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第二章 火の女神リクシスの加護
31 火の神殿での修行 ④
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火の神殿がわずかに揺れている。
リクシスさんの手のひらには、青白く光る魔法陣が浮かんでいた。
「アイスニードル」
そう詠唱したリクシスさんは腕を伸ばす。その瞬間に氷の刃がいくつも現れ飛んでいく。その方向にはクリスタルスライム、通称クリちゃんがいたのだが。
ガガガガガガ、と氷の刃が大理石の床に突き刺さり、クリちゃんの進路を塞いだ。驚いたクリちゃんは急ターンする。しかし、また、ガガガガガ、と氷の刃が撃ちこまれ、クリちゃんはあっといまに氷に囲まれてしまった。
すると、グイっと上を向いたクリちゃんは飛びあがって新しい逃げ道を見いだす。その瞬間だった。
ブンッ! とリクシスさんが竜槍ゲイブルガを投げた。
クリちゃんは虚空の舞った状態では、その動きが鈍る。リクシスさんは、そこを見逃さなかった。高速で飛んでくる槍に、クリちゃんは、グサリと貫かれてしまう。
「ギュルル」と鳴いたクリちゃんは、パンッと粉々に砕け散った。キラキラと舞う水晶のきらめきのなかで、リクシスさんの不敵な笑みがこぼれる。
それを見た僕はなぜだか涙があふれた。さっきまで、あんなに元気いっぱいに飛び跳ねていた生き物が、一瞬で命を散らす。ああ、なんて切なくて儚いんだ。
「ラクトくん。なぜ泣いているのですか?」
「……生き物を殺すことに、僕は戸惑いがあるようです」
「なるほど、心が優しいことが弱点とは、このことでしたか」
「……すいません」
「いいんですよ。もしかしたらラクトくんのそういうところが、私は好きなのかもしれません」
「……え?」
「優しい気持ちですか……あらゆる生物を焼き尽くしてきた私には、ない感情です」
微笑んだリクシスさんは、パチンと指を弾いた。
すると、空間が歪み、一筋の黒い次元から、ぽとっと光り輝く物体が落ちた。よく見ると、それはクリスタルスライムだった。
「クリちゃん!」
「あまりにもラクトくんが泣くから、復活させてあげましたよ」
「よかったぁぁぁ! クリちゃぁぁぁん」
思わず、僕は駆けだしていく。ギョッとしたクリちゃんは逃げたが、無我夢中で駆ける僕はついにクリちゃんを抱きしめることができた。
「クリちゃぁぁぁん! 生き返ってよかったぁぁ!」
「……ラクトくん、足はやっ」
僕はほっぺたをクリちゃんに当ててすりすりした。
ああっ、冷たくて、気持ちいぃぃ♡
すると、背後から黒い影が伸びてきた。リクシスさんが立っているのだが、その表情は暗い。
「ラクトくん、いまがチャンスですよ。クリちゃんを倒してください」
「え? でも……」
「さあ、その手に持つクリスタルソードで突いてやればいいのです。それだけで、ラクトくんの魔力は大幅にレベルアップしますから」
「で、でも……」
「大丈夫です。クリちゃんならまた復活しますから」
「本当ですか?」
こくり、とリクシスさんはうなずいた。
「キュルル」
と鳴いたクリちゃんは、殺されちゃうの? と言わんばかりの顔を僕に向けてきた。ふと、リクシスさんを見ると、真剣な顔で、首を縦に振った。“殺れ”と言うことだろう。
僕は左手でクリちゃんを抱えながら、右手で剣を掲げた。
震える、剣の切っ先。
殺る。僕は殺ってレベルアップするんだ。そうすればリクシスさんに認められて友達になることができる。よーし、殺るぞ……。僕は剣のグリップを強く握った。
そのとき、クリちゃんのつぶらな瞳から、涙がこぼれ落ちる。ころん、ころん、と大理石の床に、きらりと光る水晶の欠片が転がっていく。その音色があまりにも美しくて……僕は……とても……。
「できません」
