの警備員だよ。気軽に、おじさんって呼んでもいいからね」
 ああ。このおじさんは警備員さんなんだ。警察官の制服と警備員さんの制服って似ているよね。納得。
「分かりました! おじさん!」
「うん。素直でよろしい。ごほうびに、おじさんが試験会場までの道案内をしてあげよう」
「いいんですか!? やったー!!」
 もし迷子になったら大変だもんね。道案内してくれる人が居てよかった!
「こっちだよ。ついてきて」
「はーい!」
 警備員のおじさんの後に続いて歩きながら、私は校舎をじっくりと眺めた。
 やっぱり外国のお城みたいで素敵な見た目をしているなあ。てっぺんにはオシャレな時計台もある。
「威厳があって、とても立派な校舎だよね。でも、五年前はここに別の建物があったんだよ。知ってるかい?」
「……知ってますよ。『嵐桜タワー』ですよね」
「そうそう。人間と魔族が仲良く暮らせますようにって祈りを込めて建てられたのが、嵐桜タワーだった。八年前に世界が一変して、人間と魔族の間にも色々あったからねえ」
 
 そう。このおじさんが言う通り、約八年前に世界は一変した。
 私がもうすぐ五歳になるという頃まで、この世界に魔法や魔法使いは存在しなかった。
 
 全ての始まりは約八年前の四月九日。私たちが暮らす嵐桜市周辺で『混界化』が起きたのだ。混界化とは、別の世界の一部が地球と混ざってしまった現象のこと。
「混界化が起きた時に私は小さかったからなんとなくでしか覚えていないんですけど、きっとみんなびっくりしたでしょうねー」
「びっくりなんてもんじゃないよ。魔族やモンスターが現れるわ、一部の人間がいきなり魔法を使えるようになるわでもう大混乱だった」
 地球と混ざってしまった世界の一部には、『魔族』と呼ばれる生き物と『モンスター』と呼ばれる生き物が存在した。
 魔族の方は言葉が通じるんだけど、オオカミやトラ、ウサギにトカゲ――色んな動物の顔をした二足歩行する生き物で、人間とは大きく姿が違う。そのうえ、魔法を扱うことができる。
 だけど、モンスターの方は言葉が通じない。しかも、人間も魔族も関係なく襲い掛かってくる。とても狂暴な生き物だ。
 コントロールは悪い魔法使いと戦うこともあれば、モンスターと戦うこともあるみたい。まあ、それはそうだよね。誰にでも襲い掛かってくる狂暴な生き物なんて悪だし! 正義の魔法使いが放っておくわけないよ!
「まあ、何だかんだで人間と魔族で協力して生きていこうって流れになって、その誓いの証として嵐桜タワーが建てられたわけだけど……」
「……レッドフェイスに破壊されてしまった」
「そうだね。嵐桜市に住んでいれば、五年前のことは知っているか」
「はい。それに、五年前――タワーが破壊された時に私もその場に居ましたから」
 私がそう言うと、おじさんは「ええっ!?」と声を上げて驚いた。

 五年前――私がもうすぐ八歳になる頃。嵐桜タワーの完成記念イベントがあった。私のパパは警察官として、そのイベントの警備を行っていた。そして私は、パパがお仕事をする姿を見たくてタワーに来ていたのだ。
 おいしい食べ物を出す屋台が沢山あったし、歌や踊りのステージもあったし、人間も魔族もみんな笑顔で、とても楽しいイベントだった記憶がある。……レッドフェイスが、タワーを爆破するまでは。
「……って、暗い気持ちになるからこの話はやめましょう! 今は入学試験に集中したいので!!」
「ああ、ごめんね。試験前にするような話じゃなかった。……丁度、試験会場に着いたしね」
 前方に、二人の人間と一人の魔族が見える。きっと、この三人が、私の他に入学試験を受けに来た人たちだ。
「案内、ありがとうございました! おじさん!」
「どういたしまして。試験、頑張ってね」
 おじさんは左手をひらひらと振りながら、来た道を戻っていった。
 よし、私は進もう。まずは、前方に居る三人にバシッと自己紹介をしなきゃね。
 でもその前に、他に試験を受けに来た人たちを遠くから少し観察してみよう。
「……かっこいいし、かわいい!」
 真っ先に目に入ったのは、黒髪の男の子だった。すらりとした体型で、目つきは少しするどい。白いシャツと薄手の黒いパーカー、薄いベージュのズボン。それらを着こなしていて、オシャレでかっこいい!
 男の子から少し離れた場所には、黒茶色の髪をツインテールにした女の子が立っていた。身長が低めで、とてもかわいい! 眼鏡をかけているんだけど、それがすごく似合っている!
 そんな女の子の近くには、薄い緑色の毛皮を持つ犬の男の子が立っていた。あの子はきっと魔族だ。柴犬っぽい顔をしていて、かわいい! 緑のラインが入った黒いジャージを着ているけど、だぼだぼしていてそれもまたかわいい!

「よし! 頑張って自己紹介しなきゃ!」
 何事も最初が大事! 自己紹介をバッチリと決めなきゃ! そして、仲良くなるんだ!
しおりを挟む

処理中です...