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第2章 入学初日からハードすぎる!

16.予告状

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§

「ごちそうさまでした!」
 どの料理も本当に美味しかった! でも、そのせいで食べ過ぎてお腹パンパンだよお……。
「邪魔をするぞ」
 食べ終わったし、後片付けを始めよう。そう思ったタイミングで、ホールに見知らぬ魔族が入ってきた。
「どうも。校長先生」
 突如現れた、薄い緑色の毛皮に全身を覆われた狼の魔族にレンさんがそう声をかけた。
 この、視線だけで人を射抜いてしまいそうな厳つい顔をした魔族が校長なの!? 校長というより、マフィアのボス感がある! 黒いスーツを着ているし!
「汝らが新入生だな。我が名はギアガル。この学校の校長だ」
 地の底から響くような低い声だ。威圧感がすごい!
「は、はじめまして! 私は……」
「汝らの挨拶は不要だ。事前に書類を見て、大まかな情報は把握している」
 うう。挨拶しようとしたら不要って言われた。かなりショック。
「どうしたんですか、校長先生。いつも以上に険しい顔をしていません?」
「その理由は、間もなく分かる」
 突然、ホールに電子音が響いた。音の出どころは、さっきレンさんが私たちに渡してくれたスマホだ。
「ミッション発令?」
 スマホの画面に表示された文字を読み上げると、レンさんが目を見開いた。
「校長先生。まさか、もう……?」
「ああ。入学早々悪いが、一年生にミッションをこなしてもらう」
 スマホをタップすると、赤い手紙のようなものが写った画像が表示された。それを見た私は、思わずカヤトくんの方を見てしまう。
「レッドフェイスの予告状じゃねえか……」
 カヤトくんの体が震えている。多分、怒りのせいだ。
「レッドフェイス。火属性の魔法を悪用し、各地で爆破テロを起こしている凶悪犯罪者でござるな……」
「そうだ。その凶悪犯罪者が、ついさっきネット上に犯行予告を出した」
 私は、予告状に書かれた文字を読んでごくりと喉を鳴らしてしまった。信じられないことが書かれていたからだ。

〈次の公演は四月九日の正午。舞台は人魔の塔の跡地に建つ魔法の学舎。桜舞う地で、五年ぶりに狂騒の宴を始めよう〉

「これって、まさか……」
「間違いないだろう。レッドフェイスの次の標的は、このMCCアカデミーだ」
 人魔の塔というのは恐らく、五年前に爆破された嵐桜タワーのこと。その跡地に建つ魔法の学舎は……MCCアカデミーとしか考えられない。
「五年前ぶりに狂騒の宴を始めるだと!? ふざけんな!」
 カヤトくんが、机に拳を打ち付けた。それを見たウィガルくんがびっくりしている。怒りをあらわにするカヤトくんを横目で見ながら、チトセちゃんが口を開いた。
「確か、レッドフェイスが爆破テロを起こす場所にはある共通点があったはずなのです」
「人と魔族が共に集まる場所だね」
 レンさんが、顎に手を置きながらそう呟く。
「余計な衝突を防ぐために、人間と魔族の生活圏は区切られていることが多いのです」
「でも、例外はあるでござる。このMCCアカデミーのように」
 その例外を狙うのが、レッドフェイスだ。何故人間と魔族が共に集まる場所を狙うのかは分からない。だけど、レッドフェイスがやっていることは悪。それだけは確かだ。
「『レッドフェイスの計画を阻止し、MCCアカデミーを防衛せよ』……これが、汝らに与えられたミッションだ」
 入学初日に、とんでもないミッションが発令されてしまった。まさか、この学校が狙われるなんて。しかも、狙っている相手が私とカヤトくんの家族を奪った悪の魔法使い――レッドフェイスだなんて。
「言われなくても、あいつの企みはオレが阻止してやる!」
「カヤトどの……。妙に気合が入っているでござるな」
「そういえば、ウィガルくんとチトセちゃんにはまだ話していなかったね。実は……」
 五年前の嵐桜タワーに私とカヤトくんが居たこと。そこで、レッドフェイスの手によって家族の命が奪われたこと。その事件がキッカケで、MCCアカデミーに入学したこと。それらを、私はウィガルくんとチトセちゃんにも話した。
 シルティアの仲間には隠し事をしたくないからね。カヤトくんも、それらを話すことに特に不満はない様子だった。
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