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1、ガラスの館
しおりを挟む私、子爵令嬢ルルフィーナにとって、今日は人生最高に最低な1日でした。
というよりも、私の人生自体うまくいかないことの方が多かったように思います。
家族は、野心の強いお父様とお兄様、そして病弱なお母様。
そして、お父様に家族を支える為だと言われ、第8皇子エドガー様と婚約を結んだのはまだたった12歳の頃でした。
その時から6年間、私なりに誠意を持ってお支えしてきたつもりでしたが、今日、婚約を破棄されてしまいました。
「僕はお前みたいな、面白みのない女だとと一生すごすような人間ではない!
真実の愛を育む天使を探しに行くんだ!」
そう言って婚約破棄した王子様、私の苦労も知れるというものだと思いますが……
「なぜ私が結んできた婚約がなくなったのだ!」
帰ってきてお父様に報告をすると途端に部屋に怒声が響き渡りました。
お父様とお兄様の野心の強さを知っていて、自分を出世のコマとしか見ていないことを重々承知していた私ですが、これにはかなり傷つきました。
「家族」ではなく、所詮は「道具」
役に立たなければ、何の意味もないのだということです。
こうして、婚約者からも家族からも十分に傷つけられたと思っていた私でしたが、まだまだ甘かったのです。
「これからしばらくはこの、王都屋敷にいても醜聞になるだけだろう。領地の離れ屋敷に滞在することを命ずる」
えっ、そんなこと……
この王都から馬車で半月近くかかる領地の中でも、離れ屋敷はとんでもない僻地。
そんなところに行くなんて、閉じ込められるのとそう変わりません。
「お前ももう18歳になっている。今からでは、家のためになる縁を探すこと自体が難しくなっているが、少なくともお前がこの辺りをウロウロするよりはマシだ」
お父様は本気のようです。
どうしたら良いのでしょう。
「そんな顔をしても無駄だ!役立たずは離れ屋敷で反省していろ」
そう言われてお父様のお部屋から出された私は、もう次の日には、領地へ向かって旅立ちました。
***
長い旅路を経てたった1人屋敷へ入った私。
最低限屋敷の管理をする人はいるものの、全く知らない人たち。
そればかりか、彼らにとって私は厄介者以外の何者でもありません。
しかも、なぜここへ送られてきたのか?という少しばかりの興味も含んだ視線を投げかけられて、嫌になってしまいます。
そんな私はとにかく屋敷から出ることにしました。
いない方が、私にとっても、屋敷の皆にとってもいいと思うのです。
とはいえ、屋敷の周りにあるのは雄大な自然、という名の山です。
ほとんどが山です。
その中に数軒の民家がぽつぽつと建っているだけ。
そんな中でひときわ目を引く建物がありました。
なんと、ガラス張りなのです!
ガラスは壊れやすく、とても高いものですので窓ガラスの建物は王都にだってそうそうありません。
そんな貴重なものが、なぜこんなところにあるのでしょう?
もしお父様ならこんなところではなく、王都に作るでしょうから、我が家とは関係ない人が作ったのかもしれません。
とっても気になってしまうので、少し近づいてみることにしました。
周りの家よりも高く作られた囲いの隙間から中を伺う私は、十分に不審者であったでしょうし、貴族令嬢としてあまりよろしくない振る舞いであることもわかっております。
でもそんなこと気にならないくらいに素晴らしいものなのです!