からん、と落ちたクリスタルソードの乾いた音が火の神殿に響きわたる。リクシスさんは肩を落としたが、すぐに笑みを浮かべると口を開いた。
「不合格です」
リクシスさんの手のひらには、青白く光る魔法陣が浮かんでいた。
「アイスニードル」
そう詠唱したリクシスさんは腕を伸ばす。その瞬間に氷の刃がいくつも現れ飛んでいく。その方向にはクリスタルスライム、通称クリちゃんがいたのだが。
ガガガガガガ、と氷の刃が大理石の床に突き刺さり、クリちゃんの進路を塞いだ。驚いたクリちゃんは急ターンする。しかし、また、ガガガガガ、と氷の刃が撃ちこまれ、クリちゃんはあっといまに氷に囲まれてしまった。
すると、グイっと上を向いたクリちゃんは飛びあがって新しい逃げ道を見いだす。その瞬間だった。
ブンッ! とリクシスさんが竜槍ゲイブルガを投げた。
クリちゃんは虚空の舞った状態では、その動きが鈍る。リクシスさんは、そこを見逃さなかった。高速で飛んでくる槍に、クリちゃんは、グサリと貫かれてしまう。
「ギュルル」と鳴いたクリちゃんは、パンッと粉々に砕け散った。キラキラと舞う水晶のきらめきのなかで、リクシスさんの不敵な笑みがこぼれる。
それを見た僕はなぜだか涙があふれた。さっきまで、あんなに元気いっぱいに飛び跳ねていた生き物が、一瞬で命を散らす。ああ、なんて切なくて儚いんだ。
「ラクトくん。なぜ泣いているのですか?」
「……生き物を殺すことに、僕は戸惑いがあるようです」
「なるほど、心が優しいことが弱点とは、このことでしたか」
「……すいません」
「いいんですよ。もしかしたらラクトくんのそういうところが、私は好きなのかもしれません」
「……え?」
「優しい気持ちですか……あらゆる生物を焼き尽くしてきた私には、ない感情です」
微笑んだリクシスさんは、パチンと指を弾いた。
すると、空間が歪み、一筋の黒い次元から、ぽとっと光り輝く物体が落ちた。よく見ると、それはクリスタルスライムだった。
「クリちゃん!」
「あまりにもラクトくんが泣くから、復活させてあげましたよ」
「よかったぁぁぁ! クリちゃぁぁぁん」
思わず、僕は駆けだしていく。ギョッとしたクリちゃんは逃げたが、無我夢中で駆ける僕はついにクリちゃんを抱きしめることができた。
「クリちゃぁぁぁん! 生き返ってよかったぁぁ!」
「……ラクトくん、足はやっ」
僕はほっぺたをクリちゃんに当ててすりすりした。
ああっ、冷たくて、気持ちいぃぃ♡
すると、背後から黒い影が伸びてきた。リクシスさんが立っているのだが、その表情は暗い。
「ラクトくん、いまがチャンスですよ。クリちゃんを倒してください」
「え? でも……」
「さあ、その手に持つクリスタルソードで突いてやればいいのです。それだけで、ラクトくんの魔力は大幅にレベルアップしますから」
「で、でも……」
「大丈夫です。クリちゃんならまた復活しますから」
「本当ですか?」
こくり、とリクシスさんはうなずいた。
「キュルル」
と鳴いたクリちゃんは、殺されちゃうの? と言わんばかりの顔を僕に向けてきた。ふと、リクシスさんを見ると、真剣な顔で、首を縦に振った。“殺れ”と言うことだろう。
僕は左手でクリちゃんを抱えながら、右手で剣を掲げた。
震える、剣の切っ先。
殺る。僕は殺ってレベルアップするんだ。そうすればリクシスさんに認められて友達になることができる。よーし、殺るぞ……。僕は剣のグリップを強く握った。
そのとき、クリちゃんのつぶらな瞳から、涙がこぼれ落ちる。ころん、ころん、と大理石の床に、きらりと光る水晶の欠片が転がっていく。その音色があまりにも美しくて……僕は……とても……。
「できません」
からん、と落ちたクリスタルソードの乾いた音が火の神殿に響きわたる。リクシスさんは肩を落としたが、すぐに笑みを浮かべると口を開いた。
「不合格です」
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