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   第三章  勇者パーティの没落

  1  皇帝からのクエスト ①

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「勇者たちよ。集まってもらったのは他でもない。君たちも知っておると思うが、最近の魔族ときたら、まったくもってけしからん……」

 ここはフバイ帝国の宮殿、謁見の間。
 玉座で話す神妙な面持ちの皇帝は、四十代のイケオジという風貌で、きらめく緑の瞳は知性をたたえ、昨今の魔族の動向と帝国の情勢について熱く語っていたのだが……。

 その話しがやけに長い。学園長の話しくらい、なが~い。
 魔族の忌々しさと、予算を軍事にまわすよりも建設に当てたいという愚痴をこぼしつづけ、もう小一時間になる。

「はぁ~」

 もうわたしは眠くて、眠くて、ふぁ……。あくびを必死で堪えていた。はやくクエストの話をしないかな、と思っていると、わたしは気が緩み、大きなあくびをしてしまった。
 
「ふぅわぁ~~」

 あ! イケナイ、わたしは急いで口もとを手で隠す。
 誰にも見られていませんように……。
 おそるおそる、集まっていた四名の勇者様たちを観察した。みんなの顔色は明るくて、覇気に満ちあふれている。絢爛豪華な玉座につく皇帝が最終的になにを言うのか、ワクワクしながら耳を傾けている様子がうかがえた。結局のところ、勇者様たちは男らしい野望がある。つまり……。
 
 地位と名誉が欲しいのだ!

 そのためには、皇帝から命令された困難なクエストを制覇しなければならない。みんなガチで本気なのだ。真の勇者になれば、ワンチャン、皇帝、唯一の子孫である皇女セイレーンの婿となり、次期帝王の座につける可能性があるのだから……。
 
 そんななか、わたしの勇者様であるアフロ様がいきなり、
 
「なあ」

 と声をかけてきた。
 
「ノエル……すまん」
「どうしました? 皇帝のお話をちゃんと聞いてないと怒られますよ」
「いや、ちょっとトイレに……皇帝の話、あとで教えてくれ、なっ」
「ええーっ? ちょっ、アフロ様?」

 わりっ、と言って片目を閉じ、手刀を切ったアフロ様は、ささっと風のように消えた。すると、ミルクちゃんが反応を示した。なにかを感じとったみたい。本当にこの子は勘が冴えている。
 
「ううむ……怪しいですね。アフロ様。もしかして皇女セイレーンに会うつもりでしょうか?」
「くそっ」

 イラついて壁を殴るアーニャさん。
 華やかに彩られた宮殿の壁に、ドガッと穴があいている。
 あ、まずい……。
 と、思ったわたしは近くにあった甲冑模型を動かして穴を正面から隠しておいた。やれやれ、アーニャさんは短気だから困ってしまう。特にアフロ様のことになると熱があがる。
 
 まあ、それもわかる。
 
 たしかに、アフロ様が他の女性とイチャイチャしてる、なんて思ったら気が動転しても無理はない。現にわたしがそうだったから、アーニャさんの気持ちは理解できる。だが、そんな初々しいわたしはもういない。もうすっかり熱が冷めていた。アフロ様が誰となにをしようが、もうどうでもいいし、興味もない。

 それにしても……。

(アフロ様、トイレでなにをする気かな?)
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