新月を追って

響 あうる

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第1章

【2話】はじまり

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 入部して間もなく、夏の大会に向けての練習試合が増え、その日も隣県での遠征試合があり、旅館に戻った時には夜になっていた。
 夕食を終えて部屋に戻ると、今回は親睦も兼ねてなのか各学年2人ずつ、6人が同室のようだ。敦志が自分の部屋に戻り引き戸を開けると、3年生の笹山、松島が広縁の椅子に腰掛け、笹山に至ってはガラステーブルに足までのせている。


「お疲れ様です」

 一応、と声をかけて中に入ろうとするが、既に布団が6組敷かれているので居場所があまりなかった。
 テレビのギリギリ前まで寄せられた座卓に肘を置いて座っていた外村が、あぁと返事をして視線を向けてきて、それにつられるように全員の視線が敦志に注がれた。
 居心地の悪さを感じながら、視線を振り切るように座卓と布団を挟んだ反対側のわずかに残った畳に腰を下ろした。
 誰も見ていないテレビをBGMに、3年生たちが何かを楽しげに話している。
 ふと、顔を上げると、まだ敦志を見ていた外村と目が合った。その整った顔の口角がわずかに上がると、さすがに敦志もドキリとして顔を下げ、視線を逸らした。


「なんか、喉渇いた~」
「おい1年、ジュースでも買って来い」
「あ…はい」

 突然の言葉に顔を上げると敦志は、今この部屋に一年が自分しかいない事に気づいた。返事をして立ち上がった。
 パシリなんてよくあることで、そう気にも留めず、全員から注文とお金を預かり部屋を後にした。


 重い音を立てて引き戸と、その外のドアが閉まるのを確認して外村は立ち上がった。つられて全員が外村に視線を向ける。
 外村は、今しがたまで笹山が目を落としていた雑誌の、今にもはち切れそうな水着の女の胸を見ながら口を開いた。










「あれ、中西何してんの?」

 自販機の前で、ジュースを買っていると同室の1年生、奥野に声をかけられた。パシられてジュースを買いに来ている事を伝えると


「えー、俺も持つよ、お前の分もまだだろ」
「…わりぃ、ありがとう」
 
 流石に4本買うと手一杯になって、自分の分など買えそうになかったので、奥野が来てくれて助かったと思った。お互い、3本ずつジュースを持って部屋に戻る事にした。


「戻りましたーっ」

 部屋に戻ると、雰囲気が一変していた。全員の視線を感じながら、3年にそれぞれジュースを届けて座卓に残りを並べた。


「奥野、お前は見張りな?誰か来たら、追っ払って」
「え?…はぁ…」

 外村の手が奥野の肩に置かれた。くるりと後ろを向かされ、そのまま押し出されるように引き戸の外に連れて行かれてしまった。
 バンッと音を立てて引き戸が閉められると、同時に緊張が張り詰めた。


「ちょっと来い、中西」

 笹山が呼んだので、そのまま何の気なしに広縁に近づくと、待ち構えていたかのように誰かが背後に回った気配がした。

――え…何?
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