私でもそうそうお目にかかることもないほど透き通ったガラスが全面に使われており、中にはなにかの植物でしょうか?緑が生い茂っています。
普通に見れば、これだけ緑豊かな土地でわざわざ高いガラスの建物を作っているというだけで、だいぶ変わった方が作っておられるのかもしれません。
でも、もしかするととっても重要な研究が行われているかもしれないのです。
自分だけの秘密を見つけたみたいで、心が踊りました。
囲いをこえてもう少し近づいてみようかどうか、考えていると中で何かが動きました。
咄嗟にまずいと思って飛び退きかけてガサガサと大きな音を立ててしまい、更にびっくりしました。
しかし、中の人はこちらに気付く様子はありません。
普通に考えれば中に人はいるはずで、その人はここの所有者なのです。
そこまで考えて閃きました。
「もしかすると、もっと近くで見せてもらえるかもしれませんわ!」
そう気づけば、早速行動です。
とりあえず入り口を探さなければいけません。
一周くるっと回ると私が先程いた所とちょうど逆側に木の扉がありました。
コンコン
ノックをするとすぐにドサドサと何かが崩れるような音がしました。
気づいてもらえているのだとは思いますので、少し待ってみます。
「……はい?」
中から出てきたのは綺麗な銀髪に葉っぱがくっついてる、ちょっと残念そうな男の人でした。
「……どちらさん?」
「初めまして。私、最近引越して参りました、ルルフィーナ・フォン・フートと申しますの。よろしくお願いしますね」
「はぁ……」
何とも気の抜ける返事です。
「ん……?フート……?」
別に構いませんけど、かなりのんびりしたペースの方のようですね。
「あぁ、領主さんかぁ……」
「何を考えていらっしゃるのかと思ったら、そこでしたか。私、領主の娘のルルフィーナと申します」
名前を忘れられそうな雰囲気の方なので、もう一度名乗ってみました。
「あぁ、うん、領主さんね……それで、何の用……?」
「特に何と言うわけではありませんが、とても素敵な建物でしたので……
もしよかったら見せていただけないかと思いまし「やっぱり君もステキだと思うよね!?」
なんなのですか、この方は!いきなり暴漢になったのですが!?
私の言うことに食いぎみにそう言われ、噛み付くのかと思うくらいに前のめりで肩をガシッと掴まれてしまいました。
「そうだよね、みんな見たいよね!
おいで、可愛い僕の友達を見せてあげる!」
……ん? 友達?
一瞬疑問に思ったものの、雰囲気と勢いに流されるままについて行きました。
外から見ていた通り、中には植物が生い茂っています。しかし……
「これは何なのですか?」
言ってしまっては悪いと思いますが、そこに生えていた草は、そこいらの雑草よりもずっと気持ちの悪い見た目をしていたのです。
「かわいいよね! みんな僕の友達なんだ! 食虫植物って言って、ぱくって虫を食べるんだよ!」
……虫を?
「草が虫を食べるのですか?逆ではなく?」
「そう!普通の草は虫に食べられるだけだろう?でもこの子たちは違うんだ!虫を食べて養分にするんだよ!」
目を輝かせて話す彼は、最初に会ったときの鬱屈した雰囲気ではなく、確かに美男と呼べるものでした。
しかし、言うことの印象がそれを遥かに上回ってしまっております。
「まず、この子はね……」
そして、1つずつの植物についての解説が始まりました。
「一口に虫を食べるっていってもいろんな食べ方があるんだ!
落とし穴みたいな技だったり、粘ついた部分が張り付いて逃げられなくなったり、近づいてきたところを狙って閉じ込めたりとかね!」
「あー……そうですか」
ガラスに興味があっただけで、中のもののことなど考えてもいなかった私は、面食らってまともに話せていません。
確かにすごい秘密があるかもと期待をしましたが、虫を食べる草があるなどとは想像もしませんでした。
そんな上の空の私を気にせず話しかけていた彼でしたが。
「あそこに生えているのはハエトリソウって言うんだけど、ちょっと見ててごらん!?」
肩をつかんで無理矢理体の向きを変えられた私は、彼の指差す先を見るしかありません。
その草は2枚の真っ赤な葉っぱが貝のように並んでいて、まるで口を開けているような形をしています。
あまりに毒々しい赤色ですので、特に気持ち悪いと思っていました。
少し経つと、そこに1匹の虫が飛んできて草の上に止まりました。
すると、止まるのとほぼ同時にぱくっと口を閉じるように動いたではありませんか!!
「は!?あの、動きました!!!」
「そう、動くんだよ!それがこの子の一番可愛いところ!」
「風とかじゃないですよね?本当に自分で動いていますよね?」
「もちろん!」
さっきまでの、ただ雰囲気に流されているだけの私はもうどこにもいませんでした。
ただ、このハエトリ草とかいう草が、草なのに動くということにとりつかれてしまったのです。
